金の成る街②
「でもいいんですか?高そうなガントレットをただでいただいちゃって。」
「ええ。でもその代わり条件があります。」
「条件?」
「今すぐこの街から出てください。」
「え?」
カガリさんは、真剣な顔で条件を提示してきた。
この街から出てけ?なんでそんなことを?
「パパまた旅人さんに意地悪してる!」
「意地悪じゃないよ。どうかお願いです。深夜0時までには必ずこの街から出てください。」
俺の【嫌悪臭】のせいだろうか?
でも、カガリさんは見たところ神職者でも無さそうだ。
「0時を過ぎるとなにかあるんですか?」
「それは――。」
カランカランカラン
カガリさんの言葉は鐘の音に遮られた。
「センドーシュ様のご帰還だー!皆の者、御出迎えだー!」
外から大きな声が聞こえる。
「外に出てください。リカも行くよ。」
俺たちはカガリさんに言われて外に出された。
外に出ると街中の人が家から出てきていた。
こんなに人がいたのか。
門の方から、馬車とそれを先導する馬に乗った騎士のような軍勢が街に押寄せる。
「センドーシュ様ー!!」
「お帰りなさーい!」
街の人々は、歓喜の声をあげてお祝いする。
すると、馬車からおじさんが出てきた。
間違いない。銅像の人、センドーシュだ。
「皆さん。私の留守中、何か変わったことはありましたかな?」
姿を見せた瞬間の街人の黄色い歓声が沸く。
ハッキリ言って異常だ。
すると1人の男が前に出た。
「センドーシュ様!私の妻、メリーヌが無事子を授かることができました!これもすべてセンドーシュ様のお陰でございます!」
「おぉー。それはおめでたい事ですね。懐妊祝いです。受け取りなさい。」
「ありがとうございます!」
センドーシュは、金貨がパンパンに入ったずた袋を男に手渡した。
それを見た街人は、私も私もとアピールを始める。
収集のつかない異様な光景に、驚きを隠せない。
その後、センドーシュは金貨を配りまくった。
そして、
「本日は、旅人の卜部さんとリーリィさんがこの街に来てくれています。しっかりとおもてなしをする様に。おもてなしをした民には、褒美を用意していますよ。」
「わぁー!!」
「おぉ、そこにいましたか。旅のお方。」
センドーシュは周りを見渡して俺たちの発見した。
街中の人の顔を覚えているのだろうか。
「宿屋のペリネさん。この方々を最高のお部屋に泊めてさしあげない。宿泊代の10倍を私が払います。」
「いえ、そんなことしていただかなくても!」
「いえいえ、リーリィさん。ここは私の街です。素敵な思い出を作って欲しいだけなのですよ。」
最初の街人の熱気で気圧されていたが、思ってたより良い人かもしれない。
「それと、カガリさん。リカさん大きくなりましたね。奥さんそっくりだ。」
センドーシュはわざわざカガリに近づき、耳元でそう言った。
カガリさんは震えながら感謝の言葉を述べた。
感極まってしまったのだろうか?
そうしてセンドーシュは、街の奥にある自分の城へと帰って行った。
パレードも終わり、一息ついたところで街人達が一斉に俺たちの方へと向かってきた。
「あんたが旅のお方かい?うちのお店においで!安くしとくよ!」
「うちの劇場で今から演劇をするんだけど見てってよ!」
なんか人気者になった気分で悪い気はしない。
こうして俺達は、街人に勧められるがままリアパークで様々な娯楽を堪能した。
「はぁー。楽しかったね。」
「はい。でもいいんでしょうか?ほとんどお金を払っていませんよ?」
「センドーシュ様がお金出してくれるんだしいいでしょ。」
センドーシュが宿泊代をおごってくれた最高級の部屋で一息をついていた。
最高級というだけあって非常に過ごしやすい。
人をダメにするクッションが2,3個転がっており、尻と足の贅沢2個使いを堪能している。
「なにか忘れているようなきがするのですが。」
「んー?別によくない?明日考えればー。」
完全にだらけモードに入ってしまって、思考を放棄している。
ガシャーン
そのとき、机に置いていたガントレットが床に落ち音をたてた。
「うわぁ!?ってなんだ、ガントレットか。……あ!」
「思い出しました!カガリさんが、深夜0時までにはこの街を出ろって。」
「でも、なんでだろうね?」
「もう1度ちゃんと聞いておきましょうよ。お代もただにしてもらったんですから!」
「わかったよー。」
まだ夜の8時だ。
ゆっくり事情を聞きに行って、緊急性がなければぜひここで一晩泊まりたい。
「こんばんはー。カガリさんいますか?」
「まだこの街にいたんですか!?」
カガリさんは、俺達が無事街を出れたか心配になってずっと店番をしていたそうだ。
でもなんでそんなに心配することがあるんだろう?
「門は9時に閉まります。急いでください!」
「ちょっと待ってください。どうしてそんなにこの街から俺達を出したいんですか?」
「この街は危険だからですよ。」
「危険って?こんなに良い街じゃないですか。」
カガリさんが心配する理由がわからない。
人は良いし、食べ物はおいしい。娯楽だってたくさんある。
街として申し分がない。
カガリさんは、怖い顔を辞めずにこう言った。
「よく聞いてください。この街で一晩過ごしてしまうと、もう一生ここから出ることは出来ません。」




