時計仕掛けの因縁⑨
「勝負を申し込んできた!」
エジリンの家で私は仁王立ちでそう言った。
「え?なんの勝負~?」
興味がないのか、エジリンは機械をいじりながら
こちらに顔を向けずに生返事を返した。
「今年の水龍杯でお父さんと勝負する。
勝ったらエジリンを認めるように約束させた。」
ガシャンッ
エジリンは手に持っていた機械を落としてしまった。
そこまで驚くことかな?
「えぇえええ!?リークお父さんってこの街1番の機械屋でしょ!?」
「そんなの知ってる。でも街の人のエジリンへの態度が気に食わない。」
「もし、……負けたらどうなるの?」
やっぱりそこが気になるよね。
「エジリンと二度と会わないって約束しちゃった……。」
「えぇえええ!?」
その時は啖呵を切って、勢いで約束してしまったが
今思えば大変なことをしてしまったようにも思えてきた。
「エジリンの発明と私の工作力があれば勝てる!……でしょ?」
「んー……。でも向こうは大人だよ~?
全力で潰しに来るとなると金に物を言わせてくるんじゃない?」
確かにお父さんなら最高級の素材を集めて船を作り、
私を分からせにくることは目に見えている。
「だったらこっちも働いてお金を稼ぐ。」
「どうやって~?」
「エジリンの発明があるでしょ。」
こうして私達は街の困っている人を探し、
それをエジリンの発明と私の工作力で解決していった。
数をこなしていくにつれて、徐々に私達の名前は街中に知れ渡っていった。
固定客もついていき、エジリンへの態度は少しずつ軟化していった。
「親方、いいんですか?お嬢さんがこそこそ何かやってるみたいですよ?」
「放っておけ。水龍杯までだ。」
この頃になると、すっかり友達は離れてしまい
いつもエジリンと二人でいることが多くなった。
私達は、人助けで稼いだお金で船を作り始めていた。
そんなある日。
「リーク~。今日は何の日か分かるかな~?」
「え?なに急に。ニヤニヤして気持ち悪いんだけど。」
「ひどいよ~。そんなニヤニヤしてないよ。」
ニヤニヤしているエジリンは後ろ手に何かを隠している。
そういえば、今日は私の誕生日だ。
水龍杯のことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。
「じゃ~ん。今日はリークの誕生日だよ~。
だからプレゼント~。」
リークは正方形の箱を手渡してきた。
「なにこれ?」
「へへへ~。これは僕の最高傑作。
名付けて【量子猫の憂鬱】だよ。」
エジリンはドヤ顔で手のひらサイズの鉄の箱を自慢している。
発明のし過ぎで頭がおかしくなっちゃったのかな?
「わ、わーい。」
「ちょっと~!これはすごいんだよ!?外側、内側関係なくあらゆる衝撃から
耐えられる箱なんだ。鍵がないと絶対に開かないんだよ~。」
「へー。で、鍵は?」
「作ってない。」
「意味ないじゃん!!」
私はそう言っていたが、内心とても嬉しかった。
今まで誕生日に色々なものをプレゼントしてもらったが、1番かもしれない。
なんの役にも立たない箱だったけど、それはまぎれもない
私達二人の友情の証だったから。
そして、決戦の日
「さぁー!今年の水龍杯はなんと!
この街の長もスペシャルゲストとして参戦だぁ!」
水龍杯は、子供だけの大会ではあるが街長になるとなんでもありだ。
「約束ちゃんと守ってよ。」
「それはこちらの台詞だ。」
スタート位置に子供たちの船が並ぶ中、
あきらかに二艘だけ完成度が高すぎる船があった。
「すごいよあれ~。前回の僕のポンプ号の完全対策だ。」
お父さんの船は、周りにガードが立てられており
転覆させることは無理だろう。
しかし、私達は元より同じ芸当で勝とうとも思っていない。
「大丈夫。私達なら勝てる。」
「そうだね~。」
「それでは水龍杯!始まります!レディー!GO!!」
選手たちは一斉に船から手を離し、レースをスタートさせた。
一組を覗いて。
「リークのお父さんスタートしてないよ~!?」
「何か作戦があるんでしょ。放っておこ。」
私達の船は順調に1位を独占している。
これなら勝てる!
そして、レースが終盤戦に差し掛かった時、
後ろの方で大きな歓声が聞こえた。
「おぉーっと!街長チームのフェニックス号がスピードを上げてきたぁ!」
お父さんの船は驚くべきスピードで私達の船へ迫っている。
船の後ろを見ると、転覆している大量の船が浮かんでいる。
「あれ全部なぎ倒してきたの!?」
なんて街長だ。子供たちは阿鼻叫喚である。
そうしている間にもどんどん船が近づいてくる。
船が近づいてくることで、相手の戦法がわかった。
お父さんの船の横側にはスクリューが取り付けられており、
船を壊すブレードが連動してグルグルと回っている。
あの船に横を取られたら転覆させられる。
お父さんの本気度具合がわかる。
そこまでしてエジリンと私を引き離したいんだ。
でも絶対に思うようになってあげない!
「リーク!横に付かれるよ!」
「分かってる!いくよ!!」
私達はお互いに目を合わせて頷く。
そして、手持ちのボタンを押した。
次の瞬間、私たちの船 飛翔・ドラゴン丸は空高く飛びあがった。
「と、飛んだ!?」
「飛んじゃダメだなんてルールはないもんね!」
私達の船はブレードの攻撃を見事に避けきり、
再度着水して1着でゴールすることができた。
「1位は、リーク&エジリンの飛翔・ドラゴン丸だぁあああ!!」
わぁああああああ!!!
「やったぁ!やったよリーク!」
「うん!!」
こうして私たちは水龍杯に見事勝利し、
エジリンの名前は街全体に知れ渡った。
もちろん、いい意味で。




