最終決戦⑫
「終わりだよ。ノーネーム。」
「くそがぁあああ!!!」
「【神術解放:業・極】!!!」
俺は金色に輝く神力を拳に込めて、ノーネームへと拳をぶつける。
拳がノーネームの身体に触れた瞬間に、金色の神力がノーネームという
不浄なものを浄化していくのがわかった。
「やめろぉおおおお!!!」
「終わりだぁああああ!!!!」
俺は拳を全力で振りぬく。
ダァンッ!!!!
ノーネームは金色の光に包まれて、身体が徐々に消えていく。
「くそがぁ……!!」
「勝負あったな。ノーネーム。」
ノーネームは倒れこみながらもこちらをにらみつける。
その顔はまだクロムのままだったが、決してクロムがする表情ではなかった。
「くそ……!!身体が消えていく……。」
これでやっとクロムを解放することができる。
あの夜に小屋で俺達を守ってくれてからずっとこいつに顔を使われていたんだ。
俺は倒れこむノーネームを見下ろしながら考えた。
もしかするとノーネームの中にクロムがまだいたから、
俺を励ましに何度か俺の目の前に現れることができたのかもしれない。
それなら、これが本当のさよならになるのか。
そんなことを考えていると、目の前にクロムの姿が映った。
寂しくなんてない。
俺は強くなったんだ。
あの夜、クロムに頼まれた約束。
「リーリィ様を頼んだぞ。卜部。」
あの時は、しっかり返事できてなかったよな。
今なら面と向かってはっきり言える。
「任せとけ。」
俺がそういうと、クロムは優しく笑い掛けた。
そして、クロムが何かを話そうと口を開いた瞬間、
「終わりだよ。」
ノーネームの声が響き、クロムの姿は消えてしまった。
「もう全部終わらせる。僕も君たちもこの世界も!
ぜーんぶ無くなっちゃえばいいんだよ。この選択をさせたのは君さ。
卜部、あの世で後悔するんだな。」
ノーネームの魂が消えかかっているからなのか、
途中からクロムが話しているかのように聞こえてしまった。
「な、なにをする気だ!?」
「世界は終わらせんだよ、卜部。わくわくすんだろ?」
クロムはそんなこと絶対に言わない。
分かっているのに、徐々に目の前のノーネームがクロムに見えてくる。
「せいぜいあがきな。【禁術:行疫飛花】!!」
パァンッ!
ノーネームが術を唱えると、世界の色が一瞬だけ反転する。
黒は白に、白は黒に。
これは【大罪の悪魔】が使っていた【穢土掌握】と同じ現象!?
世界の色が元に戻ると、ノーネームの後ろに大きな扉が現れる。
その扉には人間には理解できないが確実に精神を蝕んでくる
得体のしれない絵が彫刻されている。
「うっ……。」
リーリィはその扉を直視してしまい、嘔吐してしまう。
「リーリィ!?大丈夫か?」
「は、はい……。なんとか……。」
なんなんだ……?これは……?
肌に感じる異質感はもちろんだが、
目にすることさえ赦されないような禁忌の扉。
その扉がゆっくりと開いていく。
「さぁ!!終わりの始まりだぁ!!」
扉の開いたすき間から、闇が漏れてくる。
今までに感じたことのない邪悪さで、
触れただけで死んでしまうことが直感で理解できた。
「ははは!!楽しもうじゃねぇか――!?」
ガシッ!
その時、扉の中から腕が伸びてきてノーネームは掴まれてしまう。
「おいおい。ご主人様に歯向かう気か?」
ゴゴゴゴゴゴッ
扉の中にいる何者かの気配によって世界が震えている。
そして、扉が開かれ中から巨大な悪魔が姿を表す。
「ガァアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
巨大な悪魔は扉から顔と手だけを出している。
これだけ大きな扉でも顔と手しか出せないのか!?
徐々にどす黒い闇が外の世界に流れてきている。
悪魔は赤ん坊のような見た目をしており、知能もそこまでなさそうだ。
「さぁ、ショーのはじまりだ。」
すると、ノーネームは掴まれていた悪魔の手を切り刻み脱出する。
「アガアアアアアアアアアア!?」
悪魔は痛みに泣き叫ぶ。
その声は【絶望の悪魔】に匹敵する大きさだ。
「【魔術:縫合Ⅳ】」
ノーネームは術を唱えると、身体から管のようなものいくつも現れ
悪魔の顔面に突き刺さる。
「俺と一つになれ、【疫病神】。」
すると、管は縮み悪魔の額にノーネームがめり込んでいく。
「な、なにをしてるんだ……?」
「アァアアアアアア!!!」
相当の痛みがあるのか、【疫病神】叫び続ける。
ノーネームは自ら、【疫病神】とひとつになろうとしている。
人間の姿を捨てて化け物になろうとしているんだ。
グチャグチャというえぐい音と泣き声が響き、地獄のような空間と化す。
そして完全にノーネームの身体が【疫病神】の中に取り込まれたとき
【疫病神】の鳴き声はぴったりと止まった。
そして、眼球がぐるりと回転した。
「フフフ……アーッハッハッハ!!!」
先程まで叫ぶしかできなかった【疫病神】がいきなり笑いだす。
「適合した!これが【神】の力か!素晴らしい!!」
見た目は巨大な化け物でも中にノーネームがいることがすぐにわかった。
その声がクロムに聞こえてしまうのが非常に腹立たしい。
「それじゃあ終幕だ。世界を疫病で充満させる。
お前たちだけじゃない。この世界の命あるものはすべて滅びる。
それがこの世界の最後だ!!!」
【疫病神】は口と目を見開き、黒い闇を放出させる。
この闇に触れてしまったらみんな一瞬で死んでしまう。
俺がやらないと。
みんなを救うんだ。
「させるかよぉおおおおおお!!!!」
俺は身体の中にあるすべての神力を放出する。
金色に輝く神力はオーラのように俺の周りに広がっていく。
そして【疫病神】が放出する闇とせめぎあう。
ここで負けたらすべてが終わる。
絶対に、絶対に負けねぇ!!!




