宰相の息子1
今日の夜会は特別だ。
一週間後にヴィエンヌ王国へ使節団として赴く我々のために催された夜会である。
「誉れある使節団に選ばれた紳士淑女の諸君、おめでとう。我が国を代表する貴族として恥ずかしくない行動をとり、他の国々の王侯貴族たちと良き関係を築いてくれることを期待する」
陛下の励ましと言うべきお言葉を貰い、選ばれたメンバーで一通り挨拶を済ませた。
エドワード殿下の例の婚約者も何とか型通りの挨拶は辛うじて出来るようになっていた。
流石は王妃殿下と言わざるを得ない。
アリス嬢の貴族令嬢らしからぬ振る舞いは社交界でも有名だ。
あのシルバー夫人ですら匙を投げたと聞いた時はどうなるのかと肝を冷やした。王妃殿下は一体どんな魔法を使ってアリス嬢のやる気を引き出したんだ?
挨拶後は、我々が目に入らないかのようにダンスホールに一直線に向かってしまった事だけが残念でならない。いや、挙げればきりがないのだ。所作がまともに見えるだけマシと思う他ない。
それにしても相変わらず殿下はアリス嬢に振り回されているようだ。学園に在籍中も何かと構われていらっしゃった。
『義理とはいえ、アリスはキャサリンの妹だ。僕とキャサリンが結婚すればアリスは僕の義妹という事になる。家族としての付き合いを今から深めた方がキャサリンも安心するだろう』
そう言われると他人である僕たちは殿下に何も言えない。エドワード殿下はあくまでもアリス嬢を「未来の義妹」として可愛がると宣言されたのだから。
あの時、不敬を承知で進言するべきだったと今でも悔いる。
結局、殿下とアリス嬢は恋仲になってしまったのだから。
しかもキャサリン様との婚約を破棄してまで何も持たないアリス嬢を選ばれた。そのせいで我が国は良い笑いものだ。頼みの綱のキャサリン様は帝国に行かれてしまった。我が国の未来は暗いな。
使節団に選ばれた僕らは、他国との交流を増やして王国の汚名を少しでも雪がなければならないというのに、よりにもよって、元凶まで一緒に行く事になるとは……我が国最大の問題児たちは人の苦労も知らずに暢気に踊り続けている。
「いい気なものですね」
全くだ。
ん?
「憂う事など知らないとばかりに好き勝手に振る舞っていますわ。あれで王族とは世も末ですわね」
思わず頷いてしまった。
僕同様にエドワード殿下たちのダンスを鑑賞しながら二人に対して毒を吐くのは婚約者のジュリエットだ。
可憐な容貌に似合わず毒舌だ。
「もっとも、王族といいましても所詮はあの側妃を母に持つ王子殿下。王族がどういうものなのか真に理解できていないのでしょう。頭の出来は兎も角、思考回路はお花ちゃんと同等というレベルなのでしょう。国王陛下唯一の子というだけで不慮の事故や突然の病に陥ることがないのは本人達にとっては喜ばしいですわね」
ジュリエットは外交官を父に持つ伯爵家の令嬢だ。
僕よりも諸外国の動向に詳しい。我が国が他国からどのように見られているか良く理解しているのだろう。
だが、今は夜会。僕にだけ聞こえる位の小声で話しているけど近くに両陛下が居るんだ。お願いだから自重してくれ!我が国には「不敬罪」というものがあるんだ!




