半妖の街 ヨーデル⑥
「【嫌悪解放:バーニングソウル】!」
バーンが右手の手袋を外すと、【嫌悪臭】が増大し
右手から激しい炎が発生し、右半身を包んだ。
出たぞ!バーンのバーニングソウル!
あの状態のバーンは無敵だ!!
観客から解説が飛び交う。
おそらくあれがバーンの能力なんだろう。
「【炎の神に嫌われている】のだろうな。」
アセナさんは落ち着いて状況を説明してくれた。
神様には様々な種類が存在する。
リーリィのように【幸運】といった概念の神もいれば、
【斧】や【金属】など物質を司る神もいる。
その中でも【炎】のような五大元素を司る神は、
強力で神としてもひとつレベルが違う。
バーンはその神に【嫌われている】のだ。
【嫌われ者】であっても強さは群を抜いている。
「この街は俺が守る!!食らいやがれ!!」
わーーーー!!!!
バーンの声に歓声が上がる。
三人は、バーンの攻撃を寸前のところで避ける。
「チッ!あいつの好きにさせてたまるかよ!
おい!あれやるぞ!」
「了解した。」
「う、うん!」
「【魔術:嘘つきの約束】!」
乱暴な口調の男が魔術を唱え、半透明な紐を出現させる。
それを振り回し、バーン目がけて投げつけた。
「紐なんて焼きつくしてやるよ!」
バーンが紐に向かって拳を向けたが、その攻撃は当たらない。
紐は拳に当たる瞬間に透明になり姿を消した。
「なに!?」
「捕まえたぜ!」
乱暴な口調の男は紐を引っ張り、
輪っかを作ってバーンの両腕と胴体を一緒に
投げ縄の要領で紐を縛り付けた。
バーンはその紐を右手の炎で焼こうとするが、
不思議な力で燃やすことができない。
「よそ見はいけませんよ。」
いつのまにか眼鏡を掛けた魔術師は、
紐を燃やそうとしているバーンの頭上を飛んでいた。
「あなたが燃えてくれているので、
大気中に水蒸気が有り余っていますよ。
【魔術:鉄砲雨】」
大気中の水分が凝固し、無数の弾丸に変化し
バーンに降り注ぐ。
「ぐぁあああ!!!」
腕でガードすることが出来ないバーンに
銃弾の雨は容赦なくダメージを与えた。
「く、くそが……!」
「ご、ごめんね?」
気が付くと、気弱そうな女の魔術師が
バーンと繋がっている紐を持っていた。
「【魔術:いたずら電気】」
女が放った電撃は、勢いよく紐を伝ってバーンへ向かう。
先程の眼鏡の魔術師の降らせた雨によって
紐が十分に塗れており、電気の伝導力を高めているようだ。
「がぁあああああああ!!!!」
バーンは、電気ショックを受けて膝をついてしまった。
右腕の炎は一気に弱くなる。
観客がどよめきだす。
まさか、バーンが負けるだなんて……。
「見たか!これが俺らのコンビネーションだ!」
「一気にとどめを差しましょう。」
男2人がバーンに向かって飛びかかる。
「まずい!このままじゃ――。」
「待て。」
助けに行こうとした俺をアセナさんは制止する。
「なんでですか!?このままじゃバーンが!」
「奴の炎は消えていない。」
「え?」
ドガーーン!!
バーンの右腕が怒り狂ったように燃え盛る。
その炎を受けて、紐はみるみるうちに溶けていく。
バーンに飛びかかっている男2人は
その炎に驚き、後退する。
「な、なんだ!?俺らの攻撃が効いてないのか!?」
「いやぁ……。効いたぜ。
おかげで肩こりが治った。」
バーンの復活に観客は歓声を上げる。
「おい!お前電気の強さが足りなかったんじゃないのか!?」
「そ、そんなことないよ……。」
「揉めている場合ではありません!来ますよ!」
バーンは勢いよく、三人組に向かって走り出す。
「来るな!【魔術:鉄砲雨・五月雨】!」
眼鏡の男がバーンに向けて、地面と平行に無数の銃弾の雨を放つ。
「同じ技を二度食らうかよ!」
バーンは自分を炎で纏い、飛んでくる銃弾の雨を蒸発させる。
「ひとりめぇ!!!」
炎の拳が眼鏡の男に直撃する。
「ガハッ!!!!」
その一撃で男は気絶してしまった。
「クソが!!【嫌われ者】の分際で!!」
「俺はなぁ!神に【嫌われてる】んじゃねえ!
俺が神を嫌ってるんだ!!!」
ドガーーーン!!!!
「ぐはぁああああ!!!」
乱暴な男はバーンの一撃をなんとか凌いだが、
相当なダメージを負ってしまったようだ。
「ぐ……、おい助けろ……!!
俺が居ないとお前は何にもできないだろうが……!」
男は気弱な女の子に命令する。
「おい!聞いてんのかよ……!このクソ女……!!」
「あーあ。もう飽きちゃった。」
「……は?何言ってんだお前?」
「飽きちゃったって言ってんのよ。人間のフリするの。」
「お前何言ってんだ――。」
「【爆ぜろ】」
ドガーーーン!!!
女が命令すると、男は一瞬にして跡形もなく
内側から爆発してしまった。
な、なにが起きているんだ?
「てめぇ、自分の仲間に何したんだ?」
「なんだって良いじゃない。
それにあんなのを仲間だなんて言わないで頂戴。」
「質問に答えろ!お前は仲間に何を――。」
ドサッ
「うるさいねぇ。少し黙れないのかしら?」
女の動きが目で追えなかった。
気が付くと女はバーンとすれ違っており、
バーンの左腕は切り落とされ、地面に落ちていた。
「な、なあああああああ!!!」
バーンの左肩から大量の血が噴出する。
「黙れって言ったの、わからなかったのかしら?」
女はバーンにとどめをさすように手刀を繰り出した。
ガシッ!!!
「そこまでにしてもらおうか。」
女の攻撃をアセナさんが受け止めた。
まったくスピードについていけなかった。
「あらぁ。狼さんこんにちはぁ。」
女は不気味にニヤッと笑った。




