真の正義③
「やぁ、また会えたね。卜部。」
小屋に入ると、マントの男がソファに座っていた。
ソファの後ろには見張りのドジっ子ともう一人女の子が立っている。
「((知り合いなのか?)」
「(一回会っただけで他人だよ。)」
「おや、隣の淑女はお友達か?」
コーリンは【嫌悪臭】を抑える魔導具を外し、
自分の正体を証明した。
「なんだ。君も【嫌われ者】か。安心したよ。」
そう言うと男はマントを外し始めた。
俺達を小屋に招いた男は扉の前で出口を塞いでいる。
簡単には開放してくれなさそうな雰囲気だ。
「(おい、卜部。こいつら敵じゃないんだろうな?)」
「(まだ分からない。)」
「(なら油断はするなよ。)」
俺達は二人でコソコソ話をしている。
「それじゃあ、話をしよう。そこの椅子に座りなよ。
武器も置いてさ。」
この状況でコーリンは武器を素直に手放すとは考え難い。
何かいい言い訳を考えないと。
「あぁ、わかった。」
「いい子だ。」
コーリンは素直に相手の要求に答え、刀を置いて椅子に座った。
えぇええ!?
なに素直に言うこと聞いてんだよ!
油断するなって言ったのはそっちだろ?
「(おい!何してんだよ!)」
「(むっ!すまない。無意識に行動してしまった。)」
俺も流れを合わせるように着席する。
「あまりコソコソしなくても大丈夫だよ。
私達は敵じゃないんだから。な?ギョギョ。」
「あぁ!そうだぜ!」
小屋の奥から戦隊ものの怪人のような奴が現れた。
「紹介しよう。半魚人のギョギョだ。
彼は五大元素神の1つ【水の神に嫌われている】。」
「ウォウォウォ!でも俺は半魚人だから死なないのさ!」
いやいやいや!半魚人というかもうほぼ魚だから!
巨大なマグロに足と手が生えてるようなフォルムしてるから!
「(見た目に騙されるな。五大元素神の【嫌われ者】は強力だ。
おそらく戦闘能力を見せつけて屈服させようとしている。)」
「こう見えて彼は魚が大好物なんだ。意外だろ?
時々、人間も食べるらしいから気を付けてくれ。
おっとすまない。脅かすつもりはなかったのさ。」
たしかにコーリンが言うように脅しにも聞こえなくはない。
これも交渉術というやつなのだろうか?
「それじゃあ早速、本題に入ろうか。」
男は先程までの雰囲気とは打ってっ変わって真剣な表情になった。
「私はローレン。【真の正義】のリーダーをやっている。
率直に言うよ。君たちも私達と一緒に世界を作り変えないか?」
世界を作り変える?
どういうことだ?【嫌われ者】が集まって
一体何をしようとしているんだ?
「世界を作り変えるとは一体どういうことだ?」
「良い質問だね。えっと君の名前は?」
「コーリンだ。」
「ありがとうコーリン。」
本名をあっさりバラしていく。
今日のコーリンは少し無防備じゃないか?
「今の世界がどういう仕組か知っているか?無論、弱肉強食だ。
弱いものは強者に駆逐される。ただそれだけのことさ。
これは野生の動物だって、私達人間だって同じことだ。
ウサギはライオンに喰われる。【嫌われ者】は魔術師に殺される。」
ローレンは演説に熱が入ってきたのか、ソファーから立ち上がった。
「君たちはなりたくて【嫌われ者】になったのかい?
いや違うはずだ!選ばれてしまったんだよ。【世界】に。
何も悪事を働いていないにも関わらず【嫌われ】てしまったんだよ!
【神様】という奴らに!」
少しずつこいつらの目的が見えてきたぞ。
「【嫌悪臭】がある限り私達は、魔術師に命を狙われる!
平穏な暮らしは【嫌われ者】である限りこれから先
訪れることはない!これは一体誰のせいだと思う!?卜部!!」
急に話を振られて身体がびくっとしてしまった。
話の流れからするとおそらく【神様が悪い】と言ってほしいのだろうが、
今まで一緒に戦ってきた仲間を悪く言う訳にはいかない。
場の空気に飲まれないように俺は自分の信じる答えを口にした。
「魔術師が悪い!」
「その通りだ!!!」
「えぇえええええ!?」
神様が人を嫌うから悪いという流れじゃないのか!?
「神様だって人間だ。好き嫌いはあっても仕方がない。
しかし、それを狙う魔術師。あいつらは絶対に許せない!
だから君たちも仲間に加わってほしい。」
「もちろんだ!」
コーリンは勢いよく立ち上がり、涙を流している。
いや、泣くポイントあったか!?
「おぉ、ありがとうコーリン!君が居れば百人力だ。
それじゃあ神職者を辞めてきてくれるか?」
「え……?」
「当たり前じゃないか。私達の活動に集中する為には
どちらかを切り捨てなければならない。当然のことさ。」
「ぐ……、しかし……。」
「君は魔術師が憎いんだろ!?なら決断するんだ!」
「うぅ……。ぐぐぐ……」
コーリンは頭を抱え、ひどく苦しんでいる。
何が起きているんだ?異常な苦しみ方だ。
「あ……、頭が割れる……。」
「さぁ!早く決断しろ!辞めると言うんだ!!」
「いい加減にしろ!!!」
ガンッ!
「な、なにをするんだい!?スイ!
って君は人を殴っちゃだめだろ!」
後ろで立っていた女の子がローレンの頭を思いっきり殴った。
仲間割れか?
その瞬間コーリンの頭痛が収まり、その場にへたりこむ。
「ちゃんとマントしてるわよ!
っていうかそんな乱暴な勧誘していいと思ってんの!?」
スイはコーリンの元に駆け寄り、優しく声をかける。
「ごめんね?大丈夫よ。あなたは変態に【洗脳】されてただけ。
あなたにとって【神様】は大事な存在なのよね?」
「あ、あぁ……そうだ。私にはリップきゅんがいる……。」
「そう、それでいいの。自分をしっかり保って。」
洗脳!?
【嫌われ者】にそんな能力があるのか?
「あのー……、スイさん?」
「何よ!?あんたこの人達に謝りなさいよ!話はそれから!」
「は、はい!誠にごめんなさい……。」
誠にごめんなさいって……。
どうやらローレンはリーダーではあるが、スイには勝てないようだ。
スイがまともそうな人でよかった。