最終決戦④
「ばれちゃった~?」
目の前のクロムの顔をした偽物が、舌をだらしなく放り出した。
こいつはクロムじゃない。
クロムは俺が最初に異世界に降り立った時に
面倒を見てくれたリーリィの元神職者だ。
クロムはリーリィを正式な神様にするために神殿を目指して旅をしていた。
その旅の途中に見つけた小屋で修行をしていたんだ。
そこに俺はお世話になった。
しかし、突然顔面が縫われているツギハギの男が小屋に入ってきた。
こいつは糸や針を操り他人の部位を奪い、
自分の身体に縫いつけている異常者だった。
そいつは、【神殺し】を行い神の力を自分のものにしていた。
リーリィを守るため、クロムは俺達が逃げたことを確認した後
【不完全燃焼】という技で自爆特攻を行った。
その技でこいつも一緒に死んだのだと思っていた。
しかしそうじゃなかった。
こいつはクロムの攻撃をなんとか耐えて、
クロムと自分の身体のまだ使える部分をかき集めて身体を再構築したんだ。
こいつだけは絶対に許せない。
俺が……、俺とリーリィがこいつを絶対に倒す。
「僕、狙った獲物は絶対に逃がさない主義なんだよねぇ~。」
「【神術解放:豪】!!」
「おっと。」
俺はツギハギの男の言葉を無視して全力で殴り掛かる。
しかし、距離を取られてしまう。
「クロム……。まさか、【神殺し】!?」
「【神殺し】!?なら、討伐に向かった大勢の神たちは……?」
【大罪の悪魔】たちとの戦いが始まる前に、
【神殺し】討伐の為が大勢の神たちが出動していった。
その神たちは3日経っても神殿に戻ってきていない。
「あぁ。なんかこの前、神様がいっぱい来てたね。全部食べちゃったよ。」
ツギハギの男は大げさにお腹をさする。
「そ、そんな……。」
「でも大丈夫。すぐに会えるよ。君たちも、もうすぐ死ぬんだからさ。」
ツギハギの男の後ろから、無数の糸がオーラのように浮遊しだす。
【絶望の悪魔】と対峙した時よりも強く、命を危機を感じる。
足がすくみ、その場を動くことができない。
「ハンナ!俺を治療しろ!あいつら二人だけじゃ敵わねぇ!」
「は、はい!」
「あー。邪魔しちゃだめだよ?」
ビュッ!!
糸が折り重なり、腕のような形となってハンナへ向かってくる。
「あぶない!!」
ディードはハンナを突き飛ばし、その腕からハンナを守る。
その瞬間、糸の腕はほどけディードの身体にぐるぐると巻き付く。
そしてその糸は一瞬にして硬直し、ディードを捕獲する。
顔以外が固い繭のようなものに覆われて身動きが取れない。
「クソッ……!動けねぇ!」
「ディードさん!」
ハンナはディードの元へと駆け寄り、神力でこじ開けようとする。
しかし、びくともしない。
「それじゃあ狩りを再開するとしよう。お二人さん、お名前は?」
「卜部。」
「リーリィ。」
「いい名前だねえ~。まぁ覚える気はさらさらないけどさ。」
ツギハギの男は指で輪っかをつくり、そこから俺達を覗き込む。
「僕に名前はない。適当にノーネームって呼んで。別に あああ でもいいよ?」
「うるせぇ。その顔でくだらねぇことしゃべるな。」
「この顔嫌いかい?僕気に入ってるんだけどなぁ~。馬鹿っぽいところとか?」
「てめえ!!【嫌悪解放:持たざる者】!!」
ドガーーーンッ!!
俺は怒りに任せて、【持たざる者】を発動しノーネームに殴り掛かる。
しかしその拳は糸が折り重なった壁で受け止められる。
「しー。まだ僕が話してる途中だよ?」
ノーネームが自分の口に人差し指を当てる。
すると、突然声が出せなくなった。
これは【沈黙の神】を殺したことで得た能力。
最初にこいつと会った時から身に着けていた能力だ。
だから、驚いたりしない!【神力解放:豪火】!!
拳に纏った炎で糸の壁を焼き尽くす。
やはり、糸と炎では相性が良いようだ。
糸の壁を破壊して、拳をぶつけようとしたがそこにノーネームの姿はない。
「こっちだよ~。」
「上か!?」
ノーネームは糸の壁の死角を利用して大きく飛び上がっていた。
そして、上から攻撃を繰り出してくる。
「【魔術:縫合Ⅰ】。」
空中に大きな針が出現する。
これは、最初の戦いでクロムを串刺しにした技だ。
「【神術解放:鼇】!!」
俺は防御の術を腕に宿し、
その技を受け止めようとしたがその針が目の前から消えた。
「これは【大気の神】からの贈り物さ。」
グサッ!!
「ガハッ……!!」
「卜部さん!!!!」
「【贈り物:蜃気楼】。」
巨大な針が、俺の身体を下から貫通した。




