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時計仕掛けの因縁⑧

「「負けるなぁあああ!!!」」


 卜部とリーリィの声援は、リークとエジリンの記憶の片隅をノックした。

 どこかで同じようなことがあった。


 二人は戦いの最中、同時にそう思ったのだ。




「負けるなぁああ!!」

「いけぇえええ!!!」


「さぁ!第53回水龍杯を手にするのは誰の船なのでしょうか!?」


 私の街の中心には大きな川が流れている。


 年に1回、そこでは子供たちが工作した船を川に浮かべて

 上流から下流へ流し、順位を競う大会がこの街では開かれていた。


 私はリーク。この街の長の一人娘だ。

 この街は私が産まれた頃から工業が盛んで、私の父はこの村1番の機械屋だ。


 私もその遺伝子を受け継ぎ、その才能を開花させつつあった。


「おーっと!やはり早い!リーク嬢のドラゴン丸!

 このまま3連覇なるかぁー!?」

「ふんっ、当たり前だろ。私が子供の中で1番の機械屋なんだから!」


 私の作った船は他の追随を許さないスピードで独走状態だ。


「やっぱすげぇよ!リーク!」

「かっけぇえ。」

「へへへ、当たり前でしょ。」


 同い年の子達は私の凄さにもう気付いている。

 まぁ同じ年に生まれたことを後悔するしかないね。


「おぉーーっと!!?なんだ!?あの船はぁーー!?」

「え?」


 私のドラゴン丸をすごい勢いで追いかけている一艘の船があった。


 その船は走るポンプのように水を汲み上げては

 それを放出しスピードに変えている。


「はやい!はやいぞ!!」

「おい。あれは誰の船だ?」

「いえ!登録にありません!」

「なにぃ!?」


 その船はいつの間にか私のドラゴン丸に並んでいた。


 走るポンプが近づくにつれて、水の流れは不規則になりドラゴン丸は

 進む力が徐々になくなっていく。


 そして次の瞬間、

 ポンプが放出した水にドラゴン丸が直撃し転覆させられてしまった。


「私のドラゴン丸がぁあああ!!!」

「お、おい!リーク!」


 私は服のまま濡れることなどお構いなしに、川へと入り船を救出する。

 この大会の為に丹精を込めて作った私の愛情が詰まった船だ。


 私がドラゴン丸を救いあげた時、謎の船はゴールした。


「おーーっと!謎の船がそのまま一着でゴールイン!

 今年の優勝は、謎のポンプ船となりましたぁ!!」

「そ、そんな……。私の3連覇が……。」


 大人たちがどうするべきかと揉めている時、ゴールから

 船を持ち去る子供が私の目に入った。


「ちょ、ちょっと待てぇ!!」

「!?」


 私はその子を追いかけて街中を走った。

 すばしっこくてなかなか捕まえられなかったけど、

 自ら路地の行き止まりに走っていった。


「はぁ……はぁ……。やった捕まえた……。」

「はぁ……はぁ……、しつこいよぉ~。」

「馬鹿だね……、行き止まりの路地に逃げ込むなんて……。」

「逃げてないよ……、ここが僕の家だもん……。」

「ここが家!?」


 その子はガラクタを積み上げて小屋を作っていた。

 そして入り口のカーテンを自慢気に一気に開いた。


「こ、これは……。」

「ここが僕のラボだよ!!」


 その中には手作りの機械が山ほど置いてあった。

 私はこれを見て、心がときめいてしまったんだ。



 これが、私とエジリンの出会いだった。


 その後、私はエジリンと機械について時間を忘れて語り合った。


 この街で私と機械について語り合える子供はいなかったし、

 大人だってプライドがあるのか真っ当に話してくれない。


 本当の友達というものに出会えたんじゃないか、とまで感じていた。


「それにしてもあのポンプ船は卑怯だ。」

「え~。ルールに他の船を転覆させちゃダメって書いてないよ~?」

「ルールじゃない。倫理だ。」

「僕学校行ってないからわからな~い。」


 エジリンは学校には通っていなかった。

 それに親もいない。何か事情があったようだけど私には話してくれなかった。


「それじゃあ私帰るね。」

「うん。いつでもおいでよ~。」

「ありがとう。」


 その言葉に甘えて、私は学校が終わればすぐに下校し

 エジリンに会いに行っていた。


 学校の友達とは話せない機械の話をいっぱいできるからだ。


 急に付き合いが悪くなった友達たちは、少しずつ離れていった。

 でもいいんだ。私には、エジリンがいるから。



「もう、あいつには会うな。」

「え……?」


 お父さんは食事中に私に忠告した。


 エジリンの親は、この街の裏切り者らしい。


 昔この街の他にも工業で繁栄していた街があった。

 そことはライバル関係で、技術を競い合い王都からの依頼を

 奪い合っていたそうだ。


 王都からの依頼が取れれば街は更に大きくできる。

 街の長として当時の父は躍起になっていた。


 そんな時にエジリンの父は、ライバルの街に私達の街の技術情報を売ったそうだ。


 それにより技術競争はより激しさを増し、なんとか勝ったものの

 エジリンの父は街に居場所を無くしてしまった。


 聞けばその時、エジリンが生まれる直前で妻の容態が悪く

 どうしてもお金が必要だったそうだ。


 街の人達は、情報を売ったことはもう許したが

 どうして頼ってくれなかったんだ?お金なら用意できたのに。


 そんな理不尽な怒りからエジリンの父を迫害したんだ。

 相談したってどうせお金なんて貸してくれない。


 それにエジリンは関係ないじゃないか!



「うるさい!お父さんには関係ないでしょ!」

「ちょっとリーク!あなた、リークを追って!」

「必要ない。もう行く当てもない。」



 私は家を飛び出して、エジリンの家へと向かった。

 しかしいつもの路地に差し掛かった時、路地への入り口には

 大きな金網と南京錠が掛かっていた。


「なんで……、こんなことまで……。痛ッ!」


 金網には電気が流れており、触ることが出来ない。

 これじゃあ、壊すこともできないじゃないか。


「リーク。」


 金網の向こうからエジリンの声が聞こえる。


「エジリン!?」

「ごめんね。話してなかったけど、僕嫌われてるんだ。街の人達に。」

「そんなことない!エジリンには関係ないことだ!」

「もう僕に関わるのはやめて。リークまで嫌われちゃうよ。」


ガシャンッ!


「リーク!?ダメだよ!怪我するよ!」


 私は電気の流れる金網を両手で掴み、なんとか壊そうとする。


「……いいよ!!嫌われても!!」

「!?」

「エジリンに好かれるならそれでいい!!!!」


 その時、リークが黄金に輝きだした。

 神の力が宿ったのだ。


「【神力展開:解体(ブレイク)】!!!」


ガシャーーーンッ!!


 私の手からは血が流れている。

 でもちっとも痛くない。


 心が痛いってこと以上に喜んでいるから。



「一緒に戦おう。エジリン。」



 エジリンはそれを聞いて、泣きながらこくりと頷いた。


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