半妖の街 ヨーデル④
「さぁさぁ入って。狭いとこやけど。」
クロエは自分の家かのような口ぶりで
予約していた部屋に案内してくれた。
ツインベットとソファーが置いてある結構大きめの部屋だ。
これが狭いと言えるというこは良いとこのお嬢様か?
「うむ。すまないな。」
そういうとアセナさんは躊躇なくベットで寝転びだした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
ベットが2つしかないんですから
ここは公平にじゃんけんで決めましょうよ!」
「何をいう。小僧以外全員おなごだ。
小僧がソファーで寝ればよい。」
ぐむむ……。正論だ……。
でも正論じゃ誰も救えないよね!?
「別にウチは、卜部と一緒のベットでもええで~?」
「右に同じ。」
「わ、わたしも別に大丈夫ですけ……ど……。」
救世主が現る!
リーリィはちょっと遅れて照れくさそうに言ってくれた。
「むむ、よかろう。
なら公平にじゃんけんといこうじゃないか!」
アセナはがバッと立ち上がり、拳を天高くかざす。
圧倒的な自信があるようだ。
そりゃそうか。
あれだけ戦い慣れているんだ。
瞬時に相手の出す手をを見極めて手を出すことくらい造作もない。
「寝る……。」
勝ってしまった。
アセナさんだけグーで、他の全員は揃ってパー。
一番屈辱的な負け方である。
アセナさんはいじけてソファーで丸くなっている。
対戦前のあの自信はどこから来たんだろう。
まぁ小細工無しで戦ってくれたことに感謝しよう。
アセナさんのこんな姿滅多にみれないんだ。
スマホがあったら撮影したいところだ。
「じゃあ卜部はウチと寝よっか~。」
クロエが寝ころびながら掛け布団を持ち上げて誘う。
「う、卜部さん!も、もし良かったら……こっちに……。」
逆サイドでリーリィが顔を真っ赤にしながら同じポーズを取っている。
うぉお!?
もしかして俺にモテ期が来たのか!?
狐っ娘ののクロエか、清純なリーリィ。
ぐぁああ!どっちも選べない!!
選んでいるこの時間が一番ワクワクするよね!
一生続いて欲しい時間だ。
「なら私がこっちに行こう。」
ズボッ
アセナさんはクロエの布団にもぐりこんだ。
「うぇえ!?アセナさんはソファーでしょ!?
なに俺の至福の時間を邪魔してんの!?」
「見ろ。変わってくれたんだ。」
アセナさんが指さしたソファーのところでスヤスヤと
ネルちゃんが寝ていた。
たしかに体格的にはあってるけどさ。
「やったら卜部は、リーリィちゃんと寝るんやね~?」
クロエとアセナさんはニヤニヤしながらこっちを見ている。
あいつらこれが狙いだったな。
「お、おう!そうだよ!ね?リーリィ?」
「は……はい……。」
な、なんだよその反応は!?
あいつらに負けないように、全然平気です的な態度を取ったのに!
「ほらほらぁ~。はよ入りぃや~。」
「そうだぞ。おなごを待たせるなど言語道断。」
外野がやいやいと騒いでいる。
なんだが知らないが心臓がドクドクと脈打っている。
「し、失礼しまーす。」
ぎこちない動きで同じベットに入った。
ドクンッドクンッ
心臓の音が聞こえる。
リーリィと反対方向を向いて、寝ころぶ。
ふと背中が触れてしまう。
ドクンッドクンッドクンッ
一瞬ビクリとするが、お互いに離れようとはしない。
心臓の音は音量を上げる。
だめだ。
これじゃ隣にいるリーリィまで聞こえてしまうかもしれない。
おさまれ。おさまってくれ。
ドクンッドクンッドクンッドクンッ
「お風呂ターーーイム!!!!」
「「うわぁあああ!!!!」」
クロエが急に大声をだすので、リーリィと一緒に叫んでしまった。
「なんや二人とも、びっくりしすぎやで?
あ!なんか変なことでもしてたんとちゃうん~?」
「そんなことするかよ!」
「あはは。冗談やって。
そういえば、お風呂入ってへんかったやろ?
ここの温泉がめっちゃええんよ。入りに行こ!」
なんて勝手な奴なんだ。
でも正直助かったかもしれない。
あのままでは寝るに寝れなかった。
こうして俺達は男女別の脱衣所へと向かった。
「ほな。またー。」
「お、おう。」
それにしてもドキドキし過ぎてしまった。
やはり同じ部屋で寝るのと、同じベットで寝るのでは
威力が違い過ぎる。
そんなことを考えながら、服を脱ぎ
温泉への扉を開けた。
「おぉ。久しぶり。」
「な、なんで混浴なんだよ!?」
先程別れた3人が、タオルで身体を隠した状態でそこにいた。
「あぁそっか。半妖はあんま性別とか気にしぃひんしな。」
「う、卜部さん!?」
リーリイは顔を真っ赤にして、
高速で温泉に近づき、屈んで掛け湯をして温泉に入って身を隠した。
律儀な子だ……。
「せっかくだ、小僧。背中を流せ。」
アセナさんは全然動じていないようで、逆に安心した。
しかし、近くで見るとなかなか……。
そんな煩悩まっしぐらなことを考えていると、
温泉の扉がガラッと開いた。
「なんだ。てめぇらもここの宿に泊まってんのか。」
そこには、さっき揉めた張本人であるバーンが立っていた。