金の成る街⑦
「卜部さん大丈夫ですか?」
部屋の隅に隠れていたリーリィが神力で傷を癒してくれる。
「大丈夫だよ。それよりセンドーシュのところに急がないと。」
ナタとの戦いでは、リーリィの力を借りずになんとか勝てた。
しかし、相手が神となるとそうはいかないかもしれない。
前に、1日1回しか技を使えないと言ってたので
温存して正解だったかもしれない。
俺達は、階段を登りセンドーシュのいる部屋へと辿り着いた。
ジャラジャラジャラ
扉を開けると、床に落ちる金貨の音が部屋中に響いた。
「おや。卜部さんとリーリィさんじゃありませんか。」
手を金色に光らせたセンドーシュが、
床にちらばった金貨の近くに立っていた。
「うそ……だろ……。間に合わなかったのか?」
「間に合わなかった?あぁ、ご存知なんですか。私の力を。」
そういうとセンドーシュは金色に光る右腕をこちらに向けた。
「カガリさんから聞いたんですね。あれほど釘を刺しておいたのに。」
するとセンドーシュの服の中から懐中時計を取り出して
時間を確認しだした。
「今は11時30分。ふむ、あと30分であなたたちも私の財産になるんですね。」
「どうして……どうしてこんなことをするんだ!」
「こんなこと?私はただ財産を増やしたいだけですよ。
【富の神】として当然のことでしょう?」
くそ……、間に合わなかったのか?
誰が金貨に変えられたかまでは見えなかったが、おそらく……。
「諦めてこの街の住人のなるのです。そして子供を増やしなさい。
そうすれば、もっと罪人が増える。
そうなれば、もっと財産が増えるんです!
まさに、金の成る街!!よく考えたものでしょう!?」
「だまりやがれ……。」
どうしてだ。
リカちゃんを守れなかった喪失感からか、身体の力がどんどん失われていく。
センドーシュは、へたりこんだ俺にどんどん近づいてくる。
「あらあら。かわいそうに。疲れ果ててしまったのですか?
であれば、救いを授けましょう。」
「卜部さん!立ってください!センドーシュが来ます!」
リーリィは俺に覆いかぶさり、守ろうとしてくれている。
「来ないでください!」
「おやおや。それじゃあリーリィさんからにしましょう。」
センドーシュの右手が金色に光り出す。
「【神力展開:ミダスの触診】。」
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
「ひっ!?」
センドーシュが叫び声に振り向くと、横顔ギリギリに剣が通る。
誰かが剣を投げたようだ。
「旅人さん!助けに来てくれてありがとう!」
「卜部さん!リカは無事です!」
そこには、リカちゃんを抱きかかえたカガリさんの姿があった。
よかった。無事だったのか。
「リーリィ。かっこ悪いところ見せてごめん。ありがとう。」
俺は、リーリィの腕をほどいて立ち上がる。
「センドーシュ!お前だけは絶対に許さない!」
「やる気ですね。」
「覚悟しやがれ!!」
センドーシュに向かって走り出す。
このガントレットをお見舞いしないと気が済まない。
「【神力展開:ミダスの行進】」
センドーシュが地面に触れると、走る俺に向けて床が一直線に金貨に変わりだす。
「うわぁ!?」
地面が急に変わったものだからバランスを崩して転倒してしまう。
センドーシュは、金貨のカーペットの上を滑りながらこちらに近づいてくる。
「【神力展開:恵みの雨】!」
俺の上から大量の金貨が降って、視界を奪われる。
金貨の雨が止むと、目の前に右手を振りかざしたセンドーシュの笑みが見えた。
「チェックメイト。【神力展開:ミダスの触診】!!」
「【神術解放:剛】!!!」
地面についていた手をおもいっきり押し出し、神術の勢いで
なんとかセンドーシュの右手を回避する。
「あっぶねぇ!!」
「しぶといですね。」
今のはあぶなかった。
センドーシュの技の特性上、一発でも触れられたら終わる。
それに自分の機動力のなさを、神力でカバーしている。
意外と戦い慣れてやがるぞ。
しかし、見た目通り中年のおっさんだ。
今の動きだけで汗をかいている。
もう少し粘ればいけるか?
「やっぱり、こういうのは私には向いてませんね。
リカさん、こっちに来なさい。」
「お、おい!リカ!」
その言葉を聞いて、リカちゃんはカガリさんの腕を振りほどいて
センドーシュの方へと走りだす。
なにが起きているんだ?
「言ったでしょう。ここはみなさんは私の財産!
この街にいる限り、私の言う事は絶対なのですよ!」
「いや!助けてパパ!!」
「リカ!!」
身体の言うことが効かないようだ。
無理やり操ってやがるのか!
「はい。これで詰みです。」
センドーシュは、リカちゃんを自分の側に立たせた。
「卜部さん。あと20分、そこでじっとしてください。
そうすれば、あなたたちも私の財産となります。
それからじっくりと遊んであげますよ。」
こいつ、ふざけてやがる。
動けばリカちゃんは今すぐにでも金貨に変えられてしまう。
しかし、今動かなくても深夜0時を回れば奴の思い通りだ。
「クソ……、どうすることもできないのか……。」
カチッ、カチッ、カチッ
センドーシュが持つ懐中時計の秒針の音だけが鳴り響く。
どうすればいいんだ?
このまま俺は何もできないのか?
「パパ!助けてぇ!」
「おだまりなさい!」
センドーシュはリカに平手打ちを食らわせる。
「リカ!」
だめだ。
耐えるんだ。
今動けば、リカちゃんが危ない。
悔しさのあまり、握る拳が震える。
「困っているようだな。」
その声は!?
「センドーシュ様!!目をお覚ましください!!!」
ナタ!!
ナタは、手に持っていた木刀をセンドーシュめがけて全力で投げた。
「ナタさん!?何をしているんですか!?」




