トンブ討伐大作戦③
「先程は助けていただき有難うございます。私は、【幸運の神】を継承したリーリィといいます。あと、卜部さんはゴミ虫じゃないですよ?」
助けてくれたお礼と自己紹介を華麗にすませるあたり、やはりリーリィは育ちがいいな。
それに引き換えこの女は!
「失礼致しました!申し遅れました私、コーリンと申します。リップきゅ……、リップ様の護衛をしております。」
「リップきゅん?」
コーリンは俺の言葉に反応し、鋭い眼光を浴びせてきた。
おもわず漏らしそうになるくらい怖かったです。はい。
「見たところ、その者は神職者はおろか、【嫌われ者】ではございませんか。何故このような者と一緒に旅を?」
「卜部さんは、私を助けてくれたんです。そして私が一人前の神様になるために一緒に神殿までついてきてくれると約束したんです。」
「ほう……、この者が……。」
コーリンは僕を上から下まで目線で品定めをしている。
「まぁ悪い者ではなさそうですね。先程の非礼の代わりと言ってはなんだが、これを持つといい。」
コーリンは、ブレスレットを差し出してくれた。
「それは、【嫌悪臭】を少し弱めてくれる魔導具だ。まぁその強烈な臭いには効くかわからんがな。」
手に持つと不思議な力を感じる。
ありがたく付けさせてもらおう。
しかしこの女、意外と優しいのか?
強くならないといけない俺にとって、あの女の強さは理想だ。
「助けてくれたついでにお願いしたいんだけど、俺を強くしてくれないか?」
「はぁ?」
「リーリィと一緒に神殿に行かなきゃいけないんだ。君のような強さが欲しい。」
「ふっ、貴様には無理だ。諦めるがいい。」
「ちょっと!そこをなんとか!」
「お姉ちゃん、もう終わった……?」
「!?」
ガサガサと茂みから、小学生くらいの男の子が出てきた。
その子は、ショートパンツにサスペンダーといった見たからに育ちのよさそうな格好をしている。
それにお姉ちゃん?
「リップきゅん!待たせてごめんねぇ~。もう大丈夫だよぉ~」
女の態度が一遍した!?
サバサバ系のシスター剣士といったイメージは180度変わってしまった。
猫撫で声のお手本を間近で体験した気分だ。
リップきゅんって言ってたから、おそらくあの子が【神様】なんだろう。
「こわい豚さんは、お姉ちゃんが倒したからもう大丈夫だよぉ。」
「お姉ちゃんありがとう……。」
「ありがとう言えてえらいねぇ~。」
「ねぇ、リーリィ。姉弟で神様と神職者の関係にはなれるの?」
「いえ、姉弟はそういった関係にはなれません。神職者は必ず血の繋がっていない他人でないといけませんので。」
「なるほど。じゃあブラコンではなくショタコンということか。」
「え?ブラコン?」
これはチャンスかもしれない。
俺は強くなり、リーリィを神殿まで連れていかなければならない。
そのために手段は選ばない。
「ねぇリップくん。お姉ちゃんのこと好き?」
「貴様!リップきゅんに気安く話しかけるな!」
「お姉ちゃんのこと 好き かなー?」
まずは、コーリンの気を引く話をリップにもちかける。
おそらく普通に話しかけると 無礼だ! とか 不敬だ! とか言われて、即座に切り捨てられかねないからね。
リップから好きと言ってもらえるんじゃないか?という淡い期待が、俺を遮らなければいけないという気持ちより勝ってくれれば、もうこっちのものだ。
案の定、コーリンは俺を遮るのを辞めてリップの答えを待っている。
意外と扱いやすいなこいつ。
突破口を開いたら、すかさず次のフェイズへと移る。
「す……、す――」
「あー、そんなこと恥ずかしくて言えないよね。ごめんごめん。」
「ちょ、おい!今言いかけてたろ!貴様!」
「ところでさ、お姉ちゃんね、俺が必死にお願いしてるのに、ふっ貴様には無理だ。ってお話聞いてくれないの!ひどくない!?」
「貴様ぁ!!」
「怒らないで!リップくんも怖がってるだろ!」
「ぐぬぬ……。」
これはいけるぞ。
我ながらゲスい作戦だが、知らない異世界に来てどうやったら強くなれるかも分からない状態なのだ。
リーリィのため、利用できるものは利用させてもらう。
「リップくんからも優しいお姉ちゃんに言ってあげてよ!お話聞いてあげたらって。」
「お姉ちゃん、お話聞いてあげたら……?」
「ぐぬぬぬ……。わかった……。」
「本当に!?」
やった!ついにやったぞ!
これで強くなれる!特訓をしてくれる!
心の中で小躍りをしていると、コーリンは自分の脇差に手をやり、俺の方へと投げ捨てた。
「貴様の素質を見せてみろ。その脇差で私に一撃を与えることができたら、口利きしてやってもいい。だが、一撃も与えられなかった場合はこの話は無しだ。さっさと立ち去れ。」
えぇぇぇぇぇ!!




