決戦⑨
「誰が俺の女に手を出していいって言った?」
ガレノスのハンナへの攻撃はディードによって防がれた。
「ディードさん!?」
「よぉ。久しぶりだな。」
「よそ見してんじゃねぇ!」
ガレノスはもう片方の手でディードへ殴りかかる。
しかし、その拳はディードの目の前で止まってしまう。
「な、なに……?」
ディードの放つ殺気によって、
ガレノスの拳は自分の意思に反して止まってしまった。
ガレノスの拳がふるふると震えている。
「どうした?殴らねぇのか?」
「チッ!」
ガレノスは仕切り直すように一度、ディードから距離を取る。
「ディードさん!どこへ行ってたんですか!」
「お前らが修行の扉に入ってるときに【嫉妬の悪魔】の能力で
遠くへ転移させられちまったんだ。」
ハンナはディードに近づくと、身体が予想以上にボロボロであることに気が付いた。
「ディードさん……。」
「あぁ、神殿に戻るのに1回。この空間に入るのにもう1回。2回も【超越】を使っちまった。」
「2回も!?」
ハンナは急いで、ディードの身体を治癒しようと手を当てる。
「俺より先にあいつらを癒してやってくれ。生きる気力が薄れていってる。」
「でも――!」
「俺は大丈夫だ。」
ディードのまっすぐで力強い眼差しを向けられ、ハンナは従うしかなかった。
ここで従わなければ、ディードの漢気を否定してしまうように感じたからだ。
ハンナは急いで、二人の回復にまわる。
「てめぇ、どうやってククルの結界に入ってきたんだ?」
「細かけぇことはいいじゃねぇか。サクッと終わらせようぜ。」
ディードは拳をポキポキと鳴らして、臨戦態勢を取る。
「フッ、いいだろう。だが終わるのはどっち――。」
「あ、すまん。まだ話の途中だったか?」
ドゴーーーーンッ!!!
一瞬でディードは間合いを詰めて、ガレノスへ攻撃を浴びせ大量の血が放出する。
「グハッ!!」
「おらおらどうした!?」
ガレノスはディードの猛攻撃にガードがまったく間に合っていない。
放たれた攻撃がすべてクリーンヒットしている。
ガレノスの一面に血の水たまりができ始める。
「これで終いだ!【神術解放:豪】!!」
ドーーーンッ!!
「つ、強すぎる……。」
ハンナに回復してもらった二人は、座り込みながらディードの戦いを見ていた。
「あれが、最も神に近い男。ディードだ。」
最後の一撃を与え、ディードはこちらに歩いてくる。
「よう、ケー坊。あんなのに苦戦してるようじゃ、まだまだだな。」
「あんたが化け物なんだよ。」
戦いを見学していた2人は若干引き気味にディードを揶揄する。
「あーーはっはっは!!!!」
「!?」
後ろからガレノスの声がして、ディードは振り返る。
「最高だぜ!! あんた! ついにこの時が来た!!」
「殴られすぎて頭おかしくなったか?」
「そうかもしれねぇな! まぁすぐにお前もそうなるさ!!」
ガレノスはそう言うと、上半身に巻かれている真っ赤に染まった包帯が勝手に外れ始める。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
徐々にガレノスの皮膚があらわになり、
そこから今まで出会ったことのない大きさと濃さの邪悪な気配を感じる。
「な、なにが起きてるの?」
「まだ、本気じゃなかったってことか?」
「ふふふふ……。あーっはっはっはっ!!!」
完全に包帯が外れた瞬間、ガレノスのから激しい衝撃波が発せられる。
「チッ!【神術解放:鼇】!!」
ディードは術を唱えると、三人を匿うように覆いかぶさる。
ドガーーーーンッ!!
強烈な衝撃波は、辺りの草をすべて枯らしてしまった。
ディードの背中は、術を纏ったが相当なダメージを負ってしまっている。
「やっと本気になったってわけか?」
「あぁ。この姿になるには一定以上のダメージが必要だからな。」
「ワザとダメージを受けてた割には、必死にガードしてたけどな。」
ディードは3人に背を向けて、ガレノスの真の姿と対峙する。
ハンナ達は、ディードの背中を見て相当なダメージがあったとわかったが
ガレノスの放つ強大なオーラに震えて何も言い出せずにいる。
「大丈夫だ、あいつは俺が倒す。お前らはそこでじっとしてろ。」
後ろの三人にそう告げると、ディードはガレノス目がけて飛び込む。
「【神術解放:轟】!!!」
ディードの身体から白い煙が湧き上がる。
目が赤く輝き、筋肉が一段と盛り上がり肉体が強化される。
「おらぁああああ!!!」
ドンッ!!!
「な、なに!?」
ガレノスはディードの攻撃を腕で受け止めるどころか、甘んじて身体で受けた。
しかし、ガレノスは微動だにしない。
「その程度か? あまり俺を落胆させないでくれ。」
「余裕そうじゃねぇか!【神術解放:抂】!!!」
目に見えないスピードで連続した殴打の乱れうちを繰り出す。
ガレノスの身体に当たる音の凄まじさに、三人は思わず耳をふさいでしまう。
ドドドドドドドドドッ!!!!!!
「おらぁあああああ!!!」
「はぁ……。がっかりだよ。」
ドゴンッ!!
「!?」
ディードの連続打のすき間に1発、ガレノスはディードに拳を浴びせる。
「ガハッ!!!!」
ディードの動きは止まり、口から大量の血を吐き出し倒れこんでしまう。
「そ、そんな……。一発で……。」
「ディードさん!!」
ハンナはディードに向かって駆け寄る。
「来るな!!!」
ディードの一声でハンナは驚き立ち止まる。
その声と同時にゆっくりとディードは立ち上がる。
「じっとしてろって言っただろ……?」
「ほう。まだ立ち上がるか。」
「1日3回は未体験だが……。やるしかねぇな……。」
ディードは口に付いた血を腕で拭きとりながらそうつぶやく。
「ディードさん……、だめです……!!」
「本気出すか……!【神威超越】!!!」