金の成る街⑤
街の奥にあるセンドーシュの城へと三人はたどり着いた。
時間は22時30分。
時間はまだ1時間30分もある。
なんとかリカちゃんを奪還しなくては。
「カガリさん。城には罪人が集められる、牢屋みたいなところはあるんですか?」
「あります。裏口から入った先に。」
「ならカガリさんはそちらに向かってください。まだリカちゃんがそっちにいるかもしれません。」
「しかし、あなたたちは?」
「俺たちは、正面から入ってセンドーシュのところに行きます。」
「わかりました。ナタ大尉も恐らくそこにいます。気を付けてください。彼は強い。」
たしかに初めてナタとあったとき、異様な圧を感じた。
自分の強さを信じきっているような圧倒的な強者感。
それに、あの【嫌悪臭】。
あいつは間違いなく【嫌われ者】だ。
俺がやらないといけない。
カガリさんは言っていた。
ナタとは100回以上稽古をしているが、自分の剣を1度もナタに当てられたことがないと。
そこまでの強者なんだ。
覚悟していかないとな。
俺達は、カガリさんと分かれ城の中へと入っていった。
「やはり来たか。」
大広間の扉を開くと、少し焦げたような独特な臭いを感じた。
そこには胴着を着たナタが待ち構えていた。
「意外だった。カガリが来ると思っていたが。」
「残念でした。あんたカガリさん にも 【嫌われている】ようだね。」
「ふん。【嫌われている】……か。それはお互い様じゃないか?」
ナタのオーラがより一層強くなる。
手に持った大きな木刀を構え、戦闘準備に入ったようだ。
「センドーシュ様のもとへ行くのだな?」
「あぁ。リカちゃんを取り戻しにな。」
「それはいけない。ルール違反だ。」
「ルールってのは破るためにあるんだよ。」
「話にならん。ならばここまでだ。いくぞぉぉぉ!!!」
気合の入った咆哮に空気が震える。
これは修行なんかじゃない。
本当の血で血を洗う戦いなんだ。負ければ命を失うかもしれない。
それでもやらなきゃいけないことがある。
助けなきゃいけない人がいるんだ!
「うおおおおおおお!!!」
俺は両手で拳を作り、ガントレットをうち合わせて気合を入れた。
ナタの斬撃が来る。
ガキン!
俺は、左のガントレットでそれを受け止めた。
なんだ?ナタの動きがよく見える。
いや、見えるなんてもんじゃない。動きが遅い。
それもそうだ。
俺は、ディード師匠のもとで修行をしていたんだ。
師匠の方が、何倍も早かった。
いける!!
俺は右手に神力を集中させて師匠に教わった、技を奴の横腹めがけて繰り出した。
「【神術解放:剛】!!!!」
しかしその技をナタは寸前のところで回避した。
なに!?
この距離で攻撃をかわした!?
「まだまだ行くぞ!」
ナタは次々に木刀での斬撃を繰り出してくる。
それをなんとかガントレットで受け続ける。
そして、斬撃の隙をついて再度攻撃を試みるが、またもやガントレットは空を切る。
なぜだ?
なぜ当たらない。
ナタのスピードからして、接近戦からの俺の攻撃を避けられるほどの速さではない。
当たる瞬間に避けられているような感覚。
なんだこの異様な感覚は。
「戦い中に考え事など言語道断!」
「ぐはっ!!」
木刀が俺の横腹にクリーンヒットし、飛ばされてしまう。
師匠よりも遅く、強くないはずなのに何故勝てない?
倒れ込みながらも、頭を回す。
じんじんと横腹が痛む。
「どうした?一発で終わりか?これならカガリの方が強かったぞ?」
じわりじわりと寄ってきたナタは、ちょうど月明かりに照らされて姿が鮮明に見えた。
なにか、トリックがあるはずだ……。
カガリさんの言葉を思い出せ。
・100回以上も稽古をしていて、剣が1度も当てられないなんてことがあるだろうか?
・それになぜ、あいつは木刀を使っている?剣の方が強くないか?
現に、剣であれば俺はあの斬撃1発で今頃真っ二つだ。
・あいつは、他の近衛兵と違って鎧を着ていない。
俺達が来ると分かっていたなら装備を整えるはずだ。
・しかもあいつは【嫌われ者】だ。
そうか!!!
「立たないのか?それじゃあこれで終わらせる。」
ガシッ!
ナタの斬撃を左で受け止め、そのまま立ち上がる。
「わかったぜ。お前のトリックが……。」
「ふん。トリックだと?」
「こういうことだよ!!!」
俺は、右手のガントレットを振り落とし拳を強く握る。
「食らいやがれ!!【神術解放:剛】!!!!」
ドゴーーン!!
「お前は、【金属の神に嫌われている】。そうだろ!!」
俺の神術が確実にナタの身体にはいった。
勝ちを確信した俺は、砂埃が消えぬ前に左手を離し、後ろを向く。
「その通りだ……。だが。」
気配を感じて振り返る。
そこには、無傷のナタが立っていた。
「その程度の攻撃では、俺に傷ひとつ付けることはできないぞ。」




