時計仕掛けの因縁
俺達は、トランスポーターに乗り込みリークちゃんの指名で
【世界一正確な時を刻む大時計】のある街 イマリエへ向かっていた。
「リークさんは毎年決まった日に時計台を
メンテナンスしに行ってらっしゃるんですか?」
「まぁね。」
「今日は何の日なんだ?」
「そのうち嫌でもわかるよ。」
リークちゃんは答えを教えてくれなかった。
しかし、トランスポーターが到着し街に着くと一瞬にして
今日が何の日なのかが理解できた。
「エジリン様記念式?」
「そういうこと。」
記念式ってのは確か、偉人が死んだ日に
その功績や感謝の意を表すための日だったような気がする。
「エジリンって人の命日ってことか?」
「まぁそういうこと。」
それにしてもこの街は他の街と発展のレベルが違い過ぎる。
街の入り口門から見ても、大きな工場や建物が見て取れる。
エジリンって人がここまで発展させたのか?
「それじゃあ行くよ。」
リークちゃんは入り口門から目線を外し、真横に歩き出した。
「え?中には入らないんですか?」
「入る前にすることがあるの。」
そういうとリークちゃんは街を取り囲んでいる壁に沿って歩き出した。
リーリィと訳も分からず黙ってついていくと、
壁が直角に曲がっている地点に辿り着いた。
そこには機械が設置されており、リークちゃんは立ち止まって
リュックから電池のような物を取り出した。
「それはなんですか?」
「これは魔力探知機。街に魔人が侵入してきたら兵士に連絡がいくようになってるの。」
「へぇー。そんなのあるのか。」
会話をしながらリークちゃんは手際よく機械の電池を交換した。
一年に一回交換しているのかな?
「よし。あと3つ交換するよ。」
「もしかしてこれ、街の四隅に置いてるの?」
「よくわかったね。結構歩くよ。」
うげぇぇぇ。
入り口門からでも結構歩いたのに後3つも交換するのかよ。
こうして俺達は街をぐるりと一周する羽目になった。
そしてやっと入り口門に帰ってくる頃にはお昼を回っていた。
「よっしゃー……。戻ってきた。」
「じゃあ入ってお昼にしよっか。」
「やったぁ!」
「なんだよこれ。」
「イマリエ名物 ナットのオイル漬け。」
「んなもん食えるかぁ!」
机を叩いて猛抗議する。
街を一周させられた挙句に、ナットをオイルに漬けた機械人間しか
喜びそうもない料理を出されたら誰だってこうなるよ!
「冗談だよ。ネットの形を模した練り物。」
「じゃあこの汁は!?」
「それは分からん。」
わちゃわちゃと騒いでいると、常連客らしきおじいさんに声を掛けられた。
「おぉ。そこにいるのはリークちゃんじゃないか。」
「あ、どーも。」
「毎年ありがとうね。エジリン様が作って下さった時計台のメンテナンスしに来てくれたんだろ?」
「はい。そうですよー。」
なんだかすごく優等生な返事をするリークちゃん。
笑顔がすごく引きつっている。
「そうだ。エジリン様のお墓参りは済ませたのかい?
今日は記念式だからお供え物いっぱいあったでしょ。」
「はい。もう行ってきました。」
「え?行ってな――。」
ゴスッ
「!?」
机の下でリークちゃんが俺の弁慶の泣き所にキックを決めた。
言葉にならない悲痛な叫びをあげてしまう。
「すごいお花がいっぱいで嬉しかったです。」
「そうでしょ、リークちゃんも鼻が高いね。偉大な師匠を持てて。」
それまで無理やりにでも笑顔を作って会話をしていた
リークちゃんの顔から笑顔が一瞬消えた。
「……。ごちそうさまでした。いくよ。」
「え?お、おう!」
俺は机にある食事を急いで平らげて、逃げ去るように退店した
リークちゃんを追いかける。
亡くなった師匠を思い出して悲しくなってしまったのか?
まぁ記念式は、偉人を忘れないようにするための式でもあるからな。
そういうに目掛けて、師匠が作った時計台が故障しないように
メンテナンスをしに来ているのか。
リークちゃん。良い子じゃないか。
と、優しい目で早歩きする背中を後ろから追いかけていると
リークちゃんは少し外れた路地へと入っていった。
「あいつは私の師匠じゃねーよ!!
確かに!?あの時計台の原理はあいつが発明したけど、作ったのは私だよ?
いつもそうよ!発明家ってのは名前が残るけど機械家は全然名前が残らない!
やってらんない!!やってらんない!!」
あ、全然悲しんでなかった。
一通り叫びながら地団駄を踏んで気持ちが落ち着いたのか、
リークちゃんはその場に座り込んだ。
「気持ちは分かったけど、お墓参りくらいは行ってあげてもいいんじゃない?」
「その必要はない。」
「え?なんで?」
「エジリンは死んでないから。」




