半妖の街 ヨーデル⑤
「お、おまえ……。」
「なんだよ。顔ジロジロ見やがって。
この火傷は生まれつきだ。」
俺達の後から、
今回の調査対象である バーン・ザ・ビー 本人が入ってきた。
バーンは、リーリィが大きめのお湯に浸かっているのを確認し、
そこから遠い小さ目のお湯に入った。
ジューーーーー!!!!
バーンが入ったお湯から激しくお湯が蒸発する音が聞こえた。
な、なにが起きてるんだ。
「なに。変わったことじゃねえ。
いつも通りだ。気にすんな。」
こんな激しい音を聞かされて、気にしないなんて無理な話だ。
水がこんな音を発する状況といえば、
熱々のフライパンなどを水につけた時だ。
つまり、バーンは高熱を帯びているということか?
「私達を攻撃しないのか?」
アセナさんはまたしても好戦的な事情聴取を始める。
「あぁ?それはこっちのセリフだ。
まぁ、観客がいねぇ時にやりあったって一銭の金にもならねぇしな。」
意外と理性のある男で助かった。
真っ裸で戦いが始まったら色々と困る。
「それに、俺の勘違いだったかもしれねぇしな。
すまんかったな。少年。」
「お、おう。」
男は俺しかいないから、おそらく俺に言ったんだろう。
この年で少年と言われるとなんだか変な気持ちになる。
「お前には色々聞きたいことがある。
たが、ひとつ先に言っておく。
私達はお前の味方だ。」
「へっ。そりゃどーも。」
なんとか、戦わずに済みそうな空気が流れる。
そこからバーンについて色々と聞かせてもらった。
半妖の街にたどり着いたのは、半年前。
それまでは【嫌われ者】であることから
生まれ故郷を追われ、点々と旅をしていたそうだ。
どこにいても【嫌われ者】であることに負い目を感じ、
能力を命の危険が及ぶギリギリまでは封印していた。
しかし、魔術師達は何故かバーンの前に現れる。
魔術師との戦いで能力を使い、居場所がなくなる。
この負の連鎖をずっと経験していたんだとか。
しかし、半妖の街 ヨーデルは違った。
半妖たちは、自分の能力を見ても驚きはするものの
決して恐怖・軽蔑はしない。
最初は、人間であることから忌み嫌われていたが
魔術師との戦いを目にしてその実力が認められ
今ではスターのように扱ってくれる。
バーンはやっと自分の居場所を見つけたんだ。
「だから俺は、この街を魔術師から守る。それだけだ。」
そう言ってバーンはお湯から上がり、脱衣場へと去っていった。
「バーン、良い奴。」
「そうだね。」
「ふむ。なら奴への対応は2つのうちどちらかだ。
1つは、神殿へと連れていき、保護する。」
バーンのことだ。
この街から連れ出すことは容易ではないだろう。
「まぁこちらは難しいだろう。
やすやすとこちらの要求を飲むような奴ではない。」
「それじゃあどうするんですか?」
「2つ目は、私達の手で奴を処分する。」
処分する?
それってどういう意味だ?
「強力な力を持ってしまった【嫌われ者】は、
魔術師に狙われやすい。万が一魔術師にその力が渡ってしまった場合、
世界の調和が乱れてしまう可能性がある。」
アセナさんは淡々と話し続ける。
まるで、【嫌われ者】を殺すことが正解だと言わんばかりに。
「だから私達の手で処分する。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
話した感じ、バーンは危険な奴じゃ無かったじゃないですか!」
バーンはただ自分の居ていい場所を見つけただけなんだ。
そこを守るために戦っているだけなんだ。
「奴が危険かどうかは、問題ではない。」
「それでも!」
バシャーーン!
水しぶきが上がる音がした。
リーリィがお風呂から立ち上がったんだ。
「そ、そうれすよ!バーンさんはあびゅなひ人でふぁ……。」
リーリィが倒れそうになった瞬間に、アセナさんが近づき抱きかかえた。
「馬鹿者。浸かり過ぎだ。」
リーリィがのぼせてしまったことで、この場はおひらきとなった。
部屋に帰っても俺達は一言もしゃべることはなく、眠りについた。
カンカンカン!!
「うぉおあ!?」
街中に鳴り響く鐘の音で俺達は強制的に起こされた。
なんだ!?火事か!?
「バーン・ザ・ビーのショーが始まるぞ~~!」
声のもとを探して部屋の角を見ると、口が空中に浮いて喋っていた。
「な、なんだこりゃ!?」
たまらず部屋を出てみると、
宿屋のそこらじゅうにその口が浮かんでいた。
「気色の悪い、妖術だな。」
アセナさんも起きていた。
昨日のことがあったからか、少し気まずい。
「おい、起きろ。狐娘。バーンのショーが始まるぞ。」
「ん……?バーン……。ほんまに!?」
狐娘はバーンの名前を聞いて、急に覚醒した。
バーン効果恐るべし。
俺はリーリィを起こそうとベットに近づいたが、既に起きていた。
まぁあの騒ぎがあったんだから当たり前か。
「卜部さん。おはようございます。」
「うん。おはよ。」
ネルちゃんを起こそうとソファーの方を見ると、
空中に浮いていた口を引っ張って遊んでいた。
そんな汚い物触っちゃいけません。
「皆行くぞ。」
アセナさんは俺達を先導するように宿屋を出ていく。
俺も必死に追いかける。
昨日の今日だ。
アセナさんはきっとバーンを殺そうとする。
「この目で確かめる。対応はその後に考えても遅くはないだろう。」
アセナさんの最大限の譲歩なんだろうか。
すぐにでも、という考えじゃなくて安心する。
道に出たところですぐに人だかりに遭遇した。
あそこだ。
わーーーー!!!
歓声が聞こえる。
人をかき分けて中を覗いてみると、
そこにはマントを着た2人の女の子を庇って
血を流しているバーンの姿があった。
「てめぇら……、人が宗教勧誘受けてる時に不意打ちかよ……。」
「ヘッ!【嫌われ者】が宗教勧誘を受けるとは世も末だな。」
「ククク。違いありませんね。」
「だ、だめだよ!人を馬鹿にしちゃ……。」
バーンを倒すために魔術師が三人も集まっている。
こいつら仲間なのか?
「チッ。あっち行ってろ。
こいつら倒した後でじっくり話聞いてやるからよ。」
そういってバーンはマントの二人を逃がした。
「ヘッ!話の続きなんて聞けねぇよ!」
「何故ならあなたはここで敗北するのですからね。」
「ご、ごめんね……?痛くないようにするから。」
一人は、乱暴な口調の男。
もう一人は眼鏡を掛けた、いかにもデータ派な男。
最後は、気弱そうな女の子。
こいつら三人とも魔術師か?
3対1はさすがに分が悪すぎる。
するとバーンは俺達に気付いたようだ。
「なんだよ。てめぇら居たのかよ。
なら、カッコ悪いとこ見せらんねぇな。」
バーンは自分の右手にはめている手袋を外した。
すると【嫌悪臭】が比べものにならないほど増大し、
右手から激しい炎が発生し、バーンの右半身を包んだ。
「【嫌悪解放:バーニングソウル】!」




