時計仕掛けの因縁③
「よーし。時計盤のメンテナンスも終了だ。」
リークちゃんは命綱無しで時計台の針をつたっていき、
先端を研磨して帰ってきた。
それをリーリィと一緒に小さな悲鳴をあげながら見守っていた。
慣れているとはいえ、流石にチャレンジャーすぎる。
「下に降りるからこのゴンドラに乗って。」
リークちゃんは時計台の中に帰ってきて、階段横にあるゴンドラを指さした。
リークちゃんの無謀なメンテナンスを目の当たりにして
下半身に力が入らなくなった俺は黙って従うことにした。
「あ、しっかり捕まってないと危ないよ。」
「え?」
ガコンッ
リークちゃんがゴンドラ横のレバーを引くと、
一気に景色が上へと流れて急降下する。
「うわぁああああああああ!!!」
「きゃあああああああ!!!」
「あはははは。」
えげつないスピードで急降下したゴンドラは
着地寸前でスピードを緩め、柔らかく地面に接した。
「し、死ぬかと思った……。」
「ひゅ~~」
間違いなくこいつは馬鹿だ。
高いところが平気とかいうレベルではない。
馬鹿と煙はなんとやらだ。
横を見るとリーリィが口から魂が出ていたので、
魂を掴んで口に再入場させてあげる。
「あとは小部屋のチェッだけ。終わったら一杯飲もう。」
リークちゃんは俺達の疲弊具合を楽しそうに眺めている。
この状態の俺達を見るためにここへ誘ったのではなかろうか。
リークちゃんについていき、小部屋に入ると真ん中に
動力源である機械が置いてあった。
「これがヴァルテン・ツァイトの心臓だ。」
機械からはバチバチと電気の流れる音が聞こえてくる。
その電力で歯車が回っているようだ。
「これはどういった原理なんですか?」
「実は私もよく分かってないんだ。エジリンが興奮しながら
説明してたけど全然頭に入ってこなかった。」
それでメンテナンス出来るんだからさすが【工学の神】だ。
「なんかすごい発明らしいけど、さっぱりだ。
ただすごい危険らしくて爆発すればこの街ごと吹っ飛ぶらしい。」
おいおいおい!
そんな危ない機械を知識なしでこれまでメンテナンスしていたのか?
「まぁ私は【工学の神】であって、発明は専門外だからな。」
そう言ってリークちゃんは機械の横のハッチを開けた。
そこには大きな歯車がはめ込まれていた。
「お前らを呼んだのはこれの為だ。
この歯車がちゃんと閉まっているか確かめるんだけど、
めちゃくちゃ硬くて私の力じゃびくともしないんだ。」
リークちゃんは場所を開けて、俺を招き入れた。
歯車の横にはいろいろなボタンが設置されているが、
絶対押しちゃいけないってことだけはわかる。
変なボタンを押してこの街ごと爆発なんて洒落にならない。
俺はよしと意気込んで颯爽と歯車を掴んだ。
「あ、電気流れてるから気を付けて。」
「あばばばばばばばば。先に言え!!!」
歯車を掴んだ瞬間に身体に電気が流れ出した。
俺はなんとか手を放すことができた。
「なんだよー。アイナは気にせず触ってたぞ?」
「神様と一緒にするな!」
「身体動かすのも脳からの電気信号なんだから、慣れてるだろ?」
「慣れてたまるか!」
くっそぉ!
これが終わったら1番高い酒をおごらせてやる!
俺は電気に耐えながら歯車をしっかりと締め直した。
「よっしゃー!終わり!!」
「おつかれー。」
「お疲れ様でした。」
なんだかんだで最後の電気ショックが1番疲れた。
でもなんか肩こりが少しマシになった気がする。
「それじゃあ酒屋に行こう。」
「1番高い酒おごってもらうからな。」
「はいはい。分かったよ。」
俺達は時計台の外に出ようと扉へ近づいたその時、
ビービービー!魔力検知!魔力検知!
「!?」
街の外に設置してあった魔力探知機が反応したのか、アラートが流れる。
魔力を検知したってことは魔術師か、悪魔がこの街に来たってことか!?
俺達が扉の外に出ると、轟音と共に地面が少し揺らいだ。
ドゴーーン!!!
目の前に球体の機械が空から降ってきた。
もう少し早く外に出ていたら直撃していたかもしれない。
「な、なんだあれは……。」
「あ~あ。着地のこと考ええなかったよ~。
生身なら確実に死んでたな~。」
球体の機械からどこかで聞いたことのあるけだるげな声が聞こえる。
機械の側面からハッチが開き、そこから機械の腕が生えてくる。
両腕を使って起き上がり、さらに足まで生えてきた。
目の前で見るとかなりの大きさだ。
剛腕の腕と足が生えた、ロボットと呼んだ方がわかりやすい。
「あ、リーク~。久しぶり~。」
ロボットはリークちゃんを見つけて、声を掛けた。
そうだ、思い出した。
この声は、リークちゃんの部屋で穢れ浄化マシンから
出てきた箱から映し出された女の子の声だ。
と、いうことはこいつは……。
「【怠惰の悪魔】なのか……?」
俺の問いかけをリークちゃんは無視した。
いや無視したというよりかは、【怠惰の悪魔】との対峙に集中しているようだ。
「……久しぶりだな。」
「元気そうで何よりだよ~。この街も変わってないね~。」
二人は他愛のない会話を始めた。
しかしリークちゃんの空気は重く張りつめている。
「あ、ていうか僕死んだことになってるの~?ひどいな~。」
「あぁ。死んだよ。」
死んだ?
ということは、もしかしてこいつが……?
「死んでないよ~。だって目の前にいるじゃん。」
リークちゃんは小刻みに震えている。
まるで大切なものを侮辱されていることが我慢できないように。
リークちゃんは拳をぎゅっと握りしめ、ロボットをにらんで叫んだ。
「いや、死んだ。発明家エジリンはもう死んだ!!」




