時計仕掛けの因縁⑩
水龍杯で見事勝利することができた私達。
その次の日、街の長である私のお父さんは街のみんなを集めて
エジリンの父の裏切り行為を完全に過去のものとし、それを許すことを宣言した。
こうしてエジリンへの迫害はなくなった。
また住む場所がないことが議題にあがった。
仕事の成果もあってか複数人が引き取り手として手を上げたが、
お父さんが責任を持って引き取ることで会議は終了した。
つまり、エジリンは私の家で住むことになったのだ。
「きょ、今日からよろしくお願いします。」
「おう。」
「エジリンちゃん。自分の家だと思っていいからね。」
「は、はい!」
いつもユルユルな姿しか見てなかったから、
ガチガチのエジリンを見ることができてとても新鮮だった。
最初はお父さんも口数が少なく気まずい空気が流れていたが、
やはり私の父。遺伝子には逆らえないようだ。
「エジリン!お前なかなか話せるな!」
「いえいえ~それほどでも~。」
機械のことに詳しいエジリンとの会話で、
すっかりと二人は意気投合してしまった。
この街で1番機械に詳しいお父さんと話せているんだから本当に大したものだ。
そして、少しばかりの私達の平和な日々が過ぎていった。
「おい、エジリン。俺のスパナどこやった?」
「ごめ~ん。借りっぱなしだったね~。」
お父さんもエジリンも本当の親子のように会話できるほど親交が深まっていた。
そんな時、
コンコンッ
「失礼するぞ。」
王都の役人が私達の家にやってきた。
「この街の長は貴様だな?」
「あぁ。俺だが?」
「ふぬ。王からの命令を預かったきた。」
父はカレンダーを見て、何かを覚悟したかのようにゴクリと生唾を飲んだ。
「王からの命令だ。
この街に【世界一正確な時計台】を製作すること。期限は2年。以上だ。」
それはちょうど役人選挙の時期だった。
何十年に1回、このように現役人が次回の選挙で選ばれやすくなるように
自分の功績となるような仕事を任期を跨いで押し付けてくることがある。
そういう役人は決まって、【王の命令】という言葉を使う。
しかし実際はそんな命令は下っていない。
でも私たちのような平民に、それを証明することも否定することもできない。
甘んじて受け入れるしかないのだ。
それにしても【世界一正確な時計台】だなんてどう証明するんだ?
それに2年なんて無理に決まっている。
「2年!?そんな無茶なことがあるか!最低でも5年必要だ!」
当然のようにお父さんは期間の延長を申し出る。
こういうことも街長の仕事である。
「ふぬ、なら5年で作ることだな。
定期的に視察に来るからな。失礼するぞ。」
バタンッ
王都の役人はそう言い捨てて帰って行ってしまった。
扉を見つめる父の背中が、今日ばかりは少し小さく見えた。
「軽々しく2年を5年に延長しやがった。あいつは王より偉いらしいぞ。」
振り返った父はいつものように憎まれ口を叩いていた。
しかし、その顔は笑っていない。
【世界一正確な時計台】を製作する。
私の【工学の神】の力は、原理が分かっていないと発動できない。
それにエジリン以外には力のことは秘密にしている。
どうすればいいのかわからない、
そんな重い空気が家中に流れていた時、エジリンの一言で全てが吹き飛んだ。
「おもしろそう!!絶対楽しいよ!!」
この時のエジリンの笑顔は絶対忘れないだろう。
その満面の笑みに父も脱力してしまう。
「……そうだな。やるしかないな!」
「でも世界一精確だなんてどうやって?」
「簡単だよ~。作った時計台を世界の基準にしちゃえばいいんだよ。」
「世界の基準って……。」
とんでもないことを口にしたエジリンは颯爽と自分の部屋へ向かった。
「原理は任せて!まぁそれが実現できるかは、リークの腕次第だけどね。」
エジリンは挑戦的な笑みを浮かべる。
私を鼓舞するような、信頼しているような表情だった。
やってやろうじゃないか!
「わかったよ!その代わりすごいの発明してよね?」
「うん!任せて!」
こうしてエジリンは部屋に籠り、原理を考え続けた。
このモードに入ったエジリンはテコでも動かない。
食事は口に運んで、身体は洗ってあげた。
そして
「エジリンちゃん大丈夫かしら。」
「信じるしかない。」
「大丈夫。だってエジリンだもん。」
「できたぁああああ!!!」
「!?」
ドタドタドタッ
階段を必死でかけ下りてくる。
「できたよ!【世界一正確な時を刻む大時計】の設計図!」