抜け殻のベルク⑧
「神殿に行って、治療しましょう。」
「え!?」
神殿に連れていってくれるのか?
それってこの旅のゴールじゃないのか?
「それじゃあ行きましょう。あ、自分の腕は持って行ってください。
後で治してもらいますから。」
切断された自分の右腕を左手に持つ。
なんだこの奇妙な感覚は。
「狐のお姉さんも行きますよー。」
壁にもたれかかっているクロエに向かって声を掛けた。
「うちは行かへん。やらなあかんことがあるし。」
「え?そうなんですか?」
「あいつは大罪の悪魔やったんやろ?
そやったらちょっと調べたいことがあんねん。」
クロエは強い意志で同行を拒否した。
アイナは頭をポリポリとかいて、
クロエに神力のこもった薬をいくつか渡していた。
「それじゃあ気を取り直して行きましょう!
私と手を繋いでください。」
「は、はい。」
「【神力展開:愛の伝道師】。」
そういうとアイナが桃色の光に包まれた。
手を繋いでいる俺達にもその光は行き届き、
身体が宙に浮いた。
「うぉ!?」
「いっきまーす!」
バシューン
こうして俺達の空中散歩が始まった。
散歩といっても、歩くようなスピードではない。
おそらく飛行機よりも早く飛んでいるんじゃないだろうか?
村はどんどん小さくなり、新しい街が見える。
それを繰り返す中で段々とスピードにも慣れてくる。
「あの、助けてくれてありがとうございました。」
「え?いいんですよそんなこと!逆にすごいです。
見習いさんが大罪の悪魔に会って生きてるなんて。」
「その悪魔について教えてくれませんか?」
アイナさんに疑問に思ったことをぶつけた。
もったいぶらず全ての質問に答えてくれた。
神様と悪魔は真逆の存在である。
神様は1人の神職者と契約し、神力を与え共に戦う。
悪魔は複数の魔術師と契約し、魔力を分け与え戦わせる。
古来から悪魔を根絶させる、それが神様の使命だそうだ。
基本的に悪魔は魔界におり、
この世界では本領が発揮できず戦闘面では非常に弱い。
しかしその中でも大罪の悪魔は特別で、この世界でも
力を発揮できる存在だそうだ。
またマキシが放った【穢土掌握】。
あれはこの世界に限定的な魔界を出現させる
いわば、固有結界術である。
結界の中に入ってしまうと、悪魔はいつも以上の力を発揮でき、
逆に神様は魔界の穢れによってダメージを受けてしまう。
なので、神様は神職者と組んで行動し悪魔を討伐する。
大罪の悪魔は、7つの大罪をモチーフにしており、
マキシが暴食の悪魔で、おそらくマキシを助けた
ギャルのような子も大罪の悪魔だと思われる。
話を聞けば聞くほど、
リーリィと俺を待ち受けている壮絶な戦いが
具体性を増していく。
もっと強くならなければ。
「到着でーす!」
着地に必死で地面ばかりを見ていたが、
見上げるとそこには、神殿というのに相応しい
アニメや漫画でみたような大きな建物がそこにあった。
そう、数え切れないほどの円柱が天井を支えているあれである。
「おぉー!神殿って本当に神殿なんだな。アテネに来た気分だ。」
「アテネ?なんですかそれ?」
「あ、いや気にしないで。」
中はずっと廊下が続いており、神殿の広さがうかがえる。
「リーリィ大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配お掛けしました。」
まだ全快ではないにしろ、
出発前とは比べものにならないほどに回復している。
俺達は行き先も分からず、
取りあえずアイナさんについていってると
誰かの部屋の前にたどり着いた。
「リークちゃーん。開けてくださーい。」
「開いてるから勝手に入れ!いま手が離せないの!」
「はーい。入りますよ。」
アイナが扉を開けて、部屋に入ると
そこは大量の機械が置かれているラボのようなところだった。
「リークちゃん。治してほしい物があるんですけど。」
「あー?またなんか壊したのかよ?」
リークはゴーグルを外して、こちらに振り返る。
「おいおい。人は壊しちゃだめだろ。」
「わ、私じゃありません!大罪の悪魔の仕業です!」
アイナは必死に弁明する。
リークはこちらに寄って来る。
作業着を着ており、髪の毛は短髪で
目鼻立ちが整ったボーイッシュな女の子だ。
「あー。腕が取れてるじゃん。で?私にどうしろと??」
「リークちゃんなら治せるかなって。」
アイナはお願いのポーズをし、
承諾してくれること前提の甘えたような仕草を取る。
「あのねぇ、私は【工学の神】なの!
治すんじゃなくて直すの!機械を!」
過去に何度か同じことがあったかのような怒り方だ。
これはアイナさん何回かやってるな。
「こっちの子は、穢れに侵されちゃってるんですよ。
あの機械貸してくれませんか?」
「あぁ、それはいいけどさ。」
「やった。さぁ行きましょう。案内しますよ。」
そういってアイナはリーリィの手を引いて
部屋の奥へと消えていった。
ちょっと知らない女の子と急に、
二人っきりにするのは辞めていただけませんか?
非常に気まずい。
「ほら、あんた腕貸して。治すから。」
「え?あ、ありがとう。どうぞ。」
なるほど、この子はツンデレなのか。
頼まれたら断れないタイプなのだろう。
「ここに寝て。神経とかもろもろ繋ぐから、
ちょっとチクッとするけど我慢して。」
俺は言われるがまま、机の上に寝ころんだ。
まぁチクッと程度であれば、我慢はできる。
「【神力展開:修理】。」
「いてぇええええええええええええ!!!!!」
なにがチクッとだよ!?
激痛じゃねぇか!!!
「もうちょっと我慢して。」
「何秒くらい!?」
「5分くらい。」
「うぇえええええ!?」
こうして俺の腕は無事くっつきましたとさ。
次回 【王都防衛】 編 スタート