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決戦⑥

 

 クロエは野良の妖狐だった。

 父と母との3人暮らしでひっそりと暮らしていた。


 父親が他者との関わりを極端に嫌う変わり者だったからだ。

 それでも両親との生活に不満はなく、愛の溢れる生活をしていた。



 しかしある時、人間によって父と母は殺されてしまった。



 村に災いをもたらす妖怪だと、訳の分からない理由をこじつけられて。

 両親は人間に襲われながらも私をかばい、逃がしてくれた。



 私は必死で逃げた。



 家の周りでしか遊んでいなかった私は、世界はこんなにも広いんだと実感し、

 それと同時にそんな世界を一人で生きていかなければならないんだと悲観した。


 なんとか逃げ切ることはできたが、

 子供一人で1から生活基盤を立て直すことなんてできなかった。


 私は極度の空腹や脱水症状で動けなくなり、

 意識がもうろうとしているときにコンが現れたのだ。



「クロエ様!これを飲んでください!」

「あ、あなたは……、だ、れ?」

「私はコンです!さぁ!お水を!」



 それが私とコンの出会いだった。



 なぜ私の名前を知っているのか?なぜ私を助けてくれるのか?

 あの頃は疑問にすら思わなかった。いや思おうとしていなかった。


 ただただ私は一人じゃない。ということが嬉しかったんだ。



 いろいろ詮索して、コンがどこかに行ってしまうことの方が怖かった。



 こうしてコンと二人の生活が始まった。

 狩りの仕方や、飲み水の確保場所など様々なことを教えてもらった。


 そして、二人で旅をしているときに妖狐の村 フォキシを発見した。


 そこは、妖狐だけの村で同族というだけで仲間に入れてくれた。



 特に村長にはお世話になった。

 身寄りのない私とコンを家に住まわせてくれ、家族同然のように扱ってくれた。


 そして学校にも通い始めた。

 そこでは半妖として【妖術】の勉強が主な内容であった。



 【妖術】を勉強することでコンが何者だったのかが分かった。



 コンは私自身だった。



 孤独だった私が死ぬ間際に奇跡的に習得した【妖術】によって

 生み出された私の分身だったのだ。


 それでもその事実を知ったとしてもコンとの関係は何も変わらない。

 だってコンはコンだから!



 私がそのことを村長に話すと、


「そんなこと初めから知っていましたよ。」


 と、優しく頭をなでてくれた。

 村長は、そのことを知りながら私のもコンにも平等に接してくれていたのだ。


 私は村長の優しさに触れ、本当に信頼できる人ができたと心の底から思った。






「あなたの【妖力】。いただくわ。」

「みんな……にげろ……。」



 村を取り囲むように広がる炎。

 村を守るため侵入者と単独で戦う村長。


 そして村長の身体を腕一本で貫き、笑う女の表情。



 私は一生忘れられない。



「よ、よくも……村長を……。」

「【妖力】はこの人ので十分補充なんだけど、

 殺してほしいならおいで。お嬢ちゃん。」

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」



ドンッ



「コン!?」



 怒りに身を任せて、侵入者である【強欲の悪魔】へ突進する私をコンが抑える。



「どいて!コン!あいつを倒さんと村長が!」

「だめです!あいつには敵いません!逃げるんです!」

「村長がやられてるんや!やり返さなあかん!!」

「だめです!!」



 コンは断固として私を離してくれない。

 【強欲の悪魔】は言葉の通り、私たちには興味がないようだ。


 なかなか離してくれないコンへ、いつしか怒りの矛先は変わってしまっていた。



「離せ!!ウチの分身なんやったら言うこと聞け!!!」

「!?」



 やってしまった。


 コンに1番言ってはいけないことを、私はデリカシーもなく言い放ってしまった。



 孤独だった私を救ってくれた命の恩人に、私は最低なことを言ってしまったんだ。



 コンはその言葉を聞いて、驚いた表情を見せて下を向く。

 一度私を抑える力が弱まったと思ったが、私に目を合わせて力を入れなおす。



「分身がどうだとか関係ない。僕はクロエ様に生きてほしいんです!」



 コンはそう叫ぶと、バネのように姿を変えて私に巻き付いて空高く飛び跳ねた。



「それで……、いいんですよ……。クロエ……。」



 村長は身体を貫かれながらも、天高く飛び立った私たちを眺めて息絶えた。


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