最終決戦③
「久しぶりだな。卜部。」
「クロム……?」
俺達に向けた拳を粉々に切り刻んで、ある男がこちらを振り返る。
クロムなのか?
クロムは俺が異世界に降り立った時、
リーリィと一緒に俺の面倒を見てくれた男だ。
でも、クロムはあの時の戦闘で命を掛けて俺達を守ってくれた。
生きていたのか……?
「クロム……。」
リーリィが驚きを隠せないようで、ヨタヨタとこちらに寄ってくる。
それを見てクロムは優しく微笑み、【絶望の悪魔】の方へと飛んで行った。
クロムの動きは流星のように素早く、【絶望の悪魔】を攪乱する。
奴は、動きに合わせて攻撃を放つがかすりもしない。
そして一瞬のうちに頭のてっぺんまで到達し、上から下へ拳を振るう。
先程の俺の攻撃とまったく同じだ。
「でけぇんだよ。座れ。」
ドゴーーーンッ!!!
動きは、まったく同じだったが威力が段違いだ。
一撃で【絶望の悪魔】を地面に這いつくばらせる。
「グガァアアアアア!!!」
【絶望の悪魔】が痛みに吠える。
クロムは奴の頭に着地と同時に強烈な蹴りを入れる。
圧倒的な力で怪物をねじ伏せている。
「卜部、あいつはお前の知り合いか……?」
あのディードさんですら、その戦いぶりに驚いている。
「ハンナさん。急いで俺を治してくれませんか?」
「は、はい。いいですけど。あの方が倒してくれるんじゃ……?」
「本当の戦いはその後です。」
【絶望の悪魔】は顔を上げて、クロムに向かって魔光線を放つ。
クロムは避けることなく、手でそれをはじいた。
「小細工なんかすんじゃねぇ!」
ドゴンッ!!!
クロムの拳が【絶望の悪魔】の顔面にクリーンヒットする。
「ゴガァアアアア!!!」
悲痛の叫び声が響き渡る。
先程まで俺達を苦しめていた奴の声とは思えない。
【絶望の悪魔】は溜まらず、立ち上がり空へと逃げようとする。
しかし、クロムはそれを逃がしはしない。
「どこ行くんだよ。」
一瞬のうちに追いついてしまう。
【絶望の悪魔】は驚き左手で殴り掛かるが、一瞬にして左腕も切断されてしまう。
「グギャアアアアア!!!」
クロムは腕に何も刃物を持っていないのに、何故切れるのか。
それほどまでに素早い腕の振りをしているのだろうか?
俺はハンナさんに治療してもらいながら、クロムの戦いを眺めている。
あの小屋で別れたクロムが目の前で生きて戦っている。
こんなに嬉しいことはない。
でも、俺とリーリィは決して笑っていない。
リーリィは治療中の俺の腕を無言で掴んで、神力を送り続けてくれている。
きっと、いま俺達は同じことを考えている。
もしそれが本当に起きていることなのであったら、ここで終わりにしないと。
ただただ、そう思うばかりだった。
「これでトドメだ。【神術解放:完全燃焼】!!」
ドガーーーーンッ!!!!
クロムの放った一撃で、【絶望の悪魔】は大爆発を起こす。
この爆発で、生きていることはまずないだろう。
爆発の煙の中、クロムがこちらに歩いてくる。
「倒しやがったぞ……。」
「すげぇ!!あいつやるな!」
「最強の戦士ギョギョ!!」
仲間たちは、まるで救世主のようにクロムを迎え入れる。
しかし、俺とリーリィが前に出る。
クロムはそれに気が付き、ゆっくりと右手を差し出してくる。
「よぉ。久しぶりだな。ちょっとは戦えるようになっ――。」
バチンッ!!!
俺は全力で差し出された右手を払いのける。
「な、なにすん――。」
「黙りやがれ……。このツギハギ野郎……。」
「……。」
クロムは払いのけられた右手を見つめている。
仲間たちも不穏な空気を感じ取ったようだ。
ゆっくりとクロムは右手から俺達に目線も動かす。
そして、舌をだらしなく口から放り出した。
「ばれちゃった~?」




