金の成る街⑧
ナタ!!
ナタは、手に持っていた木刀をセンドーシュめがけて全力で投げた。
「ナタさん!?何をしているんですか!?」
センドーシュの注意が逸れた。
今しかない!!
「うぉおおおおおおお!!!!」
全力で、センドーシュへと走り出す。
「う、うごくな!リカさんがどうなっても――。」
「リカがどうしたって?」
「な、なにぃ!?」
カガリさんも同じ考えで助かった。
同タイミングでリカちゃんへ駆け寄り、いち早く救出していた。
「食らいやがれ!!金狂い!!【神術解放:豪】!!!!」
「ぐはぁぁぁぁぁ!!」
俺の一撃がセンドーシュに命中する。
センドーシュは、吹き飛び壁に激突した。
勝負あった!
「パパぁ!!」
「リカ!本当によかった。」
泣きながら抱き合う親子。
本当に、間に合って良かった。
「ナタ。次に会う時は、敵じゃなかったのか?」
「反省したら即行動。それが俺のルールだ。」
「それより!早くこの街を出た方がいいですよ!」
そうだった!
お城から、抜け道まで少し距離がある。
急いだ方がよさそうだ。
「お待ちなさい……。」
「!?」
まだ生きていたのか!?
「あんまりこれは、使いたくなかったんですがね……。
使わざるを得ないようですね……。」
頭から血を流したセンドーシュが両手をあげて黄金に輝きだす。
まずい、何か奥の手でもあるのか!?
「こんな夜中にこの騒ぎです……。
明日にでも街の住人は異変に気付くでしょう。
せっかく、せっかくここまで街を大きくしたのに!!
あなたたちのせいで全て台無しです!!
ならいっそ……、私の手で終わらせてあげますよ……。」
城の壁がどんどん金貨に変わり崩れ落ちていく。
そして、その金貨はセンドーシュの上へと集まり、大きな黄金の球体が出来つつあった。
「な、なんだこれは?」
「あなたたちのせいで、この街の住民は死んでいくのです!!
そのことを深く、深く後悔しなさい!!!
あなたたちが住民の夢を奪ったのです!」
「なにが、夢だ。それならとうの昔にお前に奪われている!」
そうだ。こいつは悪党だ。
街の住民たちに厳しいルールを設け、それを守らせていた。
罪人を作る為のルールだ。
中には、理不尽で守りがたいルールだって存在したはず。
「何を言いますか。住民にお金を配ったのはこの私です。
この街を大きくしたのもこの私!
すべて私のおかげなんですよ!?」
「でも、お前は住民の自由を奪った!
それはお金では変えがたいものなんだ!」
絶対に許せない。
カガリさんもリカちゃんもこの街のみんなも。俺が守る!!
「これで終わりです!!!」
感じたことのない気力が俺の身体を駆け巡る。
血液が体内を巡り、体温が急上昇していく。
「【神力展開:黄金時代】!!!」
上から巨大な黄金の球体が降りかかってくる。
このままじゃこの街ごと吹き飛んでしまう。
焦る気持ちとは裏腹に、今の俺だったらやれる。
そんな気持ちが湧いてきた。
「リーリィ!技を唱えてくれ!!」
「はい!あの技を壊すんですね!」
「いいや、溶かすんだ!!」
全身の神力を、右手に集中させる。
それに呼応して、ガントレットが赤く光りだす。
「【神力展開:宙を舞う金貨】!!」
「くらぇええええ!!【神術解放:豪火】!!!!!」
ガントレットが真っ赤に燃えて、天を焦がすほどの大きな燎となる。
「そ、そんな……!私の……財産が……!!セチュラ様ぁーー!!!!」
燎は、黄金の球体を完全に溶かしきり、
センドーシュはその場で倒れ込み気を失ってしまった。。
「卜部さん!!やりました!!」
「やった……。」
「喜んでる場合じゃないぞ!早くこの街を出るんだ!」
「!?」
先程、センドーシュは11時40分と言っていた。
もう10分はたっているんじゃないだろうか。
「卜部さんこっちです!城が崩れているのでショートカットします!」
カガリさんは、崩れた城の壁から俺達を抜け道まで
走って案内してくれた。
「センドーシュが最後に叫んでたセチュラ様って?」
「わからない。聞いたこともない名前だ。」
ナタも知らないのであれば、センドーシュ以外に知りようがないか。
そして、なんとか抜け道まで辿り着き、扉の向こうまで出ることができた。
「卜部さん。リカを助けてくださり。本当にありがとうございました!」
「いや、あの時ナタが来なかったらどうなっていたことやら。」
「この道を真っ直ぐ進むと、ベルクという村がある。
そこに行くといい。旅人を歓迎してくれるはずだ。」
「ありがとうございます。」
話をしていると、なんだか身体が街の方へ引っ張られるのを感じた。
センドーシュの神力なのか?
「扉を閉めるまではこの街を出たことにならない。
そろそろ時間だ。扉を閉めるぞ。」
「旅人さん!パパを助けてくれてありがとう!」
「いいってことさ。リカちゃんも元気でね。」
「うん!」
その会話を最後に、扉は閉められた。
引っ張られる感覚はスッと消えていった。
これからこの街はどうなっていくんだろう。
きっとカガリさんやナタがセンドーシュを丸め込んでくれるだろう。
少しでもこの街が良い方向に進んだのならばそれでよかった。
俺達は、真夜中の道を疲れ切った身体でゆっくりと歩き出した。
次回 【抜け殻のベルク】 編 スタート