終わりの始まり⑦
「ディードさんが【絶望の悪魔】を封印したんです。」
「えぇえええええ!?」
ハンナさんはしれっと驚愕の事実を口にした。
ディードさんが神の敵である【絶望の悪魔】を封印した?
そんな昔からディードさんは生きていたのか?
っていうかそりゃ強いわけだ。
その1つの事実だけで様々なことが頭を巡る。
「【大罪の悪魔】達は、
その【絶望の悪魔】を復活させようとしているのですか?」
リーリィが真面目に話を進めてくれる。
たしかに今気にしなければいけないところはそこだ。
「おそらく、リップの【神力奥義】を使わせるんだろ。」
アセナさんが答える。
リップの【神力奥義:虚構記憶回廊】は王都を防衛する際に使用した技だ。
外からの干渉を受け付けない空間支配術でありながら
過去に起こった事象を否定し無かったことにすることが出来る。
この技で俺達が魔獣の攻撃を受けたという事実を
無かったことにし、傷を癒してくれたのだ。
ということは、【大罪の悪魔】はリップの【神力奥義】を使って
【絶望の悪魔】の封印を無かったことにしようとしているのか。
「でも、ディードさんがいるからまた封印できるんじゃないですか?」
「いえ、もうあの技は使えません。
ディードさんは封印の術と一緒に力の半分を失いましたので。」
力の半分を失ってあの強さなのか!?
化け物過ぎるだろ!
「でも【絶望の悪魔】の封印が無かったことになれば、力は戻るんじゃ?」
「いや、【封印された】という事象だけが無かったことになるだけで、
【封印の術を撃った】ということまでは無くならないはずだ。」
それじゃあどうすればいいんだ……。
「だから、封印を解かれ前にあいつらをぶっ倒すしかねぇ!」
ディードはリークの首根っこを捕まえてみんなの前に戻ってきた。
リークは話を聞かずに何かの研究をしていたみたいだ。
「魔力は月の満ち欠けによって大きく左右され、
満月の日は通常の2倍以上の力が発揮される。
おそらく、次の襲撃は満月の夜。」
「そ、それっていつなんですか?」
「3日後だ。」
み、三日後にまたあいつらが来るのか……?
「で、でもディードさんがいるから大丈夫ですよね……?」
「それはわからん。あいつらはまだ【穢土掌握】を使ってなかったからな。」
【大罪の悪魔】だけが使える固有結界【穢土掌握】。
その結界内では【悪魔】だけに特殊効果が付与され、
神には毒性のある穢れが充満する。
それを使っていないのに俺達はあいつらにまったく歯が立たなかった。
「だから、特訓するぞ。」
「でも3日じゃ時間が足りませんよ!」
「その為に私が連れて来られたんだ。あの、いい加減降ろして貰えますか?」
「あ、すまん。」
リークちゃんは地面に降ろされて、服を正してこほんと咳ばらいをした。
「この鍵を使う。」
リークは、エジリンに貰った鍵を皆の前に差し出す。
「この鍵は私の友達に貰ったものだ。
ただの鍵だと思っていたが、研究すると隠された機能が見つかった。」
リークは鍵を空中で差し込み、右に2回グリグリと捻って見せた。
すると、何もなかったはずの空間から扉が出現した。
「な、なんだこれは!?」
リークはその扉をおもむろに開き始める。
中は真っ白な空間となっている。
「この扉の中の空間は、時間の干渉を一斉受けない。
無限の時を過ごすことができるいわば、修行にもってこいの場所だ。」
みんながどよめきだす。
これなら3日しかない時間でも何日だって修行ができる!
「ただ、この空間は12時間に1回消滅するから
消滅前には出てこないといけない。もし出てこれなかったら。」
「出れこれなかったら……?」
「一緒に消滅する。」
「おう……。」
できれば消滅は避けたいところだ。
でも中では時間の干渉を受けないのだから、
消滅する時間なんて分からないんじゃないだろうか?
「だから、外で最低一人は見張りをしていないといけない。
そして消滅する前に中に声を掛けて、みんなを脱出させないといけない。」
「まぁそれはなんとかなるだろ!よし!善は急げだ!」
そういうとディードはみんなの背中を押して無理やり扉に押し込む。
「ちょ、ちょっと!まだ心の準備が!」
「心の準備なんてもんはいらねぇよ!いるのはやる気と元気のみだ!」
「「うわぁあああああ!!」」
バタンッ
こうしてディードの勢いに押されて、扉の中へと入れられてしまった。
「よし!それじゃあ修行を始めるぞ!」
「あのー……、ディードさん?」
「ん?卜部なんだ?」
「全員扉の中に居る気がするんですが?」
「……、へ?」