終わりの始まり➁
「それでは向かってください。
魔術師 クロム のところへ。」
【伝達】は冷静な声でそう言い放った。
そんなことあるわけない。
だって、クロムは俺達を守って……。
「ちょっと!今クロムって言いましたか!?」
「お、おい。よせ卜部まで。」
アセナさんが俺を抑え込む。
「離してください!今クロムって言いましたよね?!」
「どうしたんだ?落ち着け!」
「俺も任務に参加させてください!確かめなきゃいけないことが――。」
ドスッ
アセナさんが俺の首筋に手刀を決めた瞬間に、目の前が真っ暗になった。
「卜部は急にどうしたんだ?リーリィ分かるか?」
「……はい。」
「分かった。私の部屋に来い。話を聞こう。」
こうして神たちは儀式の間から立ち去り、自分の部屋へと帰って行った。
「ん……。痛てて。」
「おう。起きたか。」
「卜部さん大丈夫ですか?」
目が覚めると、見知らぬ天井と首の痛みが同時に飛び込んできた。
おそらくここはアセナさんの部屋だろう。
和風な感じがしてとても落ち着く雰囲気だ。
あれ?俺なんでここにいるんだっけ?
「そうだ!クロム!」
「落ち着け。クロムなんて名前いくらでもいるだろ?
それに奴は神職者だったんだろ?」
「た、たしかに……。」
俺が寝てる間にリーリィがアセナさんと
クロムのことについて話をしていたのだろう。
たしかに偶然の一致ではあるが、クロムは魔術師ではなく神職者だった。
それにもうこの世にはいない。
「すいません……。落ち着きました。」
「うむ。茶でも飲め。」
「どうも。痛てて。なんか首がすごく痛い。」
「虫にでも刺されたんだろ。」
アセナさんは落ち着いて茶をズズズと啜っている。
虫刺されというよりかは、打撲のような痛みだがまぁいいか。
「リークと一緒に【怠惰の悪魔】と戦ったんだって?」
「まぁ、俺はなにもしてないんですけどね。」
「そうか。他に何か変わったことはなかったか?」
「え?他に?」
どうしてそんなことを聞くんだろう。
特に変わったことはなかったはずだ。裏切り者の存在を除けば。
しかし、まだアセナさんが完全に白だとは断定できない。
ここで話してしまうのはリスクがある。
「いえ、別に。」
「ふーん。そうか。」
アセナさんは何か意図のあるような相槌をうち、再度茶を啜る。
隠し事をしていると、なぜか沈黙がいつも以上に辛くなる。
俺は何か話題を探すように話しかける。
「こ、このお茶美味しいですね。何茶なんですか?」
「粗茶だ。」
「……。あ、さいですかー……。」
一言で会話をシャットアウトされてしまった。
ふたたび訪れる沈黙に、気まずさが増していく。
そわそわしている俺に感づいてか、アセナさんは俺に問いかける。
「小僧。何か隠し事をしているな?」
「うぇ!?べ、別にぃ~。ねぇ!リーリィ?」
「ぴゃっ!?そ、そうですよぉ~。」
アセナさんは絶賛スイミング中の二人の目を鋭い眼光で睨む。
今なら蛇に睨まれたカエルの気持ちがわかるぜ。
「まぁいい。話せるようになったら話せ。」
「そ、そうします……。」
なんとかごまかすことが出来た。
もう半分ばれているようなものだから、アセナさんが白であることを願う。
沈黙が気まずくなくなったと思った矢先、爆音が神殿内に響き渡る。
ドガーーーンッ!!!
「な、なんだ!?」
「奥の部屋の方から聞こえたようだ。行くぞ。」
俺達は急いで部屋を出た。
同じ音を聞いて、廊下にはリークも顔を出していた。
「なんの音?」
「わからない。確かめてくる。リークとリーリィはここに居ろ。
卜部一緒に来い。」
「わ、わかりました。」
俺はアセナさんと一緒に神殿の奥へと走り出した。
「なんだよ、人が気持ちよく寝てたのによぉ。」
ケーゴは爆発音を聞いて、自分の部屋から廊下へと出ていた。
廊下は爆発による砂埃で前が見えない状態であった。
「チッ、【神力展開:神器解放・八手団扇】。」
ビュンッ
ケーゴが術によって空間から団扇を取り出し、一度扇ぐだけで
廊下に充満していた砂埃は消えていった。
砂埃が消えると同時にひとつの人影が浮かび上がった。
「へへへ、旦那についてきて正解だったな。強そうな奴がいるじゃねぇか。」
「なんだてめぇ。」
そこには、上半身を包帯で巻いている男が居た。
「【憤怒の悪魔】ガレノス・ダーガイン。俺は強いぜ?」
「悪魔か……。ようやく俺の前に現れやがったな……。」
「なんだ?震えてるのか?」
「あぁ……。嬉しくてな。武者震いだ。」
ケーゴは、これから始まる戦いに胸を躍らせ震えている。
「できるだけもってくれよ。一瞬じゃ物足りねぇからなぁ!」




