抜け殻のベルク②
「リーリィちゃん、一緒にお風呂入ろ!朝風呂!」
「えぇ!?」
「コンも一緒って言ったら~?」
「入ります!!!」
女の子たちは、わいわいと共用のお風呂に吸い込まれていった。
俺はもう1度、ベッドに全体重を任せた。
昨日のセンドーシュとの戦いで突然取得した技、【神術解放:豪火】。
あんな風に、人は強くなっていくのだろうか?
もっと強くならなければ、リーリィを守れない。
戦いの中で成長していくのであれば、もっともっと戦わないとな。
そんなことを考えながら、ベッドから起き上がり
ふと窓の外を見ると、人が歩いているのが見えた。
その人は、目が虚ろでよたよたと何かを求めるゾンビのように見えた。
どこか恐ろしくなり、カーテンを閉めると
お腹の虫が鳴りだした。
お腹空いたな。
女の子のお風呂は長いって言うし、先に下で朝ごはんを食べよう。
部屋を出て、1階の階段を降りた。
そこには、昨日一晩中飲み明かしたのか
屈強な男たちが机に突っ伏して寝ていた。
おいおい、だらしないな。
俺は、空いているすみっこの机に座り、パールさんを呼んだ。
「あのー、朝ごはんとかってありますか?」
返事は返ってこない。
あれ?おかしいな。厨房の方から気配は感じたんだけどな。
ムシャ……ムシャ……。
ん?何か音が聞こえる。
ムシャ……ムシャ……。
何かを食べる音?
パールさんが厨房で味見でもしているのかな?
俺は、パールさんを呼ぶために席を立ち
厨房へと向かった。
厨房のカウンターを覗いてみると、そこには
その場でうずくまるパールさんの姿があった。
なんだ、いるじゃないか。
「なんだ、パールさんいるじゃないですか……。」
うずくまるパールさんをしっかりと視界に捉えた時、
信じられない光景を目の当たりにした。
「パールさん!?何食べてるんですか!?」
パールさんの口からは、ネズミのしっぽのような物が
はみ出していた。
「うわぁあぁああああああ!!!」
嘘だろ……。
それにパールさんの目が、2階の部屋の窓から見た
ゾンビのような人と同じ虚ろな目をしている。
「どうしたん!?急に大きな声出して!?」
「卜部さん大丈夫ですか!?」
お風呂からあがったのか、リーリィたちが1階に降りてくる。
「来ちゃだめだ!」
「え?なんで?」
「す、すごくショッキングな絵面だからだ。」
「えー?なんなん?そんなん言われたら見たなるやん!……まじ?」
クロエは好奇心に負けて、俺の静止を振り切ったが
ものすごく後悔している。
「え?どうしたんですか?」
「リーリィちゃんは見ん方がいい!」
「コンも時々食べますよ?」
「あんなもん食べたらお腹壊すで?」
そうしていると、机で寝ていた男たちも静かに起き出した。
こいつらも同じ虚ろな目をしている。
男たちは、料理の残りを起き抜けにむしゃむしゃと食べだした。
昨日のテンションとの差に、一抹の恐怖を感じる。
なんだ?何が起きているんだ?
俺は、外へと飛び出した。
すると、道行く人が全て虚ろな目をしていることに気が付いた。
「なんなんこれ?ちょっとおかしない?」
「ちょっとどころじゃないよ。ものすごくおかしいよ!」
パリーン!
硝子のようなものが壊れる音がした。
そっちの方を見てみると、飯屋の方で人だかりができていた。
「ちょっと行ってみよう。」
店の前まで行くと、飯屋の中に溢れんばかりの人が
収容されていることがわかった。
「ぎゅうぎゅう詰めやん。なにがしたいん?」
「お腹がすいてるんでしょう!」
「そやな。」
二人の訳の分からない掛け合いが、今は救いだ。
異常すぎる光景に、少し狂いそうだったから。
「そや!コン。パン出してみて。」
「パンですか?わかりました!」
コンはそういうと、何か術のようなもので
何もないところからパンを出現させた。
それをクロエは、受け取り大きな声で叫んだ。
「先着1名にめっちゃおいしいパンあげるでー!」
その声に反応した人達は、一目散に俺達の方へと歩いてくる。
「おい!何してるんだよ!」
「あはは。なんかやってみたくなってん!」
その数は、ざっと100人は超えているだろう。
あれよあれよと人が集まってくる。
気が付くと、全方向から囲まれていることがわかった。
「ちょ、ちょっと大丈夫なんですか?」
「うげー。ゾンビみたいやな。」
「これは、やばいんじゃないか?」
「任せて。【神力展開:納円鳥居】」
クロエが術を唱えると、
俺達の周りを無数の鳥居が取り囲み、結界が張られた。
ゾンビのような人々は
その鳥居から中に入れないらしく、何度もぶつかっている。
「ありがとう助かったよ。
で、ここからどうやって出るんだ?」
「あははー……、そこまで考えてへんかったわ。」
「コンにお任せください!」
コンは、ぐるぐるとその場で周りだし
バネのような形に変形した。
変身できるのか!?
「いきますよー!えい!」
バネになったコンは俺達を巻き取り、
その場で沈んで反動をつけてジャンプした。
「うぉおおおおおお!?」
「きゃああああ!!!」
「ほーれ。パンあげるでー。」
空中でクロエは持っていたパンをゾンビの群れに投げ入れた。
ゾンビは、それに反応してもうてんやわんや。
群れを抜けて、なんとか安全な場所に無事着地することができた。
「コン助かったで。ありがとう。」
「お安い御用です!」
頼れるどや顔狐娘。
くそぅ。モフりたい。
無理やりモフろうと戯れていると、
見知らぬ男に後ろから声を掛けられた。
「あれ?みなさんまだお元気なんですか?」