抜け殻のベルク
俺達は、真夜中の道を歩きベルクという村にたどり着いた。
リアパークからそんなに遠くなくてよかった。
村に入ると、灯りの付いた家から人の騒ぎ声が聞こえた。
看板を見るとここが、宿屋みたいだ。
ナタは旅人に優しい村だと言っていたが本当にそうだろうか?
一抹の不安を抱えながら、扉を開けた。
「すいませーん。」
「おぉ!新入りが来たぞぉ!!」
「わぁぁぁぁ!!」
扉に入るなり、屈強な男たちに肩を組まれる。
酒の臭いがプンプンする。酔っ払いだ。
「よぉーし!お前らは今日から俺達の仲間だぁ!」
「いぇええい!!!」
「あ、あの……。」
ここにきて陰の者モードが発動してしまう。
圧倒的陽キャラの前では陰の者は為す術がない。
「ちょっとあんたら!他のお客さんに絡むんじゃないよ!!」
厨房の方から助けの声が聞こえた。
ここのオーナーだろうか?屈強な男達にも負けない体格のママさんだ。
「ごめんね、こいつら馬鹿で。うちの常連なの。許してやって。」
「は、はい。」
「見た感じ旅の人だね。ご飯は済んでるかい?」
「はい。もう他でいただきました。」
「あら可愛い子だね。オッケーじゃあ部屋に案内するよ。」
そういうとママさんは2階へと案内してくれた。
「この部屋を使って。トイレとお風呂は部屋とは別に共用のがあるから使ってね。」
「ありがとうございます。でもお代は?」
「そんなの後でいいよ!疲れてるんだろ?」
「ま、まぁそうですけど。」
「あ、私はパール。この宿屋のオーナーだよ。
分からないことがあったら何でも聞いてね。」
そういうとパールは、1階へと降りて行った。
部屋の扉を閉めると、1階での騒ぎが聞こえなくなった。
防音もしっかりしている。
すごく親切な人だった。
ナタの言う通り、旅人に優しい村で本当に良かった。
ふぅと安心してベットに座り込むと、
一気に緊張の糸が切れたのか急に睡魔が襲ってくる。
「今日はもうお風呂入らずに寝ちゃおうか。」
「そうですね。明日の朝にでも入りましょう。」
「おやすみ、リーリィ。」
「おやすみなさい。卜部さん。」
こうして俺達は眠りについた。
疲れ切っていたから気付かなかったけど、
女の子と一緒の部屋で寝ちゃったよ。
こっちの世界に来る前では考えられなかったね。
チュンチュン
窓から祝福の光のように朝日が差し込んでいる。
それにしてもこの宿屋の枕は、異様に柔らかいな。
出来ることならもう少し寝ていたい。
枕の柔らかさを堪能するように、目を瞑りながら頭を動かす。
すると、
「ん……。」
変な声が聞こえた。
こっちの世界の枕はしゃべるのか?
もう1度動かしてみる。
「んん……。」
やっぱりだ。
この枕、生きてるぞ。
って、そんなわけあるか!
ガバッ
俺はこの異様な状態を確かめるため、目を開けて身体をおこした。
すると、そこには知らない裸の女性がベットでむにゃむにゃと眠っていた。
「だれぇ!?」
思わず大きな声が出てしまう。
誰だこの女の人は!?なぜ裸なんだ!?
裸の女性をじろじろ見るのは、はばかられるが
少し見ただけで普通の人ではないということが分かった。
頭には狐のような耳が生えており、大きな尻尾も生えている。
「ん……、なんや……?朝か……?」
女性が目を覚まし始めた。
ちょっと待てよ。
この状況はまずいんじゃないか?
客観的にみれば、俺が襲った的な流れになるんじゃないか!?
「なんで裸なんやろ……?」
女性は、布団で身体を隠しながら寝ぼけ眼で
きょろきょろと周りを見渡している。
俺は、目を瞑って無の存在になろうと努力する。
まぁ隣なんですぐにばれるんですけどね。
「にーちゃん起きとるんやろ?おはよ。」
「あ、おはようございます。」
目を瞑りながらおはようの挨拶を交わす。
意外と冷静な人なんだろうか?
この状態で取り乱していないようだ。
「あ、あの。どうしてここで寝てらっしゃったのでしょうか?」
「ん?あー、昨日お風呂でお酒飲んでて、
寝ぼけて部屋間違えたみたいやわ。ごめんごめん。」
「そうなんですかー。間違いは誰にでもありもんねー。あははー……。
それで、なぜ裸なんでしょうか?」
「お風呂入ってたからやん。あ、もしかして恥ずかしいん?
別に見てもええよ?減るもんじゃないし。」
急にこの子はなんてことを言うんだ!?
女の子として恥ずかしくないのか!?
まぁ、でもそちらからの許可を頂けたのであれば!?
こちらが視界をあえて塞いで、危険な状態を!?
作ることはないんじゃないでしょうか!?
自分に精一杯の言い訳をして、俺は一気に目を見開いた。
「えろー。」
目の前の女性は既に服を着ており、ベットからもいつの間にか出ていた。
なんだよ!!ふざけんなよ!!!
「きゃっ!!この人誰ですか!?」
一難去ってまた一難。
リーリィが起きたようだ。
「おはよー。よぉ眠れた?」
「え?あ、はい。よく眠れました。」
ちゃんと答えるあたりリーリィは本当にいい子だ。
女性はこの状況を楽しんでいるようだったので、
俺も事態を完全には把握していないが、状況を説明した。
「あんた神様とちゃう?神力の匂いがするからわかんねん。」
「え?」
リーリィが神様であることを一発で見抜いてしまった。
この人、何者だ?
「あはは、大丈夫。私もやから。
私は、クロエ。【円の神様】の見習い中で旅してんねん。」
クロエは、そういうと指を鳴らした。
「コン。出ておいで。」
「はい!!」
すると、空中が軽く弾けた。
そこから、同じように狐の耳と尻尾をした小さな女の子が出てきた。
「この子はコン。私の神職者。」
「コンです!よろしくです!」
「か、かわいい……。」
モフモフとした毛並みを触りたいのだろうか。
リーリィは手をワナワナさせている。
「見習い中ってことは、神殿を目指してるんですか?」
「そやでー。君たちも?」
「はい!そうです!!」
リーリィは、コンを捕まえてモフモフしている。
コンは、モフられるのはまんざらでもないのか、ニコニコしている。
「まぁここで会ったのも何かの縁や!
仲良くしたってや!【円の神様】だけに!」
クロエはどや顔でそういった。
疲れるからツッコむのはやめておこう。




