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決戦⑪

 俺の前には二人のアイナさんがいた。



 一人は、力なく膝から崩れ落ち地面をただ眺めている。

 もう一人は邪悪に満ちた笑顔を浮かべてこちらを向いている。



「この子は私の分身です。もちろん裏切り者はこの子。

 でもこの子を嫌いにならないであげてください。悪いのは私なんですからぁ。」



 【嫉妬の悪魔】はアイナさんの肩をぽんと叩き、

 同じ顔でアイナさんが絶対にしないであろう邪悪な笑みを浮かべる。


 俺は絶対にこいつを許さない。

 アイナさんを利用して、あまつさえアイナさんを深く傷つけた。



 拳を握る力が一段と増す。



「卜部さんは私を殴れますか?アイナのこの顔を。」

「当たり前だ!お前はアイナさんじゃないんだから!」



ザッ!



 【嫉妬の悪魔】は急に距離を詰め、俺の前で顔を突き出す。



「では、どうぞ。」



 【嫉妬の悪魔】は、先程の黒い笑みとは真逆のアイナさんの笑顔を見せる。

 俺は拳を振るうが、顔の直前でどうしても止まってしまう。



「ぐ……。」

「ほぉら。やっぱりできませんよね?だって、私たちお仲間ですもんね?」



 だめだ。中身が違うと分かっていても、どうしても拳が止まってしまう。

 アイナさんは、俺達を【暴食の悪魔】から救ってくれた命の恩人だ。


 殴ることなんてできない……。



「それじゃあ一方的にいかせて頂きますね。」


 【嫉妬の悪魔】はアイナさんと同じレイピアを取り出し、術を唱える。



「穢術:哀矜懲創(あいきょうちょうそう)】。」



 レイピアの切先が紺色に光り出す。



「卜部さん!避けてください!」



ドガーーーンッ!!!



 俺は寸前のところで、攻撃を交わすことができた。



「なかなかやりますね!それなら【穢土掌握:吒々々嚌処(インモラル・コラスィ)】。」



 アイナが呪文を唱えると、世界の色は一瞬だけ反転した。

 白は黒に。黒は白に。



 すると草原に突風が吹き荒れる。



「卜部さん。早く私を倒してくださいよ。」

「くそぉ……!」



 再度近づいてきたアイナに、拳を振るうが力がうまく入らず避けられてしまう。


 その瞬間。



「ぐぁ!!」



 切られた覚えのない箇所に、切り傷が発生する。

 何が起きているんだ?



「攻撃してこないなら、こちらから行きますよ。【穢術:屋烏之哀】。」



 レイピアの先から閃光が放たれる。

 修行の成果なのか、アイナの攻撃を避けることは造作もない。


 しかし、攻撃ができないんじゃ勝ちようがない。



「ぐぁあ!!」



 どういう仕組みか分からないが、どんどん切り傷が増えてくる。

 一発一発は軽いが、何度も何度もダメージを重ねられている。



「【穢術:屋烏之哀】!」



 俺は攻撃を避けようとしたが、

 何度も受けてしまった謎の切り傷の痛みで膝をついてしまう。


 まずい!直撃する!



「【神力解放:(ゴウ)】!!」



バチィンッ!



 閃光を殴って拡散させる。

 しかし、拳にはダメージを負ってしまった。



「私の【穢土掌握】は相手の罪悪感に反応して、かまいたちを発生させるんです。

 あなたが仲間を傷つけようと思う度に、身体は切り刻まれているんですよ。」



 アイナは笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄る。

 そして、俺の切り傷を指でなぞり出す。


「こんなに仲間のアイナを傷つけようとしたんですか?あなた、最低ですね。」

「ちがう……。」



ザシュッ!



 また俺の身体に深く傷がつく。


 違う……。こいつはアイナさんじゃないんだ。敵なんだ。なのに……。



「【神力障壁】!」

「おっと!」



 リーリィが俺とアイナの間に障壁を張り、無理やり俺達を引き離す。


「卜部さん。」


 リーリィが後ろから俺を呼ぶ。

 その声に反応して後ろを向くと、いきなりリーリィは俺にビンタした。



パシンッ!



「え?」

「しっかりしてください!

 アイナさんを悲しませたあの人は、【嫉妬の悪魔】です!」



 リーリィは唇をぐっと噛みしめて俺を鼓舞する。

 リーリィも俺の苦しみを理解した上であえて厳しい態度で接している。


 自分の中の矛盾と戦いながら、必死で俺を励ましてくれている。



 そうだよな。俺がこんなんじゃ駄目だよな。



「ごめん。俺どうかしてたよ。」



 俺はさっきよりもしっかりと足に力を入れて立ち上がる。



 1番苦しんでいるのは、アイナさんだ。俺じゃない。


 俺がアイナさんにしてあげられることは、

 目の前の【嫉妬の悪魔】を倒すことだけだ。

 

 そして、アイナさんを解放するんだ!



「あら、残念。立ち直っちゃいましたね。」

「もう同じ手は効かないぞ。【嫉妬の悪魔】。」

「もうアイナとは呼んでくれないんですね。悲しいなぁ。」


【嫉妬の悪魔】は、体をくねらせて悲しみを表現する。



 「それじゃあ、こういうのはどうですか?【穢土掌握:譎詭変幻(けっきへんげん)】。」



 アイナが呪文を唱えると、世界の色は一瞬だけ反転した。

 白は黒に。黒は白に。



「な、なに!?」


 【穢土掌握】は1個じゃないのか!?

 これまで戦ってきた【悪魔】は1つしか持っていなかったが、こいつは2つ持っているのか!?

 


「さぁ、ここからが本番ですよ。一緒に狂いましょ。」


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