国王1
息子がおかしい。
恋に狂っていると言った方が正しいのかもしれん。
だがな、狂うにしても限度というものがある。
現状把握が全く出来ておらん。
アリス・ブロワの教育課程を一緒に観ていたというのに「成長している」とほざいた。
エドワードは「早足で歩いていた」というが、アレは、走っていたのだ!「歩き方もカーテシーも上手くなった」とも言ったな。
それはそうだろう。
王妃の命令で「矯正ロングコルセット」を身につけておるのだ。
普通のコルセットなら腰回りですんでいるが、特注で造らせた「矯正ロングコルセット」は太腿まである。
素材も特注だ。
腰回りのコルセットはギプス素材を使っている。
あれでは“しな垂れかかる”ことは出来ん。
太腿のコルセットは普通素材を使用していたが、腰のコルセットと紐で繋がっているため走る事は困難だろう。嫌でも、淑やかに歩かなければならない。
「食事も静かでシェフに感謝を伝えている」と言うがな、それも王妃が、アリス嬢だけに特別デザートを用意させているからだろう。
クリームをたっぷりの甘ったるい菓子。見ているだけで胸やけしそうな菓子だ。
王妃が食後のデザートを餌に「静かに食べさせる」ことに成功している。シェフに感謝を伝えるにしても恐らく王妃の入れ知恵だろう。そうすれば「もっと美味しい菓子を用意してあげましょう」とでも言ったのだろう。そうでなければ、あの娘に、そんな芸当は出来ん。
シェフへのお礼の言葉は兎も角、他は観ていただろう!
アリス嬢が高位貴族の令嬢として初歩の段階を踏めたのは、彼女自身の努力でも何でもない!
特製コルセットと特別な菓子のお陰だ!
何故、それが分からんのだ!?
「エドワードは恋に盲目になっておる」
「今更なにを仰っているのです?前からではありませんか」
王妃に相談したら、呆れた表情と言葉が返ってきた。
「いや…それはそうだが。あれは流石に見逃せないぞ?目の前で起こっている事が正確に把握出来ておらん。エドワードには公務も任せているものがあるのだ…大丈夫だろうか……」
「ご安心ください、陛下。エドワード殿下は公務は普通です。特に優秀という訳ではありませんが、特別に不出来という訳でもありません。可もなく不可もなく業務にあたっております。おかしくなるのは今のところ婚約者が関わった時だけです」
「そ…そうか……」
王妃が大丈夫だと言うのなら間違いはあるまい。
一部不穏な言葉を言われた気はするが大した事ではないだろう。
「矯正ロングコルセット」は、コルセットとガーターベルトと足した感じです(笑)
努力嫌いのやる気ゼロの令嬢には、強制的に出来るようにするアイテムが必要なんです!




