半妖の街 ヨーデル⑩
「【穢土掌握:恒常性耳目欲可視症候群】!」
呪文が唱えられた瞬間、世界のすべての色が一瞬だけ反転した。
黒は白に。白は黒に。
穢土掌握は【暴食の悪魔】も使用していた悪魔の固有結界。
その中では悪魔だけに特殊効果が付与され、
神側には穢れによる蓄積ダメージを受けてしまう。
世界の色が元に戻ったとき、世界は黒い闇に包まれていた。
「リーリィ!大丈夫か?」
「はい。平気です。」
修行の成果が出ているのか、穢れへの耐性がついている。
ネルちゃんを見てみるとケロッとしている。彼女は無敵か?
「【穢土掌握】をした時点であなたたちの負けよ?」
セチュラはさっきの取り乱した表情から一変した。
そこまで強力な技なのか?
「と、その前に。」
そういうとセチュラは俺達から目線を外し、
右にある建物へ腕を伸ばした。
「丸見えよ。【妖術:黒閃光】。」
ドガーン!!
手から放たれた黒い光によって、建物は破壊された。
建物が破壊される音と一緒に半妖の悲鳴も同時に聞こえてきた。
半妖たちが隠れている場所が分かったのか?
「半妖を消すついでにあなたたちも消す。
これなら文句ないかしら。」
そういうって次は左側に手を伸ばす。
「ビンビン感じるんだけれど。
あなたたちの熱い視線が。」
ドガーン!!
またしても半妖たちの悲鳴がこだまする。
間違いない。
こいつは半妖が隠れている場所がわかるんだ。
それならこのまま見過ごすわけにはいかない。
するとセチュラはこちらに向き直って、俺達を観察した。
「坊やたち。こんな状況でもお互いに興味があるのね。
お姉さん。妬けちゃうわあ。」
「どういう意味だ?」
「あら、説明がまだだったわね。
私の【穢土掌握】は、他人の興味・関心・注意がどこに向いているか
矢印で見られるようになるの。
みんなが何に興味があるのか知りたいし、
その興味は私に向けてほしい。そんな能力よ。」
つまり、建物の中でセチュラに向けていた
半妖たちの注意が可視化されていたのか。
それならよりほっとけない。
「うぉおお!!」
俺はセチュラに向けて殴りかかろうとした。
しかし、そう考えた瞬間にセチュラは俺の後ろに回り込んでいた。
「つまりこういうことよ。」
「ぐはぁああ!!!」
セチュラのビンタが直撃し、俺は飛ばされてしまう。
ビンタだけでこの威力……。強すぎる。
「私に攻撃しようと注意を向けた瞬間。
それが私には分かるの。あなたの攻撃が当たるわけないわ。」
「おばさん、油断大敵。」
「お、おば!?」
ザシュッ!
「!?」
セチュラの後ろから、白面の剣士の剣が横顔をかすめ、髪が少し切れた。
ネルのおばさんという声に反応しなかったら切れていた。
「くそが!!」
セチュラの打撃によって、ソリウスは破裂し綿へと還った。
「なるほどね……。お人形遊びってわけね。
お人形には意思も思考もないもの。
矢印が見えないわけだわ。本当に寂しい子。」
「下品よりマシ。」
「このクソガキッ!!」
セチュラは黒い光線を連続で俺達に向けて放つ。
ネルはそれを避けながら俺に指示を出した。
「卜部、【リーリィを掴んで、右、左、ジャンプ】。」
「うぉお!?うおぉ!?うぉおお!!」
身体が勝手に動き、光線を避けきった。
すごい能力だが、いつの間に!?
「あ、ありがとう。でもいつの間に俺に術を?」
「出発前。おでこにチューした。」
「あれか!」
「来る。」
セチュラがすごい勢いでこちらに飛んでくる。
俺はそれを迎え撃つように殴りかかる。
「【神術解放:豪火】!!」
「見えてるって言ってるでしょ?」
空中で軌道を変えて俺の攻撃を避け、
ネルに飛びかかった。
ネルは押し倒され、セチュラはネルの首を掴んで右手をかざしている。
「これで終わりよ。寂しい女の子。」
「本当にそうかしら?」
「はぁ!?」
セチュラの右手に黒い光が溜まっていく。
これまでよりも断然大きい。一撃で消すつもりだ。
「本当にそうかなって言ってんだよ。
クソババァ!!」
「な、なにこの子急に!?」
ネルは押し倒されながらも右手の人差し指をセチュラに向ける。
「【神力展開:使役・光の収縮】!」
「!?」
バシューーーン!!!
ネルの人差し指から鋭い光の光線が天高く放たれる。
セチュラはそれをギリギリで避けて、その場を離れる。
なにが起きているんだ?
ネルちゃんがいきなり乱暴な口調に?
表情もかなり豊かだったような気がする。
「ったくよぉ。俺あんまりこの服好きじゃないんだけどなー。」
「ネ、ネルちゃん?」
「なんだよ卜部。ジロジロ見んなよ。」
「あ、すいません。」
俺のことを知ってるってことはネルちゃんなのか?
でもそれにしては口調が変わりすぎている。
「あ、あの……ネルさん?」
「おぉ!リーリィ!ずっと見てたよ。
俺はネルの兄のネラ!よろしく!」
ネラ!?
どういうことだ?ネルの中にネラという人格があるのか?
「ネルは俺の双子の妹で、胎児の時に死んじまったんだ。
俺は【使役】の能力でネルの魂を俺の身体に定着させたんだ。
まぁ双子だからできた荒技だな。」
「お話の途中で悪いんだけれど、
そろそろいいかしら?」
セチュラは空中でこちらに向けて、特大の黒い光を貯めていた。
魔獣の魔光線くらいあるんじゃないだろうか。
あんなのくらったら街ごと滅ぶぞ!?
「あぁ。いつでもいいよ。おばさん。」
「フッ、子供って本当に馬鹿ね。
この状態で強がりだなんて。【魔妖術:暗黒閃光】!」
ドドドドドド!!
巨大な黒い光がこちらに迫ってくる。
しかし、ネラは余裕な表情で五本指を空に掲げる。
「【神術展開:五光の収縮】!!」
ドガーーーーン!!!!
「す、すごい……。」
強大なセチュラの攻撃をネラが相殺した。
「さぁ、反撃といくか。」