第4話 女神との出会い
彼女は地面に降りると瞬く間に空間全域を凍結させ、氷の墓標を生み出した。
俺を食らっている魔物を凍結させて動かなくさせて何もかもを白く染め上げた。
ただ一人、俺だけを残してそれ以外の全てを凍らせ、ゆっくりと空から舞い降りる。
「な……何で」
真っ白の長い髪、神秘的な何かを思わせる少女は俺の方へと顔を向けていた。
「……俺を…………助けてくれたのか」
助ける理由なんてものは無い、彼女と俺は初対面で会ったことすらない。
それに俺には恩を返せるほどの力もない、身体の欠損だってある。
彼女には何もしてやれないのだ、彼女の求める何かを俺はできない。
「俺はクズだ……何もできやしない。勝てると思って戦って、結局負けてる。お前に助けられたってどうせまた同じような間違いを犯す。だから…………何で助けた……俺には何の力もないんだぞ……それを知ったらきっとお前は俺に失望する」
俺は何もしてやれない。
助けた後の見返りはない。
「だから……俺に……」
彼女が俺を助けた所で俺には何ができる。
この森から出るときの足手纏いになる、血だらけの俺がいれば魔物はきっと寄ってくる。
俺はまた誰かを犠牲にするのか、誰かの足を引っ張り続けるのか。
だったらもう嫌だ。
俺に優しくするな。
希望を持たせるようなことはしないでくれよ。
「生きててくれてありがとう」
彼女は強がって俺を抱きしめた。
小さな身体で「もう大丈夫」だと包み込んだ。
そして俺が一番欲しかった言葉をかけた。
ふざけた世界に飛ばされて、友達に置いていかれて、周りの人間に罵倒されて、知っている奴が全員死んでいて、死にたくないって、生きたいから戦った。
最初から勝負になんてなってなかった、一方的にやられていた。辛かったし痛かった。
誰も味方のいないこの世界で頑張って生きていこうとして、それでも何もできなくて、そんな自分が嫌で嫌で仕方なかったから。
「俺には何もない……夢や希望にさえ裏切られたんだ、俺には何もないんだぞ」
目の前の少女に優しくされるような奴じゃない、どうしようもないただのクズだ。
「私はあなたが欲しい」
その笑顔に救われた。
「ああ……ああああああああああああああ」
今まで仕舞い込んで、取り繕って誤魔化して、塞ぎ込んでいた全ての物がこぼれ落ちた。
誰にも話せず、友達を傷つけたくないから黙っていた掃溜の感情が際限なく溢れ返る。
「俺には何もない……何もなかった。お前が思っているほどろくなヤツじゃない……」
何の力もない、大切な友を助けることができなかった俺でいいのか?
何もできない、ダメなやつでいいのか?
逃げてばっかで自分1人じゃ何もできないやつでいいのか?
もっと他にいい奴がいっぱいいる、そいつでいいだろ。俺なんかじゃなくてもいいだろ。俺には何の力も無いただの愚かすぎる人間だ。
助けると言った友に、共にあろうとした仲間を俺は裏切った。
口先だけで現実は何もできないただのガキだった。
力があると思い上がり、勝手に理想を描いた馬鹿野郎だ。
「大丈夫、頑張ったんでしょう。どうにかしようって戦って生き延びた、それは誇っていいことだと思う」
ああ、そうだ。
頑張ったんだ。何もなかったから何かを得ようとした。魔法が使えなかったから誰よりも先に剣を持った。騎士の人達に頭を下げて、嫌な顔されながらも剣を借りて訓練をした。
けれど勇者でもない俺はまともに振ることなどできず、剣に振り回されるだけ。隣にいる勇者が軽々と振り回す剣を俺は持つことすらできなかった。
そして剣が無理だったからどうにかして魔法が使えないかどうかを試した、書庫に入り浸って文献を漁って、何かないかと必死に探した。
それでも魔法を使う手立てはなく、俺が本当の意味で無力だと思い知らされた。
でも諦めきれなかった。絶対に俺は諦めたくなかったから、書庫に再び入って知識を蓄えることに専念した、いつか出る外の世界のために言葉を覚えるように努力した。
力がなくたってついて行きたかった、あいつらと同じ道を歩んで行きたかった。
だから頑張ったんだ、何も得られなかったから頑張ったんだよ。
全部が無駄だと知らずに頑張った、積もる事のない塵だとしても何かしていたかった。
「俺のせいで傷ついた人がいた。俺のせいで失った人たちがいた」
俺のせいで失われた、俺たちを呼ぶために使われた120万の命。
そしてその中には当然無力な俺を呼び寄せるためだけに使われた物だって入っている。
何もできやしないのに、何十万という命を奪った。
「それでも私は許すし、必要とする」
「なんで俺に優しくする、何で俺なんかを……」
「必要だから、他でもないあなたが私にとって必要だから」
要らないと言われ続けた、必要ないと思い続けた。
この世界に来て一度でも受け入れられた事はない、魔力適性がないからゴミだと言われて、全ての人たちから冷たい目を向けられた。
だから要らない人間、必要なパーツではない。必要だったのは勇者たちで俺は要らない。
そうじゃないのか、俺は要らない人間なんじゃないのか。
「俺は居ていいのか……必要じゃない人間なんじゃないのか」
なのに彼女は笑って抱きしめてくれた。
悲しくて、辛くて、苦しくて、悔しくて、死にそうで、それでもまだ希望は残っていた。
「ありがとう……ありがとう。俺を必要としてくれて」
ずっと苦しかった。誰からも拒絶されて、それを口にしてしまえば友人からも拒絶されるのではないかと怖かった。
魔力適性のない俺を全ての人が拒絶したとしても、たった一人、必要だと言ってくれた人のために、俺は君のために生きよう。
「私はユノ」
答えはもう決まっている。
「俺は……水成、水成だ」
差し出された手を強く握った。
次回、怒涛の伏線回収