王都防衛➁
王都の奥、裏路地
「よぉ、よぉ。ジャラジャラと聞こえてきたぜー。」
ある男は壁に背を着け、帽子で顔を覆いながら座っていた。
太陽の光も差し込んでこない、裏路地。
王都の中でも1番治安の悪い地区である。
「そんなこと言って、この前は本当に鎖の音だったじゃないか。」
その男の近くに、剣を持ったフードを被っている子供がいた。
「そう言うなよ。もしかしたらルイスちゃんが探している、
どうしても切りたい奴ってのかもしれないだろ?」
「まぁそうだけどさ……。って、ルイスちゃんって呼ぶな!」
「どぉーどぉーどぉー。それじゃ今日のターゲットは決まりってことで。」
男は立ち上がり、大通りのほうへと歩いていく。
「どこ行くんだよ、ルカイン?」
「ん?決まってんじゃん。酒だよ。」
「……。ダメな大人の典型だな。」
王都、大通り
「よっ!久しぶり。」
「卜部!生きていたのか!」
俺は、神職者のコーリンと【時の神】のリップとまさかの再会を果たしていた。
コーリンは、俺達が旅を始めた最初に出会った女で
トンブという大きなイノシシに襲われているところを助けてくれた。
そして、神職者になるためにディード師匠を
紹介してくれた、いわば恩人みたいな奴だ。
「ほぉ。お前達知り合いだったのか。」
「はい。それで、アセナ様はどうして卜部と王都へ?」
「王都で最近、魔力の反応が頻繁に出ている。
おそらく魔術師が何かを企んでおる。
それを調査しているのだ。」
アセナは、鼻をすんすんと使って臭いを嗅いでいる。
狼は鼻で魔力が探知できるのか?
「人の多い王都で魔力反応というと……、
おそらく【嫌われ者狩り】でしょうね。」
【嫌われ者狩り】とは、
神様から嫌われている【嫌われ者】を殺すことで、
そいつを嫌っていた神様からの恩恵を受ける行為のこと。
「あぁ。だから小僧を連れてきたんだが、
ちょうどいい。コーリンも手伝ってやってくれんか?」
だから俺を連れてきた?
俺は撒き餌ってことか!?
「私も【嫌われ者】だってこと、ご存知だったんですか?」
「まぁな。私は少し他に調査することができた。
すまないが、小僧を頼んだぞ。」
そう言うと、アセナはどこかへ行ってしまった。
こんな人混みの中で、狼が歩いていても
不思議がらないところが異世界って感じだな。
「卜部。元気だったか?」
「おう!おかげで神職者にもなれたよ。
ディード師匠には何回も殺されかけたけどね。」
「ふふふ、師匠も元気そうで何よりだ。
それより、リーリィはどうしたんだ?」
「いま、【愛の神】のアイナさんのところで
修行をつけてもらってるんだ。」
「え……、アイナさんに?」
コーリンの顔が急にこわばる。
コーリンの後ろにいた、ウサミミを付けたリップきゅんも
ガクガクと震えている。
え、アイナさんってあんな顔して実はスパルタなのか?
まぁ。なんていうか、頑張れリーリィ。
「相変わらず、リップくんを可愛がってるな。」
「おぉ!そうだろ!?リップきゅんは本当に!なんでも似合うねぇ~。」
もじもじとリップは恥ずかしがっている。
あれ?案外まんざらでもないのかこの少年は。
こうして、ウサミミ少年、ショタコン剣士と共に
王都の調査が始まった。
まずは、街の人に聞き込み調査。
最近おかしなことが起きなかったか?騒ぎはなかったか?
何十人かに聞き込みをして、やっと有力そうな情報が手に入った。
「あぁ、それなら3日前の夜にこの広場で、
男の叫び声みたいなもんが聞こえたな。
血とか何も残ってなかったから、きっと酔っ払いだと思うけどさ。」
俺はその情報を聞いたとき、また空振りかと思ったが
コーリンは目の色を変えた。
「日付までわかっているのであれば、
調べてみる価値はある。」
コーリンは情報にあった広場に立ち左目を瞑り、術を唱える。
「【神術解放:介添人の右眼】。」
コーリンに3日前の広場の光景が見えているようだ。
「そ、そんなことって……。」
コーリンは何か決定的なものを見たようだ。
「コーリンどうだった?」
「卜部すまない!リップ様を頼む!」
そういうと、コーリンは全力でどこかへ走り去ってしまった。
おいおい、勝手な奴ばっかりかよ!
リップくんと二人きりになってしまった。
調査で時間が掛かったので、もう夕方になってしまっている。
「とりあえず、宿でも取ろうか?」
「うん……。」
狼にもショタコン剣士にもバックレられた俺は、
ウサミミ少年と一緒に宿に泊まることになった。




