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王都防衛③

 俺は宿屋の受付で宿泊代の値段を聞かされるまで

 自分がお金を持っていないことに気が付かなかった。


「お客さーん。どうしたんですかー?」

「え、いやー、あのー……。」


スッ


 下からリップくんが金色のカードを受付台に出した。

 その瞬間に、店員の顔が一変した。


「お、お客様!!これは大変失礼致しました。

 すぐにお部屋をご用意いたします!」


 そういうと店員は慌てて部屋の鍵を渡して、

 1番いい部屋を用意してくれた。


「リップくん、あのカードってなに?」

「わからない……。お姉ちゃんが困ったら使ってって……。」

「そ、そうなんだー……。」


 不覚にも小学生くらいの男の子に

 宿泊代をおごられてしまった。


 情けない……。


 それにしてもあのゴールドカードはなんだったんだろう?

 見せた瞬間に店員の顔色が急に変わった。


 リップくんが持っているものだから

 きっと神様にしか使えないカードなのだろうか?


「ふぁ~……。」

「ん?リップくん眠い?じゃあ先にお風呂入っちゃいな。」

「わかった……。」


 先にシャワー浴びてこいよ的なセリフは、

 本命の女の子に取っておきたかったのだが言ってしまったものは仕方ない。


 それにしても二人とも勝手すぎる。


 狼のアセナさんは俺の修行をしてくれるのだと思っていたが、

 調べたいことがあるとか言ってどこかへ行ってしまった。


 コーリンも過去視を使って何を見たのかを

 共有するより前に先にどこかへ走って行ってしまった。


「お前は、【嫌われ者(ヘイター)】だな?」

「!?」


 声の方へ振り返ると、

 窓際にフードを被った子供が腰かけていた。


 気配を全く感じなかった。


「だ、だれだ!」

「落ち着きなよ。お互い騒ぎにしたくない。

 そうでしょ?ついてきて。」


 フードを被っていて顔はよく見えないが、

 もし俺を殺すつもりだったら既に実行しているはずだ。


 リップくんを危険に晒すわけにはいかないので

 ここはおとなしくあいつに従うしかない。


「わかった。」

「あそこの路地裏にいるから。」


 そういうと、窓から飛び降りていった。


 ここは俺がなんとかするしかない。

 お風呂に入っているリップくんには黙って、

 宿屋を出ることにした。



路地裏


「きてやったぞ。【嫌われ者(ヘイター)狩り】なら相手になってやる。」

「狩り?そんなんじゃない。これは救済だ。」

「ふざけんな!」


 背丈は中学生ほどでリップくんよりかは高いがまだまだ子供だ。

 剣を持ってはいるが大丈夫。


 子供に負けるようじゃこの先やっていけない!


「ルカインが来るまで、大人しくしててもらうよ。」


 子供が剣を抜刀する。

 その瞬間、嗅いだことがない強烈な【嫌悪臭】が放たれる。


「お前、その剣なんだ!?」

「これは罪の鎖を断ち切る贖罪の刃、閻魔(えんま)。」

「やべぇ剣だぞそれ!」

「知っている!!」


ドガーン!!


 なんとか初撃を交わすことができた。

 フードがはだけ、子供の顔が露わになる。


 髪の毛は肩ぐらいまであり、整った目鼻立ちをしている。

 女の子!?


 でもこの子は本気で俺を殺そうとしている。

 やるしかないのか。


「よぉ。よぉ。もう始めてんのかよ。ルイスちゃん。」


 奥の方から酒の瓶を持った仲間らしき男が現れる。

 まずい、2対1か。


「ルイスちゃんって呼ぶな!それにルカイン、

 こんな時間までどこ行ってたんだよ!」

「そう、カッカすんなよ。

 酒屋の女の子がチョー可愛くてね。これがまた。」


 なんだ?仲間同士で揉めている。

 やるなら今しかない。

 卑怯だが、もともと2体1だ。こうでもしないと分が悪い。


「うぉおおおおお!!」

「しまった!」

「落ち着きな。【魔術:拘鎖(こうさ・)(しがらみ)】。」


 唱えられた魔術によって、

 足元に鎖がピンと張られ、勢いよくそれに引っかかってしまった。


「どわぁぁぁあ!!!」


 魔術!?

 やはりこいつらが狼が言っていた魔術師か。!


 俺は、奴らの目の前まで滑り込んでしまった。


「よぉ。よぉ。大丈夫かい?

 こっちは戦う気はないんだよ。これは救済さ。」

「うるせぇ!!」


 勢いよく立ち上がり、攻撃を繰り出したが

 男の帽子を弾くことしかできなかった。


「ちょいちょい。なんでそんな怒ってんだよ。

 まぁいいや。サクッとおっぱじめようか。

 ルインちゃん、準備オッケー?」


 何かくるのか?

 男はおそらく鎖の術を操る魔術師。

 女の子の方は、【嫌悪臭】たっぷりのやばい剣を使う剣士。


 二人でかかられたらさすがに分が悪いぞ。



「【魔術:顕鎖(けんさ・)罪咎(つみとが)】。」


ドクン!


 な、なんだ。

 身体の奥から何か音が聞こえてくる。

 その音は徐々に大きくなっていき、到底無視することのできないような

 爆音へと変わっていく。


ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!


「あぁああ!!!頭が割れる!!」


 鎖が動く音が自分の身体の中から聞こえてくる。

 その音の大きさに頭が痛い。

 なんなんだ、この術は!?


「ちょ、ちょっと!ルカイン、様子がおかしくないか!?」

「あれれ?」


 次の瞬間、

 俺の胸の辺りから大量の鎖が体外へと放出された。

 鎖と共に音も外へと放出され、頭の痛みから解放された。


「うぉおお!?なんだこの鎖は!?俺から出てるのか!?」

「これが罪の鎖さ。」


 女の子は宙を舞い、俺の放出した鎖めがけて剣を振るった。


「【我流:空蝉(うつせみ・)断罪(だんざい)】!!!」



ガキン!!!!



「き、切れない!?」


 身体から放出した鎖は、女の子の剣では傷ひとつ付かず

 びくともしなかった。


 俺へのダメージもまったくなかった。


 女の子は無事、着地し切れなかったことに絶望している。

 男は何が起こったのかわからないようであたふたしている。


 そうしていると、俺の鎖は消えていった。

 一体何がしたかったんだ?


「おい!お前ら一体何がしたかったんだよ!」


「なんだなんだ?何事だ?」


 街の人々が、大きな音を聞きつけて集まってきた。


「こりゃまずいな。逃げるぞ!ルイン!」

「お、おう!」

「待て。」


ガシッ


 俺はしっかりと女の子のフードを捕まえる。


「ちゃんと説明しろ。」

「あ、えーっと……。」

「【魔術:拘鎖(こうさ・)執着(しゅうちゃく)】!」


ガキン!


男が術を唱えると、

女の子と俺の胸の辺りから鎖が出現し、繋がれてしまった。


「すまん!また助けにくる!

 あ、その鎖は繋がってる相方のダメージを共有するからね!

 ルインをいじめないように!ほいじゃあ!!」

「お、おい!!待てよ!!!」



こうして男は、仲間を見捨てて逃げていってしまった。


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