王都防衛⑫
2体目の魔獣は時空の切れ目と同時に消えていった。
ルカインは瓦礫に登り、壊れてしまった建物を眺めていた。
「どうしたんだ?」
コーリンは、ルカインの少し寂しそうな顔を見て声を掛けた。
「いや、神様はやっぱすげぇなって。
俺がもっと強ければ、スーパーヒーローになれたかもなって。」
「ヒーローなら、もうなっているじゃないか。」
「え?」
ルカインが振り向くと、
瓦礫の下に一緒に戦ったみんながこちらを見上げていた。
「お前の手助けがなければ、魔光線で全員死んでいた。そうだろ?」
「あぁ。助かったぜ。ルカイン。」
「まぁ今回は褒めてもいいんじゃない?」
みんなが笑っている。
「ははっ……。なんだよ。俺、もうなってたのかよ。」
ルカインは空を見上げた。
朝の光が目からの分泌液に乱反射して眩しい。
「ルイン。」
「おねえちゃん。」
姉弟は改めて向き合う。
姉が手を広げ抱きしめようとしたが、弟がそれを手で静止する。
「守らなきゃダメなものが出来たんでしょ?
俺はもう大丈夫。……強いから。」
ルインはリップを横目で見て、必死に笑顔を作る。
「そうか……。そうだな。」
二人は、固く握手を交わす。
血のつながっているもの同士。これで十分なんだろう。
「そうだ。お姉ちゃんの【嫌悪臭】取ってあげるよ。」
「救済 というやつか?取らなくていい。
これのおかげでまたルインに会えたのだから。」
ざわざわざわ
「なんだ!?何が起きたんだ!?」
王都の人達が起きてきた。
崩れ落ちた王都の街並みを見て、騒ぎになりかけている。
「まずいな。みんな、神殿に戻るぞ。」
「え?でも王都はどうすれば?」
「私達は神だ。後でなんとかするさ。」
そういうと、アセナは飛んでいってしまった。
「それじゃあ、元気でな。」
「うん。そっちもね。おねえちゃんを任せたぞ。」
「……わかった。」
別れを告げて、俺達は神殿へと向かった。
同じ空の下で生きているんだ。
きっとまた会える。
神殿に戻る際に、神力を使った移動の仕方を教わった。
足に神力を込めて、走力を上げる方法だ。
まだまだ集中しないとできないが、
これが無意識にできるようになれば、戦闘でも活かせる。
コーリンはそれが出来ているようで、
置いて行かれないようにするのがやっとだった。
それにしてもリップの【神力奥義】はすごかった。
まだ完全にコントロールできてないようだったが、
マスターすれば、崩壊した王都だって直せてしまう。
「卜部、疲れていないか?」
「いや、もうヘトヘトだよ。集中が持たない。」
コーリンはリップをおんぶしながら余裕の表情だ。
「おい、コーリン。小僧を甘やかすな。
これも修行のうちだ。」
あれだけの戦闘の後に、まだ修行をさせてくるとは。
「む。神力が戻ってきたな。」
ボンッ
アセナさんは狼の姿に変身し、少しスピードをあげた。
「小僧、このスピードについて来い。」
狼じゃなくて、鬼だな。
俺達は、神殿に向かって走り続けた。
「はぁ……、はぁ……。ついた……。」
「各自、声がかかるまで自室で待機だ。」
「わかりました。」
そういうと、散り散りに自室へと帰って行った。
いやいや、俺帰るところないんですけど!?
仕方ない。
「で、なんで私のところにくるんだよ!」
「いや、リークちゃんしか知ってる人居なくてさ。」
俺は知っている。
リークちゃんは頼まれたら断れないツンデレさんであることを。
「まったく。一晩だけだぞ。」
「ありがとう!リークちゃん!」
「あと!リークちゃんってのやめろ!」
リークちゃんの部屋は、一目見ただけでは
何に使うのか分からないような機械が至る所に置いてある。
これは全部、【工学の神】であるリークちゃんが作ったものだ。
「ん、食べな。」
「あ、ありがとう。」
どうやら食事の時間らしい。
リークちゃんも椅子に座って、
何やら得体の知れないものを机の上に乗せてきた。
「これ……なに?」
「ん?何って目玉焼きだろ。どう見ても。」
「いやいや、目玉焼きではないだろ!?」
どちらかというとスクランブルエッグに
近い見た目で、色は紫色のものをモグモグと食べている。
「なんだよ。食べないのか?」
「いや……、いただきます。」
好意にしてくれてるんだ。
召し上がらなければ。
「ん!?うまい!?」
「ははは。そうだろー。」
訳が分からない。
こんな見た目の食べ物がおいしいわけがない!
料理工学とかあるのか?
「リーリィ大丈夫かな?」
「あー、いまアイナの修行受けてるんだろ?
まぁ身体は大丈夫だろ。」
「身体は?」
「そ。精神はどうなってるか知らないけど。」
なんだよそれ。
精神がイかれちまうような修行なのか?
俄然心配になってきた。
「心配なら見て来たら?アイナの部屋は真向いだから。」
「そ、そうだな。ちょっと見てくるわ。」
リークちゃんの部屋を出て、
廊下を挟んだちょうど真向いに扉が1つあった。
廊下を歩き、扉に触れようとした瞬間、
「はーい。ここからは男子禁制ですよ。」
扉と腕の間にアイナさんが現れた。
驚いて腕を引っ込めなければ、ラッキークリーンヒットしていたのに
引っ込めてしまった自分の反射神経がにくい。
「男子禁制ですか?アイナさんの部屋が?」
「いまはリーリィさんが修行中ですので。
普段であれば、全然いいんですよ?」
なんだよ、その男を誘うような上目遣いわ!
命の恩人に言うのもなんだけど、この人は
きっとサークルクラッシャーの素質があるぞ。
「あ、そうだ。明日で修行は終わりますので
リーリィさんの修行の成果を見に来てあげてください。」
そういうとアイナさんは
俺にチケットのようなものを渡してくれた。
「神様フェスティバル?」