真の正義⑤
「【嫌悪解放:深海壁】!」
突然ギョギョが俺の前に現れて、目の前に水の渦を出現させた。
レーザーはその水の渦に吸い込まれ、消えていった。
「光も届かない深海ギョギョ。」
「あ、ありがとう。」
ギョギョが来てくれなかったら、確実に光に飲まれて死んでいた。
暗闇の中の方が、レーザの速さ、太さが増している。
俺の放った火は消えて、また暗闇が訪れる。
「水の中で何秒息を止められる?」
「え?1分くらいかな?」
「んー……。善処するギョギョ。」
ギョギョは暗闇の中で俺にそう問いかけ、術を放った。
「息を吸うギョギョ!【嫌悪解放:海底逍遥】。」
「え?俺泳げないよ?うぉ!?」
ギョギョが俺の腕を掴んだ瞬間、二人の周りの地面は水となり
身体ごと地面の中に沈んでしまった。
「ゴボボボ!?」
「落ち着け。手掴んでるから溺れない。」
俺は小さい頃から泳ぎが苦手でプールの授業が憂鬱だった。
いま思えばきっと俺は【泳ぎの神に嫌われている】んだろう。
でも不思議とギョギョが掴んでくれていると、
水の中でも沈まずにいられる。これが半魚人の力か?
「ここから敵を見つける。やったことないから
時間かかるかもしれないギョギョ。」
「(勘弁してくれよ!もう息が持ちそうにないぞ!?)」
「むむむむ……。」
少し離れた所で、水の波紋を感じた。
「見つけたギョギョ!飛ばすぞ!」
ギョギョは俺を掴んだまま、高速で波紋の下まで泳いだ。
こんなスピードで水中を移動したことがないので正直驚いている。
「この上ギョギョ!いけぇええ!!」
「(えぇえええええ!?)」
ギョギョは上に向かって俺を全力で投げ捨てた。
ザバァアアアン!!
「な、なんだ!?」
「見つけたぁ!【神術解放:豪】!!」
「ぐぁあああああ!!!」
俺の拳が白の魔術師にクリーンヒットする。
意表を突かれたのか、スイの攻撃を防いだ光の壁を
発動することはできなかったようだ。
後は、黒の魔術師ヌルだ。
その時、ユララの悲鳴が暗闇の中聞こえた。
「きゃあ!!」
「はぁ……はぁ……、飛ばされた先に人質がいるとはな……。
お前らはよほど神様に見放されてるようだな!!」
殴った衝撃で吹き飛ばされた白の魔術師は、
ユララのすぐそばに辿り着いてしまったようだ。
暗闇でよく見えないが、ユララの悲鳴もあったので信じるしかない。
ユララが人質に取られている。
「クソッ……!やっちまった。」
「その声は卜部ね。」
暗闇で分からないが近くにスイがいるようだ。
「攻撃の準備をして。来るわ。」
「来る?」
「えぇ。あの子ならきっとできるはず。」
「へへへへ!お前ら動くなよ。ヌル!一人ずつ八つ裂きにしろ!」
白の魔術師はヌルに指示を出す。
その声の後金属同士がぶつかりあるヌルの
シザーハンドの音が響き渡る。
「お前はここでじっとしろよ!お前のせいで仲間はみんな死ぬんだ。」
「わ、わたしのせい……?」
「あぁ!そうだ!ははは。やれぇ!ヌル!」
「私のせいでみんな死んじゃうなんていや……、ぜったいにいやぁぁ!!!」
ユララは白の魔術師の言葉に反応して大声を上げる。
その瞬間、ユララの身体が光り出した。
「な、なんだ!?」
「卜部、敵の位置を確認して!目つぶって走るわよ!」
「お、おう!」
ユララの光は加速度的に明るくなり、直視できない程に輝きだす。
「こ、こいつ!眩しすぎる!!」
「あぁ……、俺の闇がぁあああ。」
ヌルの術による暗闇を退けるほどの輝き。
大丈夫だ。もうあいつの位置は確認した。
「ちぃっ!」
白の魔術師はあまりの眩しさにユララを離し、顔面を手で隠す。
俺達は敵に向かって一直線に走っていく。
「「うぉおおおおお!!!!」」
「【神術解放】!」
「【嫌悪解放】!」
「【豪火】!!!」
「【百万力】!!!」
ドガーーーーーンッ!!!!
「ぐぁあああああああ!!!」
魔術師は光の壁を作っていたが、攻撃が直撃し壁は崩壊した。
壁程度では止めることのできなかった俺達の拳が魔術師を仕留めた。
「に、兄ちゃん!」
その声と同時にヌルの魔術が解けた。
ヌルは倒れ込んだ、兄に駆け寄る。
「これに懲りたら二度と【嫌われ者】を
狙うんじゃないぞ!わかったか!?」
ローレンは、これでもかと言わんばかりのキメ顔で言い放った。
「は、はいぃいい!!」
そういってヌルは兄を連れて、森へと逃げていった。
なんとか勝利することができた。
「魔術師を倒したぞ!我等の勝利だ!」
「あんたは何もやってないでしょうが。」
「違いねぇギョギョ。」
ユララは力を使い果たしたのか、その場で座り込んでいた。
スイはユララに優しく駆け寄り、マントを被せてやった。
「ユララなら出来ると信じてたわ。」
「えへへ。迷惑かけてごめんね。」
ユララはまだ【嫌悪解放】が上手くコントロールできないらしい。
感情が高ぶった際に時々できるようだ。
それを信じて動くことのできた辺り、このチームは強い。
もしかしたら世界を作り変えることだってできるんじゃないだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
「ローレン。酒は無事ですよ。」
「おぉ!スイの馬鹿力で吹っ飛んで無かったか!
なら祝杯をあげようじゃないか!」
ボンドは半壊した家の奥から酒瓶を取り出した。
それをみんなに配り始めた。
「卜部もどうだ?勝利の美酒だ。」
「お、じゃあ1本もらおうかな。」
「わ、私は遠慮しておく!」
あからさまにコーリンが酒を拒否する。
酒が苦手なのか?
「それならジュースもある。これならいいだろ?」
「まぁ、ジュースなら。」
「よし!みんな行き渡ったな?
それじゃあ我等【真の正義】の勝利を祝して!乾杯!!」
「「「乾杯!!!」」」
こうして俺達は空が明るい中、
勝ち取った平和な空を眺めながら酒を一緒に飲んだ。
戦いの後の酒は本当に美味い。
命の洗濯とはまさにこのことだ。
「卜部よ。本当に仲間には入らないのか?」
「あぁ。俺達にはやらなきゃいけないことがあるからな。」
「そうか。もう無理強いはしないさ。」
俺とローレンは酒瓶をコツンとぶつけ合い友好を深めた。
「それにしてもコーリンは気を付けた方が良い。
洗脳されやすすぎる。あんなちょろい子は初めてだ。」
「そ、そうなのか。気を付けとくよ。」
「リップきゅうううううん!!!!」
「!?」
急にコーリンが奇声を上げる。
リップくんと離れすぎて禁断症状が出たか!?
「うわぁ!?なんだよコーリン!」
「リップきゅうううん。かわいいねぇ~。」
コーリンが急に俺に抱き着いてきた。
顔を見ると真っ赤に染まっている。こいつ酔ったのか?
「ローレン。あんたあれジュースよね?」
「あ、あぁ。でもあの様子を見るとなんか自信なくなってきた……。」
「リップきゅううん!!」
この後、コーリンは俺をリップくんだと勘違いして
抱きついて離さなかった。
その後すぐに寝てくれたので、
なんとか起こさないようにゆっくりと腕を外して事なきを得た。
起きてから聞いたのだが、コーリンは【酒の神に嫌われている】そうだ。
酒を飲まなくても、少しの酒の臭いで酔ってしまうらしい。
それはなんだが可哀想だ。
俺は寝ているコーリンのポケットからトランスポーターを
抜き取り、帰る準備をしていた。
「卜部、俺達は同じ【嫌われ者】で仲間だ。
何か困ったことがあったら言ってくれ。
すぐに駆けつける。」
「あんたは戦いの役に立たないでしょ。」
「……、こいつらが駆けつける。」
「ははは。ありがとう。それじゃあ。」
こうして俺達は神殿へと帰って行った。