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第14話 レッツゴー

タイトル変えようかな

【1】


「ああ…………さぶっ」


 朝起きて肌寒いのを感じて布団を手繰り寄せる。


 最近は割と暖かくなっているのだが、そう簡単に冬が終わるわけもなかった。


 特に朝方は寒いままで、こうして布団の中でぬくぬくとしていたいと思うのは当たり前のことなのだ。

 だがいつまでも布団の中にいるわけにもいかないのが現代人の辛いところ。


 ペットじゃあるまいし何もせずに生きているような環境は整っていないので、頑張って布団から出てまともな服に着替える。


 椅子の上にかけられたジャケットを引っ掴んで自室から出て、寒さをどうにかするべくリビングにある暖炉に薪をぶち込もうと薪入れの箱に手を突っ込むが中身が空っぽだった。


 ここ最近は寒いからとちょくちょく投げ込んでいるのが仇となったのか、それともユノがリビングにいる時間が長くなったからなのか、真意はきっと分かりたくないが、仕方ないので納屋にでも取りに行こう。


 この家のすぐ隣にある小さい倉庫のようなものだが、なんかいろんな物がある。


 余った薪とかはあそこに入れているので取りに行こうと玄関に歩き、適当に靴を踏んで外に出て、吹き抜ける風に鳥肌を立てて腕を摩っていると。


 まだ日が昇りきっていない薄暗い時の中で、地面に座って何処かを眺めているユノがそこに、これから昇るであろう朝日を待つように膝を抱えて座っていた。


「ねぇ水成、サクラって見れるかな」


 ユノの視線の先には確かに朝日があった、けれどそれよりも前に冬を越して葉を落とした木々がある。


「去年とか見れたんならきっと見れるだろ」


 ズボンのポケットの中に震える両手を突っ込んで彼女の横に歩いた。


「先生がね、異世界に綺麗な木があるからってサクラを作った。その木はとても綺麗だったけど今まではそんなに好きじゃなかった。また一年経っちゃったって感じで寂しくなるから。でも今年は少しだけ楽しみ」


 笑う彼女と白い息が天に上る。そう笑ってくれるのならあの人は十分だろ。


「そうだな……桜はいっぱい種類があるから、あれが木がどの桜かは知らないが春になったら咲くだろうな。まあ、そんときは桜餅でもなんでも用意してやるよ」


「じゃあその時を待ってる」


 そう言って立ち上がったユノはついた土埃を払ってから背伸びして大きく息を吐く。


「なんか変なこと考えてたらお腹すいちゃった、食事にしてね」


「了解。薪とったらすぐ戻る、それまで適当に待っててくれ」


 家に戻っていくユノの後ろ姿を見送ってから納屋に行き、積み上げられた薪を両手いっぱいに持ってから足で納屋の扉を閉めた。


「あ……食紅ってあんのかな」


【2】


 食事を終えて片付けをしているときに、ふとリビングのソファで寝転がっているユノを見ているとある事を思い出す。


 今までも何度か疑問に思ったことはあったが、別に知らなくてもどうにかなる場面が多かったこともあって置き去りにしてしまっていたけど、いい機会だから聞いてみよう。


「なあユノ、領域って俺にも出来るのか?」


 まず俺は領域についてそんなに知らない。


 ユノがこの世界を領域や世界と称していること、そしてゼインが思い描いた理想郷が領域だったということの二つしか知らない。


 だが今までの感じからすると魔力適性、いわゆる属性を介した何かには見えない。

 もしもそれが【凱殻】と同じような魔法とは違うもので出来ているのなら俺にだって出来る可能性はあるのだ。


「……できないことはない、むしろ存在そのものが心性領域みたいなものだし」


「じゃあ俺にもその……心性領域とやらは使えると?」


 聞き直すとソファで寝転がってきたユノが座り直し、クッションを背中に当てるような作業をしながら話を続けた。


「領域は術者の世界を外側に展開する魔術、だから世界とは相容れないの」


 世界とは相容れない。魔法は世界のルールに従ってできる奇跡とかなんとかのはずだから。

 と、そこまで思い出したところである物が引っ掛かった。


「魔術……魔法じゃなくて?」


「うん」


「もしかするとだけど……別物? 魔法とは魔術は全くの別物?」


「言ってなかったっけ?」


 そうだったかと首を傾げるユノだが、あの顔は言ってないというより知らなかったっけ? という物だ。

 そんな気づかなかった、初耳だみたいな顔しても俺が知るわけないだろ。


 ムカついたから晩飯に嫌いな物一個入れてやろう。


「言ってないから今教えてくれ。自分で調べるのはめんどくさいんだから」


 書庫に行けば何かしらの資料は残っているかもしれないが、あそこはかなりの蔵書があるので一つ探すのにも膨大な時間を要することになり、日が暮れるだけでは済まない可能性があるのだ。


「多分この辺は知ってるだろうけど……魔法は魔力適性によって行われる。むしろ適性自体が魔法の素みたいな物だから、それがないと詠唱をしても魔法は発動しない」


 この辺は知っている。最初にユノから聞かされている内容と同じだ。


「でも魔術は媒体が違う。魔術はその人そのものを媒体として扱う『自身を魔道具として魔法を使う』って言ったらいいのかな。でもこれは魔力適性をメインじゃなくてサブに使うだけだから水成には使えない。あなたができるかもしれないのは固有魔術、心性領域」 


「固有魔術……心性領域?」


「術士の世界、その人物の心の在り方を外側に展開するやつで、その一定範囲内では術師にまつわる特殊な能力が発動し続ける」


 それを聞いた時、真っ先に思い浮かんだのはゼインの後ろ姿だった。

 遥か昔の光景を眺め続けているだけの世界。今に思えばあの世界は彼の心の在り方を映し出していたのかもしれない。


「本人の人生観や今までの知識経験をもとに形成されると言っても、いくつかの種類に分かれていて、恐怖、祭祀、性、死、病気、文化、人生。大まかに分けるだけでもこのくらいあるけど、実際は戦いのために生み出された物だから、どれもこれも敵を倒すための自分なりの処刑台になってる」


 その言葉の羅列は何処かで聞いたことがあるような気がしたが、全く思い出せない。

 ゼインの本にでも書かれていたのだろうか、いつか思い出すからまあいいや。


「その領域ってやつは魔力適性を使わない。術士の内側を外に出すだけだから適性とかは一切関係ない。あくまで心の在り方を外側に出すだけ……あってるか?」


「それで大体合ってる」


 魔力適性がなくとも使えるのなら、俺にも習得が可能だ。


 なのになんでユノはこんな物を一度も教えなかったのか。

 その答えは言わずともすぐに返ってきた。


「心性領域は本人の世界。その人物に対するすべての終着点。だから一種の頂だと思って。何年も武に時間を費やし、何年もの間訓練を重ねて初めて理解して展開することができるのよ? 今すぐには無理。最低でも年単位の修練が必要になってくる」


 人生観や知識経験、それらが確立すると言うことは長い年限をかけて悟りを開いたような物。自分を理解してしかもそれを外側に展開するなんて芸当は10年そこそこの若造にはできない、らしい。


 だからこそ、強い。


 領域を使えると言うのは長い年限を費やし、修練に励んだ者の結果。


「この際いいタイミングだから言うけど、領域使いと出会ったら戦わないこと。彼らには絶対勝てない」


【3】


 領域の話が終わった後、いつも通り修行するため森の中に入り、武術の型に倣って技を放って枝をへし折るが、綺麗に折ることはできずに裂けたような切り口だった。


「領域……か。俺にもできればな」


 俺が使えるのは【凱殻】と【共鳴止水】だけで、それ以外の技は存在しない。


 そして勇者が死んでしまうという人魔大戦の時間は着々と迫っているのに、俺はまだ弱い。

 魔物には勝てるようになり、【凱殻】のおかげで多少の無理も効くようになった。


 だからこそ、強くなった今だからこそ分かる。


 輝樹の、勇者の強さには及ばない。


 俺はあいつより弱い。


 なのに勇者を殺すことのできる敵に俺が太刀打ちできるのか、そいつに勝つ事ができるのか。ある程度の武術を身につけて、人を超えた身体能力を得てもまだ超えられない。


 そして俺には遠距離攻撃手段がない。


 拳の間合いはあっても1メートル。それ以上は攻撃できない。


 投擲などで誤魔化しているが武器がなければ俺は遠くの敵になす術もなくやられる。


 ユノは武器ありきの戦いだと武器を失った瞬間に死ぬから、という理由で俺に拳で戦う事を提案したが、それは今になってみれば『誰にも盗られることのない武器である魔法』が使えない俺の精神を本来意図しない形で抉った。


「俺の世界ってなんだろな」


 今俺がいる場所はユノの世界、そしてゼインはこの世界によく似た物を領域としていた。

 本人の知識や経験から領域は作られる、そこまでくるとここはユノが過去に経験した場所をもとに作られている世界という事になる。


 あの家は彼女が住んできた場所、ユノはここら一体すべてを神の力とやらの恩恵もあるんだろうが再現した。


「ここしかないって場所、俺の世界……」


 俺の経験なんて高が知れている。だがここしかないって場所は分からない。

 少なくともここはユノの世界だ。

 俺の世界じゃない。


「自分で見つけないとダメか」


 ただ何かを吸収するだけで、訓練して強くなるだけで、それでいいのか。

 人の真似をしているだけでは領域使いのようなこれから戦い相手には勝てないんじゃないか。

 オリジナルには勝てないんじゃないか。


 実際にユノに教わっても俺は彼女に勝てた試しはない。教わっているだけでは上には行けない。

 真似ているだけではこれから先、戦っていけるのだろうか。


【4】


「外に出ても良いか?」


 夕食の際にそう切り出した。

 だがそこで領域の話をする事、このままではいけないと思っている事は言わなかった。ただ直接的でなくたってユノを傷つける可能性があった。


 面と向かってユノに対して「アンタに教わってちゃ勝てない」と捉えられる可能性もあったから、本当にそう思っているわけじゃなくても傷つけないわけじゃない。


 全て俺の落ち度だ。


 ユノの教え方が悪いわけじゃない。俺の世界を探しに行かないと、次の戦争で勇者を助けられるかどうか分からなかったからだ。


 ここから黙って立ち去ることも出来たが、ちゃんと面と向かって言いに行った。これから行う行動が相手への侮辱に近い物だったとしても、逃げる事はもうしないと誓った。


 そうして身構えたまま返事を待ってきたが、ユノは何を思ったのか承諾した。


 彼女がいう理由としては人魔大戦の期限はあと約2ヶ月あった事、少しくらい気分転換があってもいいんじゃないかと、一週間だけ外出を許可してもらった。


 だが一週間の間で何かを掴まないといけない事に時間は短すぎるような気もする。


 けれど時間はない、たった2ヶ月。そんな物すぐに経ってしまう。


 勇者の力も、魔法の才能もない俺が戦場で真っ当に戦うためにどれだけの力がいるか。

 武器の扱いは上手くなったがまだ心許ない、だから領域を使えるようにしなければならない。


 勝つために、守るために。俺が後悔しないために──


 何も失わないために戦うんだから、力をつける。


 そのはずなのに「お土産をよろしく」と言って笑ったユノは、心から笑っていなかったと知ってしまえた、ただの作り笑い、あいつが苦しいときの笑い方だと分かってしまった。

 誰かを心配させない為に大丈夫と言い張った時の、あの日見た作った笑いを垣間見て、


 ──俺は何のために世界を探すんだ。


 行動の意味を一瞬だけ見失った。



第三章開幕か、もっとゆっくりやりたかった。

とりあえずここで引きこもりは脱却し、お外の世界に出ることになったので冒険者ギルドとか、ランク査定とか、そう言った異世界的なことできるかもしれないので良しと

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