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王都防衛④

 街の人は、逃げるルカインが犯人だと決めつけ

 俺たちを被害者だと思ってくれたようだ。


 何とかその場は上手くごまかし、人がはけていった。


 見捨てられたのがショックだったのか、ルインは黙っている。

 なんだか少し気の毒に感じる。


「とりあえず、宿屋で話を聞こうか。」


 この子からもう戦意は感じないので、とりあえず宿屋に戻ることにした。


 部屋の扉の前に立つと、中からスンスンとすすり泣く声が聞こえた。


 あ、まずい。


「た、ただいまー……。」

「お兄ちゃん!?」


 部屋の中には、俺に捨てられたと言わんばかりに

 泣いているピンクのモコモコパジャマを着た

 リップくんがいた。


 パジャマにまでコーリンの魔の手が……。


「だ、だれ……?」


 まぁそうなるよね。


「え、えーっと……。運命共同体?」


 俺の隣でルインはぶすっと黙っている。


 その後、俺はこれまでの経緯をリップくんに説明した。、


「で、なんであんなことしたんだ?」


 ルインはまだ黙っている。


「黙ってたって何も進まないだろ?」


 するとルインはスクッと立ち上がり、トコトコを歩き出した。

 それにつられて俺の身体が勝手に引っ張られ、

 ルインの後をついて行ってしまう。


「なんでついてくるんだよ。」

「鎖が付いてるんだから仕方ないだろ?ていうかどこに行くんだよ?」

「……イレ。」

「へ?」

「トイレ!」


 あぁそういうことか。


 離れるためにベットの方に戻ると、

 ルインもこちらに引っ張られる。


「ちょっと。」

「むむむ……。」


 それを何度か繰り返す。

 引っ張られたり、引っ張ったり。


 繰り返すうちに見えない鎖の長さが

 1メートルほどだということがわかった。


「もう!!漏れるだろ!?」

「ごめんごめん。」


 仕方なくトイレの近くまで同行する形になった。


「音聞いたら殺す。」

「はいはい。わかったよ。」


 どうやら見えない鎖には実体があるようで、

 扉が完全に閉まらない。


 半開きの扉の前でそっぽを向く。


 小川のようなせせらぎが聞こえてきたが、

 殺されると困るので黙っておこう。



「お兄ちゃん、お風呂どうするの……?」



 リップくんは疑問に思ったことを口にした。

 正直それは言わないで欲しかった。


 俺だって、ゆっくりお風呂に入りたかった。

 でも流石にこんな状態でお風呂になんて――。



「お風呂はいりたい!」

「うぇええ!?」



 なんなんだこの子は!?

 この状況を理解しているのか!?


「なんだよ。お風呂入っちゃ悪いか?」

「い、いや別に俺はいいんだけどね?」

「ん?それじゃ入ろうぜ。」


 そう言うとルインは俺を引っ張りながら

 露天風呂の方へと走っていった。




 脱衣所でお互い背中合わせで服を脱ぐ。


 トイレはダメで、お風呂がいいっていう基準がよくわからない。

 そんなことを考えながら極力、ルインを

 見ないようにお風呂場へと出る。


「すげぇ!!おっきい風呂だ!みろよ!」


 ルインはこっちに振り返る。

 ちょっ、馬鹿!こっちを向くな……よ……?





 パオンである。

 いや、パオンJrと呼んだ方がいいだろうか?


「ルインお前男かよ!!!!」

「は?そうだけど?」


 まぎらわしいことすんなよ!!!

 こっちは女の子だと思って色々気を使ってたんだぞ!


 ていうか、男同士だったらトイレだって中に入ってやったわ!!

 ……、いやそれは気持ち悪いか。




「ふぅーーー。お風呂なんて数ヶ月ぶりだよ。」


 ルインは、お風呂を満喫している。

 ごろつきみたいな生活をしていたんだ、

 お風呂が久しぶりでテンションが上がるのも窺える。


「それで、なんで【嫌われ者(ヘイター)狩り】なんてしてたんだ?」

「だから、狩りじゃないって。あれは救済。」

「それがいまいち、分かんないんだってば。」


 ルカインもルインも 救済 という言葉を使っている。

 人に剣を向ける行為が本当に救済なのか?


「俺もよくわかんないんだけど、ルカインは

嫌われ者(ヘイター)】からは鎖の音がするんだって。」



 そこから二人がやっていた行為の説明をしてくれた。


 ルカインはおそらく【嫌悪臭】が鎖の音で判別できるらしい。


 ルカインが使った、【魔術:顕鎖(けんさ・)罪咎(つみとが)】は

 そいつの持っている【嫌悪】の根本を

 鎖として体外に放出させる魔術。



 体外に出た鎖をルインの【我流:空蝉(うつせみ・)断罪(だんざい)

 で切ることでその【嫌悪】を魔剣 閻魔(えんま)

 封印することができるそうだ。



 そうすることで【嫌われ者(ヘイター)】でなくなり

 【嫌悪臭】も消え、命を狙われずに済む。


 この行為を彼らは 救済 と呼んでいる。


 通常であれば1本、多くても2,3本しか鎖は出ないようだが、

 俺の場合、数えることが出来ないほどの鎖が出現した。


 どんだけ嫌われてるんだよ……。



 俺達はお風呂からあがり部屋へと戻った。

 鎖のせいで仕方なく同じベットで横になる。



 それにしてもその 救済 という行為をして

 何か得することでもあるのだろうか?


 ただ【嫌われ者(ヘイター)】を無くす行為であれば

 それは本当に 救済 だ。


 魔術師にも良い奴はいるのか?



「なんで、ルインは救済を手伝ってるんだ?」

「俺はどうしても切りたい奴がいるんだ。

 そいつを探してる。救済はそのついで。」



 そういってルインは眠ってしまった。


 俺も色々あって疲れた。

 眠りにつくことにしよう。



「起きろ!!」

「うぇい!?」


 ルインによって強制的に起こされてしまった。

 窓の外を見るとまだ暗い。


「なんだよ……。ゆっくり寝かせてくれよ。」

「ゆっくり寝たはずだぞ。今何時だと思ってんだ。」

「え?何時って外は暗いしまだ……。」


 ベットの近くに置いてあった置時計に手をやり

 時間を確認した。


 その針は、朝の9時を指していた。


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