表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/125

夜の来訪者②

「こんばんはぁ〜〜?」


 見知らぬ男が、嫌がるリーリィの腕を掴んで扉の前に立っている。


 男の顔は、ツギハギだらけでもはや原型を留めていない。

 しかし、どこが統一性のあるような不思議な雰囲気を醸し出していた。


 この男は、あぶない。不思議な雰囲気と共にビリビリと身体に危機感を感じる。



「嫌悪のいい匂いがするから来てみてたら、神職者さんもいるじゃないですか。」

「その子を離せ!」

「君だね。すごくいい匂いだ。これは期待できそう。」

「てめぇ、何もんだ?見た感じ神職者じゃねぇな。何故嫌悪臭がわかる?」


 ツギハギ男は不気味にクククと笑い、

 大好きなおもちゃを自慢するように自分の鼻を指でトントンと触りだした。



「この鼻、通りすがりの神職者ちゃんに貰ったんだ。

 形が好みで1番のお気に入り。」


 神職者から貰った……?

 どういう意味だ?じゃあその子はいま一体どうなっているんだ?



「痛いよ痛いよって可哀想だったけど、欲しかったしさ。貰っちゃったんだ。」

「てめぇ!もう黙れ!リーリィ様をはな――」

「しっ。まだ僕が話してるでしょ。」


 男が自分の口に人差し指を合わせた瞬間に、

 クロムの声は虚空へと消えていった。


 その後もクロムは口をパクパクし

 何かを話しているようだが、声が聞こえない。


 男は、指をそのままに話を続ける。



「その神職者ちゃん、【沈黙の神様】の護衛だったんだよ。

 離れ離れは寂しいと思ったから、神様も殺してあげたんだ。

 そしたらこんな能力が手に入っちゃったんだよね。」


 言い終わると、男は指を口から話した。

 するとクロムの声が聞こえるようになった。



「神殺しは重罪だぞ!わかってんのかこの野郎!」

「わかってるよ~。でもまさか能力が手に入るなんて知らなかったなぁ~。

 あ、そういうこと?知ってて黙ってたわけ?

 噂が広まったら君たち危ないもんね!?」


 男は、リーリィを掴みながらぐるりとその場で上機嫌に回った。


「でも大丈夫。危ないのは今日で終わり。この子も君たちも。」

「……、リーリィ様。お許しください。」

「!? クロムいけません!」

「【神術解放(レーツェル リリース)】」


 クロムが呪文を唱えると、床からクロムを囲むように風が流れ出す。

 腰を落とし、勢いよく右足で地面を蹴る。


 その瞬間クロムは目にも見えない速さで、

 男に詰め寄り、左頬へ右ストレートを浴びせた。

 

「ん~。いいパンチだ。」


 男はクロムの右腕を掴み、

 逆の手で掴んでいたリーリィを扉から外に投げ出した。

 

「僕、おいしいものは最後に食べる派だから。さ。」

「ぐっ!!」


 リーリィを掴んでいた腕でクロムの腹を一発殴る。

 その勢いでクロムは後ろへよろけてしまう。


「まずは、弱めにね。【魔術:切創風(シェーレ ヴィント)】」


 男が呪文を唱えると、突風が吹き荒れ

 その風に当たってしまったクロムは服ごと身体に切り傷が刻まれていく。


「あーあー、綺麗な服が台無しだよ。

 縫ってあげよう。【魔術:縫合Ⅰ(ナート・ワン))】」

 

 空中に大きな針が出現し、クロムを突き破る。


「ぐはっ!!」

「あー、まだ針刺しただけなのに。」


 クロムから鮮血が飛び散る。


「クロム!!」


 投げ飛ばされたリーリィが戻ってくる。

 しかし、そこには大きな針に貫通されたクロムの姿があった。


「そ、そんな……。」


 リーリィは、変わり果てたクロムの姿を見てその場でへたりこんでしまう。


「おかえり。最後に食べてあげるからそこで座って待っててね。」


 なんだよこれ。これは現実なのか?


 さっきまで三人で平和に晩御飯を食べていたじゃないか。

 こんなでたらめなことってあるかよ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」

「ちょっと!急に叫ぶとかやめてよ。しっ。静かにね。」


 確かに俺は叫んでいる。でも声は聞こえない。


 男はクロムに刺さっていた大きな針を抜き、ゆっくりと俺に近づいてくる。

 針に付着している血を眺めてうっとりとした表情で目の前までやってきた。 


「男なんだから、泣いちゃだめだよ。すぐあの子のところに送ってあげる。」

「人を勝手に殺すんじゃねぇ……。」


男の後ろには血まみれのクロムが立っていた。

身体の傷は命を奪うには十分な程なのに、まだそこにクロムは立っていた。


「俺の神術が肉体強化だけだと思ったのかよ。」


クロムは大きく右手を振りかざし、 その拳が神々しく輝きを放つ。

その光はどんどん大きくなり、小屋全体を灯していく。


「俺の神術は、受けたダメージを倍にして返す。

 その為に技をくらってやったんだ。」

「でもそんな大振りの技、僕は喰らわないよ?」


たしかにクロムを刺した時のスピードは、

 男のノロノロとした動きからは想像もできない速さだった。


あれがあいつの本当の速さなのか。


「俺一人の力じゃ当てられるのは精々5%ってとこだろうな。だがな。」

「【神力展開:宙を舞う金貨(ヘッド・オア・テイル)】!!これでいいんでしょ……、クロム!!」

「あぁ!やっぱりお前は最高だぜ!」

「んー。五分五分ってことね。」

「そういうことだ!くらいな!【神術解放:御礼参ゲット・バック】!!」


クロムは勢いよく男に向けて拳を突きつける。


男は余裕の表情でそれをかわそうと動こうとするが、

クロムを刺した時の衝撃で床が弱っており、床がヘコみ踏ん張りが効かない。


「!?」

「もらったァァァ!!」



ドガーーーン!



勝負は一瞬だった。


クロムの放った殴打1発で、敵の身体は粉々に飛び散った。


僕達は満身創痍のクロムに駆け寄り、

 リーリィは手を添えて神力で治療をしている。


「なんて無茶なことをするんですか!」

「なんとかなったんですからいいじゃないですか……。」

「喋っちゃダメだ。リーリィ頑張って。」

「はい!」


リーリィの手が一段と輝きを帯びる。

クロムの頑張りでなんとかまた平穏を取り戻すことができたんだ。


でも、このまま俺が一緒にいればまた同じような事が起きてしまうかもしれない。


「あーあ。僕の綺麗な身体が台無しだよ。」

「!?」


ありえない。

そんなことはありえない。


奴はさっきクロムが倒したじゃないか。

奴の声が聞こえるなんてありえない。



「魔術:縫合Ⅱ(ナート・ツー)



その声が聞こえた瞬間、部屋に散らばった破片から大量の糸が放出される。


その糸は、無数に織り成しやがて1つの身体が出来上がる。


「鼻が壊れちゃったじゃん。気に入ってたのに〜。」


こいつは化け物だ。


爆ぜたはずの身体は元に戻り、俺たちの前に再び立ちはだかった。

そして、じわりじわりとこちらに歩いてくる。


「足の縫合がまだ弱いみたい。まぁいいか。」


このままではみんな奴に殺される。


俺に何が出来ないか?そう思考を巡らせていると、

 傍らに斧が落ちていることに気が付いた。


俺は一目散に斧を取りに走り、奴目掛けて大きく振りかぶった。


「うわぁぁぁぁあ!!」

「斧は近接武器だよ?そんなところで振りかぶっても――」



ドスッ!



「え?」


斧の刃は見事に抜け、奴の足に命中した。

その勢いで奴の足は切断され、バランスを崩して倒れ込んだ。


「お前ら今のうちに逃げろ!」


クロムは片膝立ちをし、何やら詠唱を始めた。


「クロム!」

「リーリィ様を頼んだぞ。卜部。」


背中で語るクロムの背中は、傷だらけであったが、とても大きく見えた。


「……、わかったよ。」

「嫌!クロムを置いていけない!」

「早く行け!」

「クロムゥ……。」

「 リーリィ様、立派な神様になってください。」

「行こう!リーリィ!」


 俺たちは、走り出した。


 夜の森を当てもなく全速力で。


 どんどんと小屋は遠ざかっていく。

 とりあえず逃げるんだ。できるだけ遠くへ。



「あーあ。逃げちゃった。」

「二人は追わせねぇよ。【神術解放:不完全燃焼(アン エクスプロード)】」

「自爆特攻ってやつ?」

「上等だごらぁ!」


クロムの身体は赤く光り、次の瞬間大きな音をたてて爆発した。



必死に走っていた二人にもその音は届き、

リーリィの目には大粒の涙が流れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うおー! クロムー! いい奴だったのにー! 果たして、復活はあるのか?  [気になる点] 無いです。もう世界観も分かりましたし、展開重視って良いですねえ。 [一言] また明日も読めるなんて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ