表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/125

時計仕掛けの因縁⑪


 エジリンは私とお父さんに時計台の原理を丁寧にみっちり教えてくれた。

 父はまだついていけていたが、私は全くと言っていいほど分からなかった。


 エジリンの話を聞くに、もはや機械だけでなく化学の分野にまで

 手を伸ばしている。


 やっぱりエジリンはすごい。


「すげぇな……。たしかにこれなら今の時間の定義よりもずれが少ない。

 世界の基準になるぞ。しかし……。」

「しかし?」

「ざっとした計算だが、これを作るのに10年はかかるぞ。」


 約束の年月は5年だ。

 時間が足りなすぎる。


「まぁやるだけやってみるしかねぇな!

 設計図もあるんだ。原理が分からなくても作ることは出来る。

 よし!街の機械屋を全員集結させる!

 これは大仕事になるぞ!」



 こうして、街をあげた一大プロジェクトが幕を開けた。


 広場には街の機械屋が総動員していた。

 そこでエジリンは時計台の原理について説明した。


 ほとんどの機械屋が頭の上にはてなを浮かべていたが、

 設計図があることを告げると途端に元気になった。


 そして、大事なことがあると父はみんなの前で10年かかるものを

 5年間で作り上げなければならないこと、皆の力が必要であることを

 説明し頭を下げた。


 私は父が頭を下げたところを見るのは初めてだった。

 そして、みんなで作業に取り掛かった。



 そして、3年の年月が経った。


 決して残り2年で完成する進捗ではなかったが、機械屋の四季を下げることなく

 作業に集中させられているのを見てさすが街の長だと感じた。



 そんな中、父は倒れてしまった。

 働き過ぎによる過労が原因だった。


 父はみんなが休んでいる時も手を止めなかった。


 父の離脱は、街の機械屋を絶望させるのに十分すぎる出来事だった。


 作業中も日に日に諦めの言葉をつぶやくものが増えていき、

 顔を出す人数も徐々に減っていった。


 そしてとうとう広場に集まるのは私たち2人だけになってしまった。



「すまん……。俺が倒れたばっかりに。」

「お父さんのせいじゃない!」


 私たちは父のお見舞いに病院へと通った。

 この時はまだ父の回復に一縷の望みを託していたんだろう。


 しかし、父の背中は病院に通うにつれて徐々に小さくなっていった。


「リーク。頼みがある。」

「なに?」


 父は、決して私の顔を見ずに窓の外を眺めながら私に声を掛けた。


「時計台を完成させてくれないか。……お前なら出来るんだろ?」

「……え?」


 父は続けて、私に話しかける。


「俺には不思議な力があるんじゃないか?」

「どうしてそれを……。」

「わかるさ。お前の父なのだから。」


 私の方に振り向いた父の顔は、今までで見たことが無いほど

 弱々しく、でもとても優しい表情をしていた。


「その力を今まで使わなかったのは、クリエイターとしてのプライドだろ?」


 父に言われて、ハッとした。

 たしかに、【神の力】があるのに私はそれを必死に隠していた。


 自分の力で作らないと意味がない気がしていたからだ。


「その力もお前の才能だ。恥じることはない。

 お前にしか出来ない仕事だ。やってくれるか?」

「でも……、私に出来るか――。」

「リークなら出来る!!」

 

 横で聞いていたエジリンは大きな声で私のネガティブな感情を吹き飛ばす。


「僕の……、僕の友達のリークならできるよ。」


 そんなのずるい。

 出来ない訳ないって思っちゃったじゃないか。


「行こう!エジリン!」

「うん!」


 エジリンの手をぎゅっと握って、現場へと走っていった。

 あと2年しかないんだ。


 7年分の作業を2年で終わらせる。



「【神力展開:創造(クリエイト)】!」


 私たちは真夜中に【工学の神】の力を使って、時計台の製作に取り掛かった。


 まだ【神の力】を使うことに少しばかりの抵抗があったのか、

 作業はもっぱら夜に行うことが恒例となった。


 時計台の中で作業を行い、外でエジリンが見張りをしてくれている。


 【神の力】を使えば、街の機械屋を全員集めても敵わない程の

 作業スピードを実現できたが体力が持たない。


 もっと身体を鍛えておくべきだったと何度も後悔した。


 【神の力】を使い過ぎて、倒れてしまったこともあったが私は毎日作業を続けた。


 日に日に形が出来てきて、街の人達は騒ぎ出していた。


 しかし、不思議と夜の作業の時間には誰も訪れることはなかった。

 おそらく父が口利きしてくれていたのだろう。



 そして、ついにその日はやってきた。


「エジリン。これで最後だよ。」

「うん!」


 私たちは最後の部品を一緒に手で持ち、はめ込んだ。


ガチャンッ


「「できたぁああああああ!!」」


 やり遂げたんだ。

 私たちは2人でこの時計台を完成させたんだ。


「リーク。見て。」

「うわぁあ。」


 私たちは時計盤から外の景色を眺めていた。


 ちょうど日の出の時間で、

 太陽の光がまるで私達を祝福してくれているかのように輝いていた。



 私はこの景色を一生忘れない。

 二人で作りあげたこの景色を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ