修道院⑥
修行5日目
昨日、俺はディードさんの攻撃を1発受けきれたことがきっかけで、戦いのコツを掴み始めた。
2発、3発と順調に攻撃を受け流していけるようになった。
しかし、コツを掴むと同時に意識を失うことがなくなってしまった。
意識を失わないということは、攻撃による痛みがずっと続くということである。
攻撃を受け流すといってもディードさんの拳は凄まじく、腕の1本や2本簡単に折れてしまう。
その痛みに耐えながら俺は、戦いを続けていった。
そして、驚くことがもう1個あった。
これまでは、気を失っていたので分からなかったがハンナさんは【癒しの神様】らしい。
俺の傷を癒してくれていたみたいで、そのことはなんとリーリィも知っていた。
「どうして神様だって身分を隠しているんですか?」
「ハンナの癒しの力は最強だからな。力欲しさに害虫どもが集まってきやがるんだよ。」
「最強なんて、そんなことありませんよ。生きる希望が死んでしまった人の傷は癒せませんから。」
「守るくらいは朝飯前なんだが、ガキどもが怯えるからよ。」
ハンナたちは、俺の腕や足の傷を癒してくれながら話してくれた。
ディードさん、意外と優しいんだな。
「それにしても、メキメキと戦いのセンスが磨かれてるな。」
「え?やっぱりそうですか?」
「まぁ回路は開通してないがな。」
「あはは……。」
結構な数の神力のこもった打撃を受けているんだが、いまだに回路が開通しない。
どうなっているんだ。
「リーリィは元気にしてますか?」
「えぇ。今も子供たちの相手をしてくれているわ。」
「あの子も修行頑張ってんだからこっちも頑張らなくちゃな。」
「修行?子供たちの相手をすることがですか?」
「神力は、鍛錬によって磨かれるけど、信仰や愛情による蓄積がもっとも重要なのよ。」
「子供たちに愛されることで、あの子の神力も上がってるってわけだ。さぁこっちも負けねぇように修行再開するぞ。」
「押忍!」
やる気を入れ直して闘技場へと戻ったが、結局この日も回路が開通することはなかった。
修行6日目
修行は今日を入れてあと2日。
本当に出来るのだろうか?
回路を開通しなければ、リーリィから神力を受け取ることもできず、神職者にもなれない。
それでは、リーリィを守ることができない。
何があってもやり遂げなければならないんだ。
考えれば考えるほど焦りは募るばかり。
焦りからか、動きが鈍くなってしまう。
「どうした?今日は動きが悪いぞ?便秘か?」
「違いますけど……も!」
最初とは比べものにならないくらいに動けてはいる。
少しなら攻撃を受け流しながらしゃべることもできる。
「俺、神職者になれますかね?」
「んー。しらん。こればっかりは適性ってもんがあるから……な!」
「うぐっ!!」
しゃべりながらやっていると5発に1発くらい痛いのを貰ってしまう。
しかし、今回のはいつもと違った。
「オエエエ。」
「おいおい。大丈夫か?」
俺は、ディードの一撃で嘔吐してしまった。
ディードさん曰く、身体に神力が満ちていて行き場を失っているようだ
「今日は、ここまでにしよう。身体が拒否反応起こしてんだよ。その状態は危険だぞ。」
「いえ……、満ちてるんならチャンスですよ……。続けてください……。」
「だめだ。俺はそれで死んだ奴を何人も見てきた。続けられねぇ。」
そういってディードは背中を向けて地上への階段へと向かった。
だめなんだ。このままじゃ、何も守れない。
リーリィも、クロムとの約束も!!
「お願いします!!!続けさせてください!!!」
ボロボロな身体で俺は土下座で頼み込む。
こうでもしないとやってくれない。
ディードさんは優しいから。
「ちっ。わかったよ。あと1回だけだ。それ以上はやらない。いいな?」
「はい!!ありがとうございます!」
こいつの根性には、正直驚いた。
初日のあの怯えようから正直、こいつには無理だと思っていた。
生半可な気持ちで守るだなんて調子にノッているとさえ思っていた。
だが、今は違う。
こいつならきっとやり遂げる。そんな気持ちさえ湧いてきやがる。
でもあんだけ神力を籠めた拳で殴っても回路が開通しねぇ。
もしかすると、【回路の神様】に嫌われているんじゃねぇか?
もしそうだったらよ、神さん。
こいつを許してやってくれねぇか?
こいつは頑張ってんだ。
命をかけて強くなろうとしてるんだ。
誰かを傷つけるための力じゃねぇ。
誰かを守るための力を得ようとしてるんだ。
神さんよ。こいつを許してやってくれねぇか?
「こぉぉぉぉぉぉい!!!!」
「ふっ。よっしゃ!今世紀最大のをお見舞いしてやる!!!歯食いしばれ!!!」
「押忍!!!!!!!」
「うぉおおおおおおおおお!!!!!」
ドゴーーン!!!!
ディードの青く輝いた拳が、俺の腹へと直撃する。
俺は全ての力を込めてその一撃を受け止めた。
そのとき、俺の身体が青く光り出した!
体中の血液がぐるぐると巡るのを感じる。
「こ、これは……。」
「へっ。やっとか。遅いんじゃねぇか?開通だよ。」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は喜びのあまり、その場で倒れこんでしまった。
やり遂げたんだ。俺は、これで神職者になれるんだ。
やったぞ。クロム。お前との約束、守れそうだ。




