トンブ討伐大作戦
「やばいやばいやばい!!!」
「どうしたらいいんですか!?あんな大きいなんて聞いてませんよ!」
「とにかく逃げるんだよぉぉぉぉおおお!!!」
俺たちは、巨大なイノシシに追いかけられていた。
なぜこんなことになってしまったのか?
説明するために少し時間を戻そう。
ほら穴から出た俺たちは、神殿を目指すべくそのまま森を抜けて小さな村に辿り着いていた。
「お腹空いた……。」
「朝ごはん食べてないですもんね。」
「飯屋にでも寄ろうか。」
「いいんですか!?」
「ん?別にいいんじゃないの?」
リーリィもお腹が空いていたのだろう。目を輝かせて、なんだか尊敬の眼差しを感じる。
ここで俺たちはすれ違いをしていたようだ。
「おいしぃ〜!」
「いやぁこれは上手いな!」
この村では豚の丸焼きが名物料理だそうだ。
豚に甘辛なタレをつけて焼いており、生姜焼きみたいな味がする。
この豚は、森に生息していトンブという生き物だそうで、この村のトレードマークにもなっている。
「兄さんたちよく食べるね!ここら辺じゃ見ない顔だが、旅人かい?」
「あぁ!神殿目指してんだ!」
「ちょっと卜部さん!」
「神殿?聞いた事ねぇな。」
「おっと、この話は忘れてくれ。」
あまりにもご飯がおいしくて気が緩んでしまった。その後も二人で夢中で食べ進め、トンブをまるまる1匹平らげた。
そして、お会計の際に事件が起きた。
「え?お金がない!?」
「卜部さんが持ってるんじゃないんですか!?」
「持ってるわけないよ!」
さっきの尊敬の眼差しはそういうことか!
異世界から来た俺が、お金もってるわけないでしょうが!
「もしかして兄ちゃん金持ってねぇのか?」
「ひっ!」
飯屋の亭主がカウンターの向こうから包丁をチラつかせる。
「許してください!なんでもしますから!」
「卜部さんがなんでもしますから!」
「ちょっ、おい!」
「はぁ……。金はもういいよ。その代わりだが、兄ちゃん達が食った分のトンブ1匹を捕まえてきてくれ。それで許す。」
「ありがとうございます!」
なんて、太っ腹な亭主だろうか。
ドンブは村のトレードマークにもなってるし、そんなに高くない料理代だったことから、おそらくそこまで珍しくない動物だろう。
お使いクエスト程度の気持ちで、店を出ようとしたが、亭主に止められる。
「武器持ってるか?斧なら貸せるが。」
「斧はもう十分です。」
「そうか?じゃあこれ、トンブの住処をマークした地図だ。任せたぞ。」
「必ず帰ります!」
二人で店を出て、緊張の糸が解れた。
飯屋の亭主ってなんで強そうな人が多いんだろう。
まぁさっき食べたくらいの子豚レベルの大きさなら石なんかで倒せそうだ。
亭主から貰った地図を見てみると、意外と村の近くにもトンブは生息しているようだ。
「何かあったら神力で、援護よろしくね。」
「まかせてください!」
「それじゃあ出発!」
「おー!」
そんなこんなで冒頭に戻るのだが、なぜ巨大なイノシシに追われているかって?
実はあれ、トンブです。
普段のトンブは可愛い子豚ちゃんのような姿をしているのだが、戦闘になると10倍ほどの体積に膨れ上がる。
膨れ上がる時のボキボキッと骨が鳴る音は、今思い出しても恐ろしい。
森を進んでいた時に、トンブを見つけたので軽い気持ちで石を投げつけたところ、もう大惨事。
「卜部さんが石なんか投げるからですよぉぉ!」
「だってそれでいけると思ったからぁ!」
俺達は森の中を全速力で走って逃げている。
その後ろから木なんてお構いなしに巨大なイノシシが突っ込んでくる。
木は、トンブの身体に当たりメキメキッと音を立てて倒れていく。
「もうすぐ森を抜けるぞ!」
森を抜けると、視界が広くなった。
そこに間に構えていたのは、崖!?