抜け殻のベルク⑦
「え、私!?私はアイナ!【愛の神様】をやってる!」
アイナは突然名前を聞かれて、うろたえながらも答えた。
桃色の服を着ており、目の奥にはハートの光が見える。
手にはレイピアを持っており、この細い針で
化け物の右腕を切断したと考えると相当な手練れとみえる。
「いきますよ!暴食の悪魔さん!」
アイナはレイピアを勇ましく構え、戦闘態勢に入る。
「くそがぁ!喰ってやる!!【穢術:喰紅―赫―】!」
パァン!
クロエを倒したあの技だ。
世界がまた赤に染められる。
この赤の世界では、思考は巡るが身体がまったく言うことを効かない。
魂が危険を察知し、身体が勝手に硬直してしまう。
このままでは、アイナも同じようにやられてしまう。
「おぉー!真っ赤ですね。綺麗です。」
アイナは赤の世界などお構いなしに、マキシへと飛び込んでいる。
この技が効かないのか!?
「【神力展開:屋烏之愛】。」
レイピアが桃色に輝き、その太さを増していく。
さっきの桃色の一閃は、この光だったのか。
「ぐぁあああああああああ!!!」
レイピアはマキシの左肩に命中し、左腕が一瞬で消失する。
俺にはどうすることも出来なかった敵に
こうもあっさりダメージを与えられるなんて。
「クソクソクソ!!なぜ俺の結界の中で
こんなに自由に動けるんだ!」
「全然穢れを感じません。まだまだピュアピュアですね。」
続けざまに、レイピアで連撃をくらわせる。
連撃のスピードに目が追いつかない。
どんどんマキシの身体に穴が空いていく。
「くそがあああああああああ!!!!」
たまらずマキシは後ろに飛び、アイナとの距離を取る。
「喰ってやる!お前ら全員喰ってやる!!
あまり使いたくないが、この術で全て終わらせてやる!」
マキシは、無くなった腕を再生させながら
両腕を地面につけた。
「【穢術:無稽喰手】!!!」
マキシが術を唱えると、地面から無数の手が
地面を割って出現する。
その手ひとつひとつが魂を求めて彷徨い、
俺達の魂を探知して猛スピードで伸びてくる。
「こ、こっちに来る!?」
「ははは!こいつらを守りながら戦えるか!?」
アイナは俺達の方を向いて、助けてくれようとしている。
その隙を見てマキシはアイナの背後に向かって
口から波動弾を放った。
「戦い中に敵に背を向ける奴がいるかよぉ!!」
「アイナさん!後ろ!!」
「こんな愛のない戦い方だめですよ5点です。【神力展開:愛玩】。」
ジャキン!!
波動弾は、レイピアの一振りによってその場で両断された。
「なにぃ?奴らを見捨てたのか?」
「違いますよ!」
俺とリーリィの魂を狙っている手が
どんどん切り刻まれている。
向こうで倒れ込んでいるクロエのところでも。
アイナさんが3人に分身している!!
「愛のない人には罰を与えます!」
三人のアイナが揃って、レイピアをマキシに向けて言い放った。
「三点集中。【神力奥義:愛矜懲創】。」
三人のレイピアが重なり、輝きだす。
分身していたアイナさんは重なり一人となり、
その光が格段に大きくなる。
赤の世界は徐々にその光に飲みこまれ、
もとの朝のベルクの風景へと戻っていく。
「おしまいです!!!」
その光と共に光速の突きがマキシを貫通する。
「がぁああああああああ!!!!!」
光の収束とともに、マキシの気配が消えていく。
すごすぎる……。
これが本当の神の力なのか?
「マジあぶなかったねー。マキシちゃん。」
「!?」
すっかり元の世界に戻っていたが、
空中に黒い空間が小さくぽっかりと開いていた。
そこから、二つ括りの女の子が
人間の姿に戻ったマキシの頭だけを掴んでこちらを覗いていた。
「ウチが助けに来なかったら、マジヤバだったかんね。」
「すみません……。」
マキシが消滅する寸前に助け出したのだろうか。
ギャルのような言葉を使っている。
「こんにちは。あなたのお名前は?」
気が付くとアイナさんがジャンプし、
レイピアを構えて同じ高さまで至っていた。
「は?お前なんかに名乗る名前はねぇーし。」
「口が悪い子はいけません!」
レイピアを振るが、ギャルはすました顔で
それを軽く避けてしまった。
「また今度遊ぼ。じゃーねー。」
そういうと空中に開いた黒い空間は閉じてしまった。
アイナさんの攻撃を簡単に避けやがった。
あいつは一体何者なんだ?
「やっちゃったなー。逃がしちゃった。」
独り言を言いながら、着地したアイナさんは
こちらへと向かってきた。
「よく神様を守り抜きました。カッコよかったですよ。」
そう言いながらまた俺の頭を撫でた。
頭を撫でられるのは、小学生以来なので普通に照れる。
「って、右手ないじゃないですか!」
「え?」
緊張していて忘れていたのか、意識した瞬間に
急激に痛みが襲ってきた。
「いてぇえええええええええ!!!!」
「あぁ!待ってください!応急処置しますから!」
アイナさんは、神力によって俺の腕の止血をしてくれた。
【愛の神様】の力なのか、血が止まると不思議と
痛みはなくなっていた。
「この子は結構、穢れに侵されてますね。」
リーリィの具合まで見てくれている。
元の世界に戻って、苦しみはなくなったようだが
後遺症のようなものがあるそうだ。
その後クロエにも神力の応急処置を施してくれて
なんとかクロエの意識が戻った。
「うぅ……、あいつはどうなったん……?」
「大丈夫だよ。アイナさんが倒してくれたから。」
正式に言えば倒してはいないが、
クロエを安心させるためにもこういった方が正解だろう。
「うーん。皆さん結構重症ですね。
そうだ!神殿に行きましょう。そこで治療します。」
「え!?」




