終わりの始まり
「だ・か・ら!ドーンからのズガーンだって言ってんだろ!?」
「わからねぇよ!!」
神殿に帰ってきた俺は、
バーンに【嫌悪解放】のコツを教えてもらっていた。
「分からねぇ奴だな。あの女の子はもうできるようになったぞ?」
「えぇ!?コーリンできるようになったの!?この説明で!?」
「あぁ。実に的を得ている指導だった。」
コーリンも意外と脳筋なのか?
そういえば神殿に帰ってきてから、まだリークの部屋に行っていない。
ちょっと見に行ってみるか。
「ちょっと休憩。頭冷やしてくる。」
「わかったよ。ドーンと冷やして来い。」
「もうドーンとかズガーンはやめてくれ!」
ドーン恐怖症になってしまったかもしれない。
ディードとかもそうだけど、なんで俺に教えてくれる人はこうなんだ?
【指導者の神】にも嫌われているのか?
いや、そんな神はいないか。
「おーい、リークちゃーん。」
「なに?今忙しいんだけど。」
意外と元気そうだった。
まぁ帰る途中のトランスポーターでも切り替えていたし、
そこまで軟な人間でもないようだ。
「何やってんの?」
「これの解析。」
リークはエジリンからもらった鍵を差し出してくる。
「エジリンのことだから、きっとただの鍵じゃないはずなんだ。」
確かに普通の鍵とは形状が少し変わっている。
なにか特殊な鍵なのだろうか?
「何かおかしな動きはあったか?」
「いや、別段普通だよ」。」
リークが言うには、この神殿の中に悪魔側の内通者がいる。
それの調査としてできるだけ他の人達にも気を配っている。
内通者がどこで聞いているかも分からないの、この話をする時は
直接的な言葉は使わないようにしている。
「そうか。できるだけ皆と二人きりになるのは避けろ。」
「分かってるよ。」
「よぉリーク。これ直しといてくれ。」
【武器の神】のケーゴが入ってくるや否や、地面に剣を放り投げた。
一緒に行動をしたことがないので、どういう人なのかは分からない。
でも、なんか常にサングラスを掛けていて非常に怪しい。
それに態度も悪い。
「人に物を頼む態度じゃないだろ。」
「あぁ?」
考え事をしていると、つい思ったことが口に出てしまった。
「随分と調子に乗ってるみてぇだな。卜部。」
ケーゴは、ヤンキーのようにズイっと顔を近づけてくる。
現世の俺だったら、これだけで絶対にちびっていただろうが
俺はもう強くなったんだ。
それにこいつが裏切り者かもしれない。
少し吹っかけてみる価値はある。
「乗る調子がない奴よりかはマシだろ?」
「なんだと!?てめぇ!」
ケーゴは俺の挑発に乗り、胸倉を掴んでくる。
ぐえっ!
強くなったとはいえやっぱりヤンキーは怖い!
「はい、そこまで。ケーゴ直さないよ?」
「……。チッ。」
リークの一言によってケーゴは胸倉をつかむ手を放した。
「それに、卜部は【強欲の悪魔】も【怠惰の悪魔】も倒してる。」
「うっせぇ!」
地面に置いてあったバケツを蹴り、ケーゴは去っていった。
「ふぅーー。リークありがとう……。」
「鎌のかけ方下手か。ケーゴは多分違うよ。
ケーゴが内通者ならおそらく、もう神殿は滅んでる。」
「へ?」
「ケーゴは私達の中で1番強いから。」
俺は……、そんな奴に喧嘩を売ったのか……?
自分の無鉄砲さに怯える。
それなら始めに言っておいてくれよ!
怖い思いをしたと椅子に座ると、リークが片耳を押さえて天井を見ていた。
「緊急招集だ。儀式の間に行くよ。」
緊急招集?
何か問題でもあったのか?
俺達は儀式の間へと走っていった。
儀式の間につくと、俺が知らない神様たちが他にもゴロゴロといた。
神様だけでなくバーンまで招集されているあたり、緊急度合いが窺える。
「よぉ。なんか起きたのか?」
「全然わからない。」
「卜部さん。」
リーリィが人をかき分けてこちらに来る。
さっきまでアイナさんとお茶をしていたようだ。
「急な招集申し訳ない。緊急事態です。
魔術師による【神殺し】が発生しました。」
「なんだ、それだけかよ。そんなのいくらでもあったろ。」
近くにいたケーゴが悪態をつく。
他の神様は【伝達】に対して悪態をつかない辺り
やっぱりケーゴは特別扱いされているのか?
「たしかに今までにも【神殺し】はありました。
しかし、今回は見過ごせません。
五大元素神である【地の神】が殺されたからです。」
その言葉を聞いて、神様たちはどよめき出す。
五大元素神は、他の神よりも強力な力を持っている。
五大元素神の【嫌われ者】でさえも強さは群を抜いている。
バーンやギョギョを見ればその強さがわかる。
でも、そんな強い神様が魔術師にやられたのか?
じゃあその魔術師はとんでもなく強いのか?
それに神様は、殺されるとその力を奪われてしまう。
そんな強い奴にさらに神様の力まで与えられたら……。
「これから伝える者には、その魔術師の討伐を任務とします。」
そういうと【伝達】は次々と神様の名前を呼んでいく。
これまでの任務では呼ばれたことのない人数だ。
それほど、危険な任務なんだ。
「以上の神は直ちに現場へ向かってください。」
メンバーの発表が終わり、最後まで俺達は名前を呼ばれることはなかった。
なんだかホッとした気分になってしまった。
「なんで、俺は呼ばれてねぇんだよ!」
ケーゴが【伝達】に向かって文句を言う。
それをアセナさんが止めにかかる。
「おい、いい加減にしろ。大勢の神が神殿を留守にするんだ。
お前がここを守らないでどうする。」
「……チッ。」
アセナさんはケーゴの扱いに凄く慣れている感じだった。
「それでは、向かってください。」
【伝達】は、ケーゴを無視して話を進めた。
過去に何度も同じようなことがあったかのような華麗なスルー。
強いからと言って特別扱いされているのはどうなんだろうか?
と、そんなことを考えていると【伝達】は最後にターゲットの名前を伝えた。
しかしその名前はきっと間違っている。
だって、そんな訳絶対にないんだから。
「魔術師 クロム のところへ。」