トンブ討伐大作戦④
脇差なんて1度も扱ったことないし、あの女の顔!
リップに見えないからって、えげつないドヤ顔をしている。
「卜部さん!頑張ってください!」
リーリィの手前、これ以上卑怯な手は使えない。
神力展開もさっき崖から落ちる時に使ってしまった。
やるしかないんだ。
今の俺の全力をあの女にぶつけてやるんだ!!
ここが正念場。やらないと漢が廃る!!!
俺は、地面に置かれた脇差を全力で抜刀した!!!
あー持った瞬間分かる。これは【嫌われている】。
脇差がウナギのように手から今にも抜け出しそうだ。
ってどうすんだよ!?こんな状態じゃ戦えないぞ!
「どうした?怖気づいたか?」
ええい、ままよ!
この一撃に全てを込める。
俺は、脇差を全力で投げ捨てた。
「!?」
全力で投げ捨てた脇差は、コーリンよりもずっと右に飛んで行ってしまった。
「貴様、やる気があるのか?」
「あぶない!!」
リーリィが叫ぶ。
脇差の軌道を見ると、その先にはリップの姿があった。
このままでは直撃する!?
「神術では間に合わない!」
「やばい!」
ガキン!!
リップに直撃するかと思われた脇差は、違う方向から飛んできた矢に衝突し弾かれた。
「やべぇ!外しちまった!」
草むらから男の声がする。
リップを狙って矢を放ったのか?
「【十種刀:鳥籠】!」
コーリンが放った斬撃は、隠れていた男の周りの木々を全て切り刻んだ。
コーリンは素早く、リップの前に移動した。
「貴様、何者だ!」
「こ、殺さないでくれ!俺は飯屋の亭主に雇われただけなんだ!神がトンブ狩りをしているから殺せって!」
「ほぅ……、言い残したのはそれだけか?」
「ひぃいいい!!」
飯屋の亭主が暗殺の依頼をしていたのか!?
俺がポロッと話してしまったから?
コーリンは、刀を握る手の力を強めた。
そこにリップがコーリンの裾を掴み、怯えながらも首をふるふると横に振った。
「だめ……。かわいそうだよ……。怖がってる……。」
「わかったわ。」
コーリンは、リップの頭を撫でて刀を鞘に納めた。
「いますぐ立ち去れ。さもなくば、斬る!」
「あ、ありがとうございます!!」
男は一目散に森の中へと消えていった。
神様であるということは、命を狙われる危険があるということなのか。
認識を改めないといけない。
そう考えていると、コーリンがつかつかと近づいてきて、俺に深くお辞儀をした。
「リップ様を助けてくれて本当にありがとう。あなたのことを誤解していた。」
助けようと思って脇差を投げた訳ではないが、丸く収まったので良しとしよう。
「感謝してもしきれない。特訓の口利きをさせてくれ。」
「え、あ、ありがとう。」
「この森を抜けた先に、ザンバラという村がある。そこに修道院があるので、裏口から入って私の紹介で来たと伝えてくれ。そうすれば1発だ。」
「修道院?」
「あぁ。強くなるには、まず神職者になる必要がある。神職者になり神様と契約すれば、神様の神力を分け与えてもらえる。」
「しかし、神職者になるには10年程修業が必要なのではないですか?」
「大丈夫ですよ。あそこは特殊ですので。」
「特殊?」
「行ってみればわかる。」
コーリンにザンバラへの安全な行き方や食料などを分けてもらった。
「それでは、これで失礼する。行かなければならないところができたのでな。」
「え?それって?」
「もちろん。飯屋だ。」
今まで見た中で1番怖い顔をしていた。
飯屋の亭主、死んだな。
強くなるためには、まず神職者にならなければならない。
コーリンの言っていた 特殊 というのも気になるが、行かない手はない。
俺たちは、ザンバラへと歩みを進めた。