王都防衛⑦
私はメルンという小さな村で生まれ育った。
父は冒険家で家にいることはあまり多くなかったが、
母がとても優しい人で全然寂しいという思い出はない。
よく母親と二人で山に登って山菜を集めていた。
帰りに疲れてしまった私をよく母はおんぶしてくれていたっけ。
そして、私が6歳のとき 弟 が産まれた。
名前はルイン。
肌はもちもちで目はくりんくりん。
それはもう天使のようだった。
父親はあまり帰ってこなかったが、
三人で仲良く暮らしてたんだ。
しかしそこに1通の手紙が届いた。
父の訃報だった。
冒険家だった父は、訪れていた町に起こった戦いに
巻き込まれて死んでしまったそうだ。
後々になって分かったが、
それは【嫌われ者狩り】による戦いだったそうだ。
そこから私達の生活は一変した。
父が帰って来るときはいつも大量の金貨を持ち帰ってきていた。
それを生活資金としていたので、当然だ。
母は朝早くから夜遅くまで働きにでた。
私は家のことや弟の面倒を任され1日中ぐったりだった。
仕事から帰ってきた母は、もっとぐったりしていて
私達と一言も会話せずに寝室に直行するなんてこともあった。
そして私が9歳のとき、母は壊れてしまった。
耐え忍ぶ生活に嫌気が刺したのか、
働きにもでず、朝から酒を飲んでは男を家に連れてくる。
男が家に来た日は、私達は押し入れにいるように命令された。
真っ暗な押し入れの中で、弟と手を繋いで
家の中が静かになるのをただじっと待っていた。
目を瞑れば暗闇も怖くない。
ただお姉ちゃんの手の温もりだけに集中すればいいんだよ。
震える弟の手をぎゅっと握りしめ
私が弟を守らなければならないと決心した。
その次の日、悲劇は起きた。
母は、神父の服を来た男を家に連れてきた。
家に入るなり、私の【嫌悪臭】に気付き
押し入れの中を探し当て、私に
「こいつは悪魔の子だ!
こいつがいると君は不幸になる!」
と叫んだのだ。
壊れてしまった母は、
まともな思考回路もなくその男の言うことを信じた。
私は泣いて否定したが、聞く耳を持ってくれなかった。
こうして私は捨てられた。
しばらくは、捨てられたことへの衝撃で
当てもなくフラフラと歩き続けた。
どれだけ歩いたかもわからない。
そして大雨が降った夜。
私はとうとう倒れてしまった。
何日も食事を取ってなかったんだ。当たり前だ。
私はここで死ぬのか。
そう思ったとき、目の前に大きな男が現れた。
そこで私は意識を失った。
「おい、起きろ。てめぇの分の飯だ。」
「ちょっとディードさん!そんな言い方あんまりですよ。」
そこは、修道院だった。
倒れてしまった私を大きな男 ディードが連れてきてくれたんだ。
「何があったかしらねぇけどよ。
もうお前は死んだんだ。あの夜にな。
だから新しく生まれ変われ。そんで飯食って寝ろ。」
ディードの言葉は不器用で尖っていたが、
根幹に優しさが溢れていた。
9歳の私でも何故かそれが感じられた。
そして私は、何日かぶりのご飯を口にした瞬間、
涙が溢れてきた。
ハンナさんは私を優しく抱きしめ、もう大丈夫。と
何度も頭を撫でてくれた。
「つらいことがあったのなら全て受け止めてあげます。
なんでも話してください。」
その優しい言葉を皮きりに、
私は雪崩のように今までのことを話してしまった。
それを聞き終わったディードは、
「なら、強くなって弟を迎えに行かねぇとな。」
そう言ってくれた。
そこから私の修行は始まった。
なぜ強くならないといけないのか。
私には分からなかったが、今思えば
弟と二人で暮らすためには、私の【嫌悪臭】に寄ってくる
【嫌われ者狩り】を退ける必要があったからだ。
そこで私は7日間の特急修行を体験し、回路を開くことに成功した。
ディードやハンナさんは私の素質に驚いていたが
私自身はその自覚が全くなかった。
戦闘についてもディードに教わり、
私はメルンの村に戻った。
これで弟を連れて、二人で旅をしよう。
そうすれば、幸せな生活ができる。
父親が冒険家だったんだ。
私にもその才能は受け継がれているはず。
そうウキウキしながら村の前に着いたとき、
私は自分の目を疑った。
メルンの村は跡形もなくなっていたのだ。
「どうやら魔術師の襲撃があったらしい。
そこでルインの消息が途絶えたのだ。」
「そうだったのか。」
ルカインは、コーリンの過去を魔人と戦いながらも
茶々を入れずにしっかりと聞いた。
「お前がルインと出会ったときの話を聞かせてくれないか?」
「あぁ。いいよ。俺がルインと出会ったのは――。」
ドガーーン!!!
「!?」
王都の中心、平和の時計塔の辺りから大きな音が聞こえた。
二人は、音のなった方へ振り向くとそこには大きな黒い影が見えた。
「ゆっくり昔話もしてらんないようだ。」
「あぁ、そうだな。話は後でしっかりと聞かせてもらう。」
「いいとも。ゆっくり酒でも飲みながらな!」
二人は、平和の時計塔に向かって走り出した。