半妖の街 ヨーデル⑬
な、なんだこいつは!?敵か!?
まったく気配を感じなかった。
「安心してくれ。私は君の敵ではない。
むしろ味方さ。」
マントをなびかせながら男はそう言い放った。
そのマントになんだか見覚えを感じている。
そうか、魔術師と戦う前にバーンに
話しかけていた子達と同じマントだ。
「君は、神職者の末路を知っているかい?」
「神職者の末路?」
「神が儀式によって正式な神として認められたあと、
神職者は捨てられるんだよ。」
「な、なんだと?」
夜風が俺の不安な気持ちを表すように一度強く吹いた。
「急に何ってんだよ。」
どういうことだ?
神職者が捨てられる?
「そうさ。卜部、君は不思議に思わないかい?
なぜ神は君たち神職者に神力を分け与えるんだい?」
「それは、神様を守るために――。」
「神様はそんなに弱いかい?」
男は俺が答えを遮り、言葉を突き刺す。
たしかにそうだ。
アセナさんなんて、特に強い。
アイナさんだって、ネラだってそうだ。
「神職者は、正式な神・強くなるまでの武器でしかない。
強くなった神にはもう必要ないんだよ。」
そういえば、この街に来る前にアセナさんに聞いたんだった。
アセナさんたちにはどうして神職者がいないのか。
その時は答えをはぐらかされてしまった。
それってつまり……。
「だから、卜部。
君はそんな奴らに力を貸すことなんてないんだ。
君は君らしく、強くなればいいんだよ。」
「強く……?」
「そうさ!!」
男は勢いよくマントを取り外した。
その瞬間、嗅ぎ覚えのある臭いが鼻をとおる。
「だから来い。卜部。
私たち【真の正義】の元へ。」
なぜだ。
なぜこいつは俺の名前を知っているんだ。
しかもこいつは【嫌われ者】だ。
だめだ。色々なことが頭を巡り整理がつかない。
頭がクラクラする。
「さぁ。一緒に行こう。みんな君を待っている。」
男は俺の手を掴み、どこかに連れていこうとしている。
なぜだか抵抗する力が入らない。
「お風呂お先でしたー。」
「!?」
そんなとき、お風呂からリーリィが帰ってきた。
「また会おう、卜部。良い答えを期待しているよ。」
そういって男は夜の空に消えていった。
なんだったんだあいつは?
「卜部さんどうしたんですか?」
「い、いや!なんでもない。」
なんでだろう。
まともにリーリィの顔が見れない。
リーリィは正式な神になれたら俺の捨てるのか?
そうなったら俺はもう用済みなのか?
黒い感情がじわじわと心を蝕んでいく。
「はぁー。」
リーリィはお風呂上がりのまだ暖かい体温のまま
ベットへと飛び込んだ。
その一瞬、とてもいい香りがした。
「卜部さん。本当にありがとうございました。」
「……え?」
「私、今日とっても嬉しかったんです。
やっと、卜部さんと一緒に戦えたなって。」
「……一緒に?」
リーリィは部屋の天井を見つめながら、
俺の顔を見ずに話を続ける。
「ずっと卜部さんに守ってもらってたから。
目の前で……、傷ついていく卜部さんを
見ることしかできなかったから……。」
リーリィの呼吸が少し浅くなる。
「これからは一緒に戦わせてください。
守られてるばっかりは嫌なんです!
……私だって卜部さんを守りたいです。これからもずっと。」
リーリィの言葉が俺の心に沁み込んでくる。
リーリィが俺を捨てる?
そんなわけないじゃないか。
これからもずっと一緒に戦っていくんだから。
俺達は宿で一晩を過ごし、それから神殿に向けて歩き出した。
途中で街に寄ったり事件に巻き込まれたり、
様々なことがあったが、この話はまた今度にしよう。
ただ帰り道で分かったことは、
俺は【馬の神様】にも【嫌われている】ということ。
馬に乗って帰ろうとしたが、俺が乗ると馬が暴れる暴れる。
また1つ自分の【嫌われ者】としての格が上がったなと感じた。
全然嬉しくないけどね!
そして、俺達はなんとか神殿へと帰ることができた。
「はい、そこで止まって。バンザイして。」
神殿の入り口には、
防護服にガスマスクを付けたリークが立っていた。
「どういうことだ?」
「いいから早く!!!」
「は、はい!!」
今日のリークちゃんは何故だが殺気立っている。
ここは大人しく従った方がよさそうだ。
俺とリーリィはその場で立ち止まりバンザイをした。
するとリークちゃんは金属探知機のようなものを
俺達の身体に当ててくる。
「はい。通ってよーし。」
そういって神殿の中に招かれた。
入り口を入るとアイナさんがいた。
「おかえりなさい!!」
「ただいまです。あれってなんなんですか?」
「あー……、なんか魔蟲が出たみたい。
リークちゃん魔蟲苦手だから。」
「魔蟲?」
魔蟲とは、穢れによって湧いてくる
ゴキブリのようなものらしい。
「まぁたしかに神殿で出るってのは少し変ですよね。
わたしたちは穢れの正反対の存在ですから。
とりあえずお疲れ様です!」
そういってアイナさんは俺達を
儀式の間へと連れていってた。
そこに入ると、アセナさんが儀式の椅子に座っていた。
「おぉ。卜部、リーリィ。帰ったか。」
「アセナさん!怪我はもう大丈夫なんですか?
それに卜部って……。」
とうとう小僧呼びから、卜部ってちゃんと呼んでくれるようになった。
それに、アセナさんが座っている椅子って。
「私はお前たちを認める。
【大罪の悪魔】を倒したんだから。」
「ア、アセナさん……。」
リーリィは感動している。
「もちろん。私もですよ。」
「ア、アイナさん……。」
これで二人の神様に認められた。
残るはあと二人だ。
そうすれば、リーリィは正式な神様になれるんだ。
リーリィはポロポロと嬉し涙を流していた。
それをアイナさんが慰めている。
そんなあたたかい雰囲気は一気にぶち壊された。
「ぎゃああああああ!!!また魔蟲だぁあああ!!!」
「……。はぁー。」
みんなで目を合わせて、ため息をつき笑いあう。
もう少しこの空気を味わっていたかったが、
俺達はリークを助けるために外に出たのだった。
次回 【 真の正義 編】 スタート!