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決戦⑦


 ここはどこや……?


 クロエは黄色の世界で浮遊していた。



 そうか、【暴食の悪魔】に最後の一撃を決められて死んでしまったのか。

 【悪魔】との戦いに最後まで協力できなかったのは悔しいけど、村長の仇は取ることができた。


 走馬灯のように自分の人生を顧みて、

 100点満点ではないにしろ、まぁ良い人生だったのかもしれない。



 クロエはゆっくりと瞳を閉じる。



「……エ様……。……ロエ様……!」



 視界を遮ると、聴覚が少し敏感になる。

 誰かが遠いところから声を発しているのが分かった。



 でももういいんだ。

 この世界の温かさで意識がゆっくりと落ちていく。



「クロエ様!!!!」



 コン……!?

 コンがどこかで私を呼んでいる!?


 クロエはしっかりと目を開き、辺りを見渡す。

 しかし、そこには黄色の世界が広がるだけ。


「コン!?どこにいるん!?」

「クロエ様!!起きてください!」



 起きてください?

 ウチはずっと起きてるで!


 いや、もしかしたらまたここは【暴食の悪魔】の技の中かもしれない!



「【輪廻転送】です!戻ってきてください!」

「わかった!すぐ戻るで!【神力展開:輪廻転送】!」


 クロエの身体と魂は水蒸気のように消滅し、黄色の世界から抜けだす。



パァン!!!



 急に視界に黄色以外の色が飛び込んでくる。

 それと同時に腹部に痛みが走る。


「痛ッ!!」

「クロエ様!!」


 コンは涙目になりながら私に抱きつく。


「コン!何が起きてたん!?」


 コンは私の服で鼻水と涙を拭いており、説明に時間がかかりそうだ。



 私の予想だが、マキシの一撃をコンが身を挺して受けてくれたようだ。

 そのあと、【縁切り】を繰り出してなんとか距離を取っている。


 その後、一撃を受けたコンの身体に私が移ったせいで腹部へ痛みが起きたんだ。

 うん。そうに違いない。


 マキシは元のいた場所で【縁切り】の衝撃で苦しんでいる。



「あと、一撃だったのに……。」



 コンが救ってくれた命。大切にしなければ。


「クロエ。これ。」


 リークちゃんが後ろから紙の塊のようなものを渡して来た。


「草の繊維で作った耳栓。あいつの使う技は催眠術。これで防げるはず。」

「ほんまに?ありがとう!」


 リークちゃんはウチらの戦いを後ろでずっと見ててくれた。

 きっとあっているはず。



 たしかに、―赫―と―蒼―は色の光を発生させて

 それを見せることで効果を発揮していた。


 現に目をつむることで効果を無効化することができた。



 ―梔子―については、発生時に甲高い音が鳴り響いていた。

 おそらくあれを聞いてしまうと効果を受けてしまうんだ。



「ありがとう、リークちゃん。」


 クロエはリークからもらった耳栓を狐耳に詰め込む。



「よっしゃ!これで決めるで!」

「技の仕組みが分かったところで避けることはできない!!!」

「ごめん!何言ってるか聞こえへんわ!!」


 おそらく、これが最後のチャンス。

 コン、リークちゃんが作ってくれた最後のチャンスなんや!

 絶対にものにする!

 

 クロエはマキシに向かって走り出す。



「うぉおおおおお!!!」



 まだ1回しか成功してないけど、あの大技を使うしかない。

 あれさえ決まれば、確実に勝てる!



「飛んで火にいる夏の虫とは。まさにこのことだ。

 誰が、技はあれだけと言いましたかね?」


 マキシがにやりと笑っている。

 嫌な予感がしたが、止まるわけにはいかない。



「これで終わりだ!!【穢術:喰紅―常闇―】!」



 マキシが術を唱えると、真黒な風が吹き荒れる。


 クロエは軌道を確認し目を瞑り避けようとするが、

 その規模の大きさに避けることができず風が肌に触れてしまう。


 その瞬間、



ドクンッ!



 な、なんや……!?

 身体が動かへん……!?


 急に足や腕が棒のように固くなり、その場でこけてしまう。

 呼吸をしようとするが、空気が体の中に入ってこない。

 心臓も止まってしまっている。



 し……、死ぬんか……?



「―常闇―は死の色。視覚や聴覚でなく、触覚に訴えかける。

 死の黒い風に触れたものは、自らの命を断つ。身体が勝手に自死を望むのです。」



 い……、息ができひん……。



 マキシはゆっくりとクロエに歩み寄る。


「これをしてしまうと、肉質だけでなく魂も固くなってしまうのであまり好きではないのですが。

 って聞こえてないんでしたっけ?」



 あかん……。

 このままじゃ……。



 クロエは倒れながらもマキシの姿を目で捉えている。

 徐々に大きくなるマキシの姿に絶望を感じる。



 すると、突然マキシの姿が見えなくなる。


「クロエ様に近づくなぁああああ!!!!」



 コンがマキシの前に立ちはだかっている。


 あかん……、コン逃げて……。


「妖術分身に何ができるんですか?」



ザシュッ!!



「あぁああ!!」


 コンはクロエの目の前でマキシの爪による斬撃を受ける。

 それでも、コンは何度も立ち上がる。



「コ……、コン……。に……げ、て……。」

「おや、まだ話せるんですか。」


 マキシは標的をクロエに変えて歩き出す。

 しかし、その足をコンがしがみついて止める。



「あの時……、村から逃げちゃった分……、今日は戦うんだ……。

 僕がクロエ様を守るんだ……。」

「!!」



 あの時、私は村長を守れなかった自分の弱さに後悔していた。

 逃げようとするコンを一瞬恨んだりもした。



 でも、悔しかったのは私だけじゃなかったんだ。


 コンだって、悔しかったんだ。



 誰かを守れる自分になりたい。

 そうやってここまで頑張ってきた。


 その頑張りの成果を発揮するのは今しかないじゃないか!



 誰か守れるなんて、漠然とした願いじゃない。



 私は、大切な人を守れる自分になりたいんだ!



「あぁああああああああ!!!!!」

「な、なに!?立ち上がるだと!?」


「コン……!!いくで……!最終奥義や……!!」

「……はい!!」



 コンは黄色に輝き、クロエの右手へと吸収されていく。

 クロエは輝く右手を構えて、マキシに全力でぶつける。




「【神妖力奥義:縁堵(エンド)】!!!!」



ドンッ!!!!



「グハァッ!!!」


 クロエの右手が触れた瞬間、とてつもない衝撃がマキシの身体を駆け巡る。

 しかし、それだけで倒しきれるほどの衝撃ではない。



「はぁ……はぁ……、最終奥義がこれで終わりか……?」



 クロエはマキシの目の前で倒れこむ。


「ふふ……。限界だったのか……。ならその魂もらうz――。」



ドクンッ



「な、なんだ……?身体が……動かねぇ……。」


ドサッ



 マキシはその場で崩れ落ちる。

 マキシが倒れた先にクロエが倒れており、ちょうど目が合う。



「貴様……、俺様に何をした……?」

「まさか同じような技、つこうてくるとは思わんかったわ……。

 【縁堵(エンド)】はあんたの中の縁をすべて阻害する奥義。くらったらそこで、ジ・エンドや。」


 クロエは苦しみながらもニコッと笑う。



「ウチの……いや、ウチらの勝利や……!」

「くそがぁあああああ!!」



 マキシは灰のように砕け、風によって散っていった。



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