嫌われ者
「大丈夫ですかー?」
右足の痛みに耐えつつ、見上げると美少女がそこにいた。
水色の髪の毛にどこか神秘的な服装をしている。
なるほど、ここは死後の世界でこの子が俺を天国へと連れていってくれるのか。
「あのー……、俺死んだんですか?」
「え?生きてますよ?私とおしゃべりしてるじゃないですか。」
「あはは。天界ジョークってやつね。」
「あははー。頭打っちゃったみたいですね。」
笑顔でクレイジー宣言してくるあたりやはり女の子は怖い。
でもこの子に従わずに地獄とかに連れていかれたら困る。
ここはツッコまないでおこう。
「あー、足折れちゃってるので治しちゃいますね。」
そう言うと彼女はおもむろに折れている右足にそっと手をかざした。
その瞬間、彼女の手が光だし右足の痛みがスッと消えていった。
「え!?どういうこと?痛くなくなったんだけど!?」
「【神力】で治したんです。私は神様ですので。」
「あ、ありがとうございます。」
ドヤ顔を華麗に決めた彼女は、俺を自分の家に連れて行ってくれるようだ。
しかし、まさか自称神様の女の子に助けられる日がくるとは思わなかった。
でも実際に折れた足を治したのだから不思議な力は持ち合わせているようだ。
それにしても、ここはどこなんだろうか?
俺は死んだのか?それとも巷で噂の異世界転生という奴だろうか?
でも異世界転生というやつであれば、転生する際にボーナスポイント的なものを
神様から貰えるのが相場と決まっている。
しかし、そんなものは微塵もなかった。
もし転生したのであれば非常に不利な展開ではないだろうか。
考えにふけっていると彼女はどんどん森の奥の方へ進んでいく。
俺は置いてかれないように考えるのを止めて必死にあとをついて行った。
「着きました。ここが私のおうちです。」
「おぉーー……。」
神様を自称しているので、たいそう豪華なお城に住んでいるのかと思ったが、
森の少し開けたところに小屋が1つ立っているだけだった。
家の周りには、薪を割るための切り株や洗濯ものを干す場所などがあり、
庶民的な生活をしていることが見て取れた。
「遠慮せずに入ってください。ただいまー。」
「それじゃあ失礼しま――」
ドス
ドアから入ろうとした瞬間、
耳の横を包丁らしき刃物が通過し壁に突き刺さった。
「てめぇ誰だ!?ふざけた臭いプンプンさせやがって!」
「うえぇぇぇぇぇ!?」
いくら嫌われ体質の俺でも、
出会って数秒しか経っていない人にここまで嫌われたのは初めてだ。
前を見ると、神父の格好をした金髪で右目に傷の入ったヤンキーがそこにいた。
コンビニの前でたむろってたら他のコンビニを探そうと思えるくらいの迫力だ。
というか、刃物投げてきたよこの人!?
「クロムいけません!この人は私のお客さんですよ!」
「し、しかしリーリィ様。こいつの【嫌悪臭】は異常ですよ?
こんな奴見たことありません。」
「失礼ですよクロム!お客さんに対して臭いだの、この世からいなくなれだの。」
「あのー……、そこまでは言ってないような……。」
「てめぇは黙ってろ!!」
その後も二人で揉めていたようだが、なんとか丸く収まったようだ。
どうやら僕の足は完全には治っていないらしい。
完治するのにあと2日間ほどかかるようで、
それまではここに置いてくれるようだ。
その夜は、なんとか揉めることなく俺をもてなしてくれた。
そこで、俺たちは色々なことを話した。
「私は、リーリィ。【幸運の神】を受け継いで、今は修行中なんです。」
彼女曰く、
万物は神様の管理によって形や能力を保っているのだそうだ。
銃や剣のような形のあるものから幸福といった概念的なものにまで、
もれなく神様が散在し、世界を構成している。
彼女はその中でも【幸運の神】を代々受け継いでいるそうだ。
つい最近、母親を亡くし神様の力を受け継いだと言っていた。
「俺は、クロム。リーリィ様を守るために雇われた神父だ。
お前臭いからあんまりリーリィ様に近づくんじゃねぇぞ。」
彼は、見た目こそヤンキーそのものであるが、れっきとした神職者らしい。
神様には一人、神職者が護衛として雇われているそうだ。
そして、彼がさっきから俺を臭い臭いと言っているのは、、、
「お前、相当神様に嫌われてるぞ。神職者は神様に嫌われている臭い、
【嫌悪臭】が分かるんだよ。こんなくせぇ奴初めてだよ。」
神様に嫌われている人は、【嫌悪臭】というものを放っているそうだ。
これは一種の呪いのようなもので、様々な副作用があるらしい。
例えば海の神様に嫌われていれば、海で溺れるリスクが格段に上がったり、
台所の神様に嫌われていれば、料理が上手くいく確率はほぼ0に近いなどなど。
そういえば、俺は電車で席に1度も座れたことがないし、
エレベーターには10回以上も閉じ込められたことがある。
シャーペンはよく逆に持って指に芯が刺さるし、テレビの電波はよく途切れる。
まだまだあるぞ? みかんの皮は絶対綺麗に剥けないし、
靴ひもはすぐ切れるし、牡蠣にはよくあたる。
あ、俺相当神様に嫌われてるわ。よくここまで生きてこれたよ。
「てめぇが嫌われてようが、知ったこっちゃないが、
【嫌われ者】と一緒にいるとこっちの身が危ねぇからな。」
そう。問題はここからである。
神様に嫌われていると不利益を被るのは仕方ない。だって嫌われているから。
でも【嫌われ者】は、この世界では賞金首のような扱いを受けているらしい。
神様に嫌われている【嫌われ者】を殺すと、
嫌っていた神様から恩恵を受けることができるらしい。
嫌っている奴を倒したのだから、それは納得できる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!じゃあ俺ってもしかして、命狙われてるの?」
「うん。すごく。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
異世界生活1日目にして、自分の命がやばいことを知ってしまった。