決意の朝
俺たちは、当てもなく走り続けた。
口の中は、血の味で一杯になり息を吸うことも苦痛へと変わる。
それでも俺たちは走り続けた。
クロムが繋いでくれたこの命を必死に守るために。
しかし人間の体力にも限界がある。
手を引いていたリーリィも、既に限界を超えている。
周りを見渡しながら少し立ち止まると、木の陰にほら穴があることに気が付いた。
「はぁ……、はぁ……。あそこに隠れよう……。」
「うん……。」
ほら穴の中に入るや否や足が直立を諦め、倒れ込んでしまった。
真っ暗な天井を見つめながら、息を整えて体力が回復していく。
それと同時に自分の無力さに対する悔しさがじわじわと湧き上がる。
「リーリィ様を頼んだぞ。卜部。」
クロムのあの一言が耳から離れない。
俺は弱い。
隣では、シクシクとリーリィが泣いている。
強くなるんだ。そうじゃないとリーリィを守れない。
俺は強くなると決意したが、活動限界からくる瞼の重みに耐え切れず、気を失うように眠ってしまった。
「おはようございます。卜部さん。」
「ん……、リーリィおはよ。って寝ちゃってた!」
「あはは。追っては来ていないようですので、もう大丈夫ですよ。」
目を赤くはらしたリーリィは精一杯の笑顔でほら穴の外を見据えていた。
「私、決めました。もう泣きません。クロムが言ってましたから。立派な神様になってくださいって。」
「そうだね。」
ほら穴の外から差し込む光が後光のようにリーリィを照らしている。
無理やりであったが、その笑顔はまぶしく輝いていた。
「私はこれから神殿に向かいます。」
「神殿?」
「そこで引継ぎの儀式をしないと実は、ちゃんとした神様として認められないんです。クロムとは旅をしていて、ちょうどいい小屋があったのでそこで修行がてら寝泊まりをさせて貰っていたんですよ。」
リーリィは、神様についての話をしてくれた。
神殿までの道のりは険しく、道中で昨日のような奴らに出くわすことは珍しくないらしい。
神殺しによって、神の能力が奪われてしまうことは絶対に知られてはいけないし、話すことさえも禁忌とされていることなど。
話を聞けば聞くほど、リーリィのこれからが心配でどうしようもない。
「それじゃあ行こっか。」
「え?」
「俺も強くなるって決めたんだ。リーリィを守れるくらいに強くね。」
「ふふふ。それは頼もしいですね。」
二人は、ほら穴から光の差す方へと足を向けた。
決して "ついていく" という言葉は口にしない。
ついていくんじゃない。俺がつれていくんだ。




