終わりの始まり⑩
この最後の1セットが終わると【大罪の悪魔】が攻めてくる。
なんとしてもこのセットで仕上げないといけない。
そんな焦りの気持ちからか、修行は上手くいっていなかった。
「これでとどめ!【嫌悪解放:百万力】!」
「させるかぁ!【神術解放:豪】!!」
ドガーーーンッ!!
パワー最強系女子のスイとは組み手を行い、神術の強化。
「死角から攻撃してやるギョギョ。【嫌悪解放:海底逍遥】。」
「……。そこだ!!」
地面を水のように潜ることができるギョギョとは、
【強欲の悪魔】を倒したことで得られた攻撃を見抜く能力の訓練。
「だからドーンだって言ってんだろ!?」
「わかるかぁーーー!!!」
バーンとは、【嫌悪解放】のやり方の修行を行った。
しかし、どうしても【嫌悪解放】だけが上手くいかない。
どうしてなんだ?
「卜部。【嫌悪解放】は、自分の【嫌われている】対象をイメージすることが重要なんだ。」
「え?」
ここにきて【嫌悪解放】に対してやっとまともなアドバイスを
ローレンからもらうことが出来た。
「そうなのか?バーン?」
「当たり前だろ。それが大前提だ。」
「それを早く言えよ!」
初歩の初歩から躓いてしまっていたようだ。
ローレン達が来てくれて本当に助かった。
まぁ確かにバーンが解放する【嫌悪】と言えば1つしかないので仕方ない。
逆に俺は何に【嫌われている】のかさえ理解出来ていない。
そんなことを考えていると、
壁に立てかけてあったアイナさんのレイピアが音をたてて倒れた。
壁が動き出した。
もうそんなに時間がない。
「ローレン。俺、武器が上手く使えないんだ。おそろく【武器の神に嫌われている】んだと思う。
でも実際【武器の神】ケーゴに聞いたら俺のことを嫌っていないんだよ。」
この前ケーゴに直接聞いてみたが、別に嫌ってはいないようだ。
「それはそうさ。【嫌悪臭】と言うが、実際に【嫌われている】訳ではない。
この前話をしただろ?我々は、【世界】に選ばれてしまったんだ。」
ローレンの話は、いつも言い回しがよくわからない。
【感化の神に嫌われている】からなのか、それとも元々の話し方なのか?
「つまりどういうことだ?」
「【創造の神】が神を創ったという話は知っているか?しかし、神とて人間だ。
磁石に必ずS極とN極があるように、負のエネルギーというものは溜まってしまう。
たとえ、【創造の神】の正のエネルギーで創られたとしてもだ。」
じゃあもしかして……。
「【嫌われ者】とは、神という役職についた者の負のエネルギーを請け負っている。
いわば【請負人】だ。」
そうだったのか。
それが【嫌われ者】の真実。
負のエネルギーと一緒に神の能力の反転が映ってしまう。
それがまるでその神の能力に【嫌われている】ように見えたことから
【嫌われ者】と呼ばれているんだそうだ。
また【嫌われ者】が殺されると、
その人が死ぬ瞬間に放出される”正”命力によって負のエネルギーが中和され
神の能力だけが映る。
それが【嫌われ者狩り】の真相だ。
そんな理屈だなんて全く知らなかった。
だからケーゴは俺のことを嫌っていなかったのか。
「よし、時間がない。やってみるしかない!」
こうして俺は【嫌悪解放】の最終修行に取り掛かった。
「リークちゃん。何してるんですかー?」
アイナは扉の前で座り込んでいるリークに声をかけた。
リークはぶつぶつと独り言を喋りながら黙々と作業をしている。
その時、壁に立てかけてあったレイピアが音を立てて倒れた。
壁が動き始めたんだ。
でもおかしい。
リークちゃんが外で見張りをしている時は、壁が動き出す前に
扉を開けて声を掛けてくれていた。
外にいるディードさんも同じ時間に声を掛けてくれるのであれば、
もう扉が開いてもいい頃だ。
あれ?これってもしかして、まずいんじゃないですか?
外でディードさん居眠りとかしてるんじゃないですか!?
今までのディードの言動や行動を鑑みると、
そんなことが起きてもおかしくないと思ってしまう。
早くみんなに知らせた方がいいんじゃないか?
でも修行の邪魔になっちゃうし……。
うむむと悩んでいる時、急に側で座り込んでいたリークが立ち上がる。
「できたぁあああ!!」
ガキンッ
「あう!!」
急にリークが立ち上がるものだから、頭が顎にクリーンヒットしてしまった。
「いたたた。何が出来たんですか?」
アイナは顎をさすりながら、リークに質問をした。
「ふふふ。エジリンに私が負けるわけないんだよ……。」
不敵な笑みを浮かべるリークは、ドヤ顔で鍵を天高く掲げた。
「この空間を内側から開ける鍵だ!!」
「ジャストタイミングッ!!」
今1番必要な物を作ってくれたリークちゃんに、最高級を感謝をあげたい。
取りあえず、現状をリークちゃんに説明した。
「なに?それはまずいな。早速使おう。」
「お願いします!」
ガコンッ
リークは、扉に鍵を刺した、次の瞬間。
【不正アクセスを検知。直ちに内壁の収縮を開始します。】
けたたましいブザーと共に、とんでもないアナウンスが流れた。
「えぇえええええええ!?」
「チッ!エジリンの奴こんなシステムまで盛り込んでたのか。」
「ど、ど、ど、どうするんですか!?」
「「なんだなんだ!?」」
ブザーとアナウンスを聞きつけて、みんなが扉の前に集まってくる。
「なにか不審なアナウンスが聞こえたんだが?」
「大丈夫。この鍵を完全に回せば、ロックを解除できる。」
そういうとリークは力いっぱい、鍵を捻る。
しかし、びくともしない。
「んんん!!あれ?回らない。」
ゴゴゴゴッ
その間に、壁がすごい勢いで迫り始める。
「やばい!壁がめっちゃ早いスピードで迫ってきてるで!?」
「リーク!貸せ!俺がやる!」
ケーゴがリークをどかして、鍵を全力で捻る。
「うぉおおおおお!?びくともしねぇぞ!!」
そ、そんな!!
ケーゴさんの力で動かなかったら、私達の中じゃ誰も回せない!!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
みんながパニックに陥る。
この中で1番力があるのが、ケーゴだとみんな暗に認識しているからだ。
嘘……。
こんなところで私達死んじゃうの……?
ドガーーーーンッ!!!!
「「!?」」
爆発音に全員が一斉に振り返る。
そこには、壁が迫りくる中でも修行を辞めていなかった卜部の姿があった。
身体に煙を纏いながら卜部はスタスタと扉の前へと歩いてくる。
「卜部。お前まさか。」
「あぁ。……俺がやるよ。」
そう言って、卜部はケーゴから変わり鍵を握りしめる。
「【嫌悪解放:持たざる者】。」
ガチャンッ!
卜部の【嫌悪解放】によって強化された力によって、外の世界の扉は開かれた。