半妖の街 ヨーデル⑨
「いますぐ救ってやる!【神術解放:豪氷】!」
俺の拳は青く輝き、バーンへと突きつける。
その攻撃に対抗するように、
バーンは右拳を真っ赤に燃やし反撃する。
そして俺の拳とバーンの拳がぶつかり、衝撃波が巻き起こる。
勢いが相殺され拳を合している状態の後、バーンの右手から徐々に氷だした。
パキパキパキッ
「アァア!?」
「大丈夫だ。俺がこの街を守る。」
カチィン!!
そしてバーンは全身が氷に覆われ動かなくなった。
死んだわけではない。
動きを封じただけだ。
「卜部さん、すごいです!」
「ありがとう。少し離れちゃったから急いで戻ろう。」
俺達はアセナさんとクロエが戦っていた広場へと戻った。
広場につくと、人影が一つ見えた。
近づくにつれて、その側で倒れている2人の姿が見えた。
「アセナさん!クロエ!」
「あら、坊やが勝ったの?意外とやるのね。」
「小僧……、逃げろ……。小僧では勝てない……。」
倒れている姿が見えた時から、俺の走るスピードが
どんどん増していって、アセナさんの忠告なんて聞こえていなかった。
「うぉおおお!!」
「犬死にってこういうことなのね。」
セチュラは腕を走ってくる俺に向けて、力を貯めている。
「【妖術:黒閃光】。」
手から黒い閃光が放たれる。
俺がその技に気が付いたのは、
黒い輝きが俺の目の前まで達しているときだった。
「卜部、【避けて】。」
「うぉおお!?」
ドガーーーン!!!
身体が勝手に動き、セチュラの妖術を寸前のところで回避した。
なんだ?何が起きたんだ?
「あなたも人を支配する能力なの?一緒ね。」
いつのまにかネルの前にセチュラが移動していた。
移動が早すぎて、見えなかった。
「支配じゃない、使役。」
「一緒じゃないの。」
「違う。支配は下品。」
「なんですって!?」
セチュラの打撃をネルは高く飛んで回避する。
そして空中でリュックからふわふわの羊のぬいぐるみを取り出した。
「【使役:メリーさん】。」
メリーさんは空中で大きくなり、
すごい速度でセチュラ目がけて落ちていく。
パァン!
セチュラはそれを1発で破裂させ、綿が散乱する。
「子供だましね。全然弱い。」
「メリーさんは弱くないよ?」
「!?」
空中に散乱していた綿はぬいぐるみの中身ではなく
メリーさんについていたふわふわの毛皮だった。
その毛皮が再度集合し、セチュラを包み込み身動きを封じる。
ネルは着地し大事そうにリュックから
剣士のぬいぐるみを取り出す。
「お願い。【使役:白面の騎士 ソリウス】。」
ネルはぬいぐるみにキスをして、上に投げた。
着地してきたのは、白面を被った騎士。
「お任せてください。ネル様。やぁああああ!!!」
白面の騎士は、毛皮ごとセチュラを斬りかかった。
しかしその直後に黒い光によって毛皮もろとも
吹き飛ばされてしまった。
「お遊戯会はおしまいかしら?」
「無傷かよ……。」
「それじゃあ見せてあげるわ。
あなたが言う支配と使役の違いって奴を!」
「セチュラの使命はなんだっけ?」
ビクンッ!!!
セチュラは動きが止め、振り向くと
そこには二つ括りのギャルと見たことがない男が立っていた。
二人の後ろには、二つ括りのギャルの能力なのか
ワープホールのような黒い空間がうごめいていた。
「ごめんね、セっちゃん……。」
「オ、オーエン……。」
「オーエン【様】だよね?」
男は手のひらに何か黄色の球を持っており、
それを強く握りしめる。
「あぁああああああああ!!!!」
すると、急にセチュラが苦しみだす。
その悲鳴から生命に関わるほどのダメージを受けているように聞こえる。
な、なんだこいつは?
こいつも【大罪の悪魔】なのか?
「セチュラの使命はなんだっけ?」
「こ、この街と……、半妖を消すこと……です……。」
「うん。そうだよね。じゃあ、ちゃんとやって?」
「は、はい!!」
男は笑顔でセチュラを見つめ、ワープホールに入って
二つ括りのギャルと共に去っていった。
セチュラはガタガタと震えている。
「あんたたちのせいだ……。あんたたちのせいで!!」
ゴゴゴゴゴゴッ
空気が急に重く、突き刺さる。
「【穢土掌握:恒常性耳目欲可視症候群】!」




