終わりの始まり⑤
そんことあるわけない。
コーリンが裏切り者だなんて。
コーリンは悪魔が作った黒い空間から姿を表した。
「コーリン。こいつらを殺してよ。」
「はい。わかりました。」
コーリンは悪魔の依頼を拒む姿勢を見せずに、すんなりと承諾した。
「なんで……、俺達を裏切ったのか……?」
コーリンは俺に近づき、
納刀状態で鞘を俺の顔をかすめるように地面に振り落とした。
ドガーーンッ!
「……すまん。」
コーリンにこんな力あったか?
ただ刀を振り下ろしただけで、地面はへこんでしまった。
今のが顔に直撃していたらどうなっていたやら。
「コーリン。そっちじゃない。神の方だよ。」
「はい。」
コーリンは俺に背を向けて、倒れているケーゴの方へと向かう。
本当にやる気なのか?
そうだったら黙って見ている訳にはいかない。
「させるかよ!」
俺はコーリンの背中に向かって殴りかかる。
「【魔剣:霞・暗転】。」
コーリンは振り返ることなく、刀に手をやる。
少し刀を抜刀した瞬間に鞘と刀の隙間から黒い煙のようなものが現れ、
一瞬にしてコーリンの周りを覆い尽くす。
煙幕が張られた景色に向かって、俺は拳を突きつける。
しかし、さっきまでいたはずの場所にコーリンはおらず拳は空を斬る。
「!?」
煙幕が俺の拳の勢いで少し晴れた時、真横にコーリンが刀を構えて立っていた。
ザシュッ!!!
「グハッ!!」
コーリンはなんの躊躇もなく俺の左腕を切断した。
「あぁあああああ!!!」
最初はコーリンのことだから
催眠術や洗脳に合っているんじゃないかと考えていた。
しかし、この斬撃にはしっかりとした意思がある。
コーリンは自分の意思で悪魔側についているんだ。
「う……。どうして……、どうして裏切ったんだよ!!」
コーリンは俺の言葉に少しだけ動揺したが、
それでもなお刀を振りかぶる。
やられる……!!
ガキーーーンッ!!
「おいおい、これはどういう状況だ?卜部。」
「ど、どうしてここに!?」
コーリンの振り下ろした刀を、突然現れた男によって受け止められた。
たくましい身体に似合わない神父服。
そこに立っていたのは、俺の師匠のディードだった。
「久しぶりだな。コーリン。随分大きくなったな。」
「ディードさん……。」
ディードは腕の勢いでコーリンの刀を振り払う。
そして瞬時に元凶を判断し、ニコニコ笑っている男へ向けて一瞬で距離を詰めた。
しかし、ディードと男の間にガレノスが割って入る。
「旦那に指一本触れさせねぇ!」
「ほう。いい心掛けだ、な!!!」
ドンッ!!
ディードの拳がガレノスの身体に命中する。
「グハァッ!!」
ガレノスはディードの攻撃うけて口から血を吐き出す。
しかしディードの攻撃はそれだけで止まらず、
あの巨体からは想像もつかないほど早い連撃をガレノスへ浴びせる。
やっぱりディードは強い……。
俺達じゃ相手にならなかった【憤怒の悪魔】に一方的にダメージを与えている。
「コーリン。何を見てるんだい?
ガレノスを助けてあげてよ。僕たち、仲間でしょ?」
その言葉を聞いて、コーリンはディードに刃を向ける。
ガキンッ!!
「コーリン。お前の刀は、大切なもんを守るための刀だって教えたはずだよな?」
ディードはまたしても腕で刀を受け止め、コーリンと対峙している。
二人は目と目を合わせている。
コーリンの切っ先がわずかに震える。
「……なるほどな。それが答えか。
なら、遠慮なく暴れるぜ。【神術解放:轟】!!」
術を唱えると、ディードの身体から白い煙が湧き上がる。
目は赤色に輝き、筋肉がいつも以上に盛り上がる。
肉体強化なのか?
ディードは優しくコーリンの刀を振り解き、元凶に一瞬で近づく。
煙はディードの動きについていけずに、遅れてディードの軌道をなぞっている。
「オーエン様に近づくな!」
今度は二つ括りの女の子が術でオーエンとディードの間に黒い空間を作りだす。
「そんな魔術効くかよぉ!」
バリィイイン!!
「そ、そんな……。ウチの魔術が!?」
ディードは一発の殴打で、魔術を破る。
黒い空間はガラスのように粉々に崩れ落ちてしまった。
「野蛮だね。」
「この距離で避けられると思うなよ?」
ディードは拳を強く握り、オーエンに向かって一撃を狙う。
「もとより、避ける気はないよ。」
ディードの拳が当たりそうになった瞬間、
後ろから盾にするように小さな男の娘を前に出した。
「!?」
それを見たディードは間一髪のところで攻撃を止めた。
「て、てめぇ……。」
「おや、攻撃を止めてしまうのかい?
助かったね。リップ。」
オーエンはリップの両肩に手を置いて、耳元で囁く。
な、なんでリップくんが悪魔側に!?
「それじゃあそろそろ帰ろうか。目的も達成したことだしね。」
オーエンはリップの頬に手をやる。
リップは嫌そうな顔はするものの抵抗を見せない。
「コーリンも行くよ。」
「……はい。」
コーリンは刀を鞘に納める。
「コーリン……、行くな……。」
「……すまない。」
オーエンたちは、女の子の作った黒い空間へと帰っていく。
「それじゃあまた会おう。次に会う時は【絶望】をプレゼントするよ。」
「コーリン。」
ディードがコーリンを呼び止める。
コーリンは振り向かず、その場で立ち止まる。
「強くなったな。」
コクンッ
一言も発せず、ただコーリンは頷いて黒い空間へと入っていった。
「どうして……。どうしてだよ!!コーリン!!!!」
俺は消えていく黒い空間に向かって、叫ぶことしかできなかった。




